第4話『人ログ』と政治

 畳六畳の上に男女が二人。今では珍しいコタツにミカンとブラウン管のテレビ。テレビゲームをやりながら何か話をしている。


「姉上殿」


「はい。ご主人様」


 寝ぐせにアニメ柄のTシャツを着た若そうな男とメイド服を着た女。二人ともコタツに足を突っ込んで座椅子にもたれかかっている。


「人様に点数をつけれるほど人は偉いんですかね?」


「どうでしょうかね。でも学校の成績とかお受験とかボーナスの査定とか。どうしても優劣をつけなければいけない場面もあると思いますね。ご主人様」


 ブラウン管に映された画面でメイド服を着たかわいい『姉上殿』と呼ばれる女が操るキャラが『ご主人様』と呼ばれる男の操るキャラを倒す。


「あ。もう一勝負です。姉上殿」


「いいですわよ。ご主人様。ハンデつけましょうか?」


「ハンデはいりません。でも僕は学生時代、お勉強は出来ましたがスポーツはからっきしでした。でも五段階評価で数学や物理もすべて『5』の評価でしたが、どさくさに紛れて保健体育の成績も『5』でした。何故でしょう?」


「それはきっと学校の成績表は全員に『5』をつけられませんので。『5』の数も『1』の数も決まってます。大学へ推薦の可能性のある人に『5』を優先するのが常識ではないでしょうか?ご主人様」


「そうなんですか?あ」


 またもや負けてしまう男の操るキャラ。


「ご主人様は弱いですね。接待モードでやりましょうか?」


「いえ、『ガチ』でもう一勝負です。それで『人ログ』は一部の人にはボロクソ言われてますが。僕らがやってることは『悪』なんでしょうか?」


「どうでしょうかね。ご主人様。でも『先生』は私たちの仕事は『立派な正義』と言ってくれてます。立派な『先生』がそうおっしゃってくれるなら『悪』ではないと私は思いますかね。ご主人様」


「そうなんですか?でも『先生』は僕らを『利用』しているような気もしますが」


「それはどうでしょう。確かに『人ログ』は選挙にも絶対的な力を発揮してます。今までのように街頭演説などで必死に唱えている魅力的な公約を聞くより、『人ログ』の評価を見ればすぐに判断出来ますからね。嘘をついて当選しても『人ログ』はその嘘を評価しますので。公約を破れば次はありませんからね。政治に疎かったり、無駄な一票だと投票にいかなかった層も減り、投票率も上がりましたからね。そういう面でも『人ログ』は『立派な正義』なのではないでしょうか?ご主人様」


「でも『先生』はなんか怪しいですよ。あ」


「『ガチ』モードですから。どうします?ご主人様」


「もちろん『ガチ』でもう一勝負です。キャラを変えます」


「じゃあ私も」


 『人ログ』サイトは登録さえすれば『人』を五つ星で評価できる。『人ログ』サイトは政治もクリーンにした。強い信念と考え方を持っている人以外、どんなに魅力的な公約より高評価の人間に投票する。虚偽の評価が発覚すれば退会処分である。評価はより慎重になり、おのずと正確になる。そしてこの『ご主人様』と呼ばれる男と『姉上殿』と呼ばれる女は運営の人間である。


「あ。うーん。今度はレースで勝負しましょう」


「いいですわよ。ご主人様」


 畳六畳の上にコタツとミカンとブラウン管のテレビとレトロゲーム。会話は続く。

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