第5話『人ログ』と犯罪者
「姉上殿」
「はい。ご主人様」
「コタツから出たくないのでソフトの交換をお願いします」
「かしこまりました。ご主人様」
姉上殿がブラウン管テレビの前にあるレトロゲーム機のソフトを取り換える。畳に膝をついて左手もついて。レースゲームのソフトを探す。すごく短いスカートに黒のハイヒール。見えそうである。レースゲームのソフトを見つけて格闘技ゲームのソフトと入れ替えるが、画面がフリーズしている。ソフトを取り出し、かわいらしいお口で『ふーふー』と風を送り、ほこりを飛ばす。ソフトを入れなおすと画面にタイトルが正常に映る。
「見えそうですよ。姉上殿」
「やめてください。ご主人様。書きこみますよ」
「え?僕は覗いてないですよ。見えそうだっただけですよ。僕、悪いことしましたか?」
「そういうことは黙っているのが正解だと思います。ご主人様。見られたいから短いんです」
「そうなんですか。でもゲームはいいですね。ハッキリしてて分かりやすい。勝ち負けが明確じゃないですか」
「そうですわね。ご主人様は『ガチ』モード好きですからね」
姉上殿がコタツに入り直し、レースゲームを始める。
「でも、ゲームもそうですが数字は正直ですよね。世界記録もすべて数字じゃないですか」
「そうですわね。ご主人様。百メートルの世界記録もコンマ単位で正確です。誰が見ても分かりますね。一番速い方は確実にその方になりますね。あ、でも参加しない方もいらっしゃる可能性もありますよね。実際には百メートルを二秒ジャストで走られる方もいらっしゃる可能性はあるかもしれませんね。ご主人様」
「姉上殿。赤い方の車を選んでいいですか?」
「いいですわよ。ご主人様」
「『ガチ』ですよ。でも百メートル二秒は無理でしょう。でもまあ数字としてハッキリわかるものは正確ですね。でも『味』とかって数字出せます?」
「もちろん『ガチ』ですよ。ご主人様。そうですね。『味』の数字は無理です。味覚は人それぞれかと思いますわ」
「ですよねえ。あ。姉上殿…。ターボスタートはずるいですよ」
「あらそうなんですか?ご主人様。『ガチ』だとターボスタート必須ですわよ。出来ないんですか?」
「十回に二回ぐらいですかね」
「五回に一回の方が分かりやすくないでしょうか?ご主人様」
「…、そうですね。でも亀投げまーす」
姉上殿が操作する車に亀が直撃してクルクル回ってしまう。
「ご主人様は亀出せるんですね!私は出せませんよ」
「そうなんですか。さあこれからですよ。それで『人ログ』は本当に『立派な正義』なんですかね?僕は常々そればかり考えてしまいます」
「そうですね。ご主人様。他にも犯罪者には数えきれないほどの星一つ評価がつけられますよ。そうなるとまず出所しても住居が特定されます。書きこまれますからね。お隣に大量の星一つの人が引っ越して来たら大変じゃないですか。不動産屋さんも物件を紹介しないじゃないですか」
「そうなりましたね。あ」
バナナの皮を踏んでスピンするご主人様が操作する車。
「さあこれからですわよ。ご主人様。それでも一生懸命更生しようと償いの日々を過ごせば星の評価はじわじわと上げることもありました。ひとりの人間の罪を自らで心から懺悔し更生しようと犯した罪を償い続けるなんて『人ログ』が『立派な正義』である証ではないでしょうか?」
『人ログ』は絶大なる力を持った。男女の会話は続く。
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