第2話『人ログ』の誕生

 『人ログ』は民間企業が運営している。ただ、最初に『人ログ』サイトが世に出た時は大きな社会問題となった。世論は真っ二つに分かれた。それを良しとする考えとその逆の考えとに。それぞれの意見はこうだ。


 肯定派の意見。


・今まで散々、頼んでもないのに好き勝手な評価をしてきて。いざ、自分が評価される側になるとそれはダメというのは卑怯だろ。その理屈は通らないだろう。(主に今まで評価される側だった人たち。飲食店経営者で勝手に低評価をサイトに書かれた人など)


・このサイトがしっかり機能すれば、ネット社会である現代のモラルが見直されるのでは。どんな人だろうと誰かしらが『見ている』から、下手に悪いことは出来なくなるし。犯罪や悪事の抑圧効果になるのではないか。


・そもそも後ろめたいことをしなければ悪く書かれることもないだろうし、例え自演的な評価をしたとしても、その人をよく知る人間がそれを否定する評価をするだろう。結果、平均値を取ればその人の適正な人間性が知ることが出来、人付き合いをするにはとても参考になるのではないか。


・『反社チェック』として優秀な役割を果たすのではないか。


・立派な人が評価されていいではないか。


 など。


 否定派の意見。


・個人のプライバシーが守られないじゃないか。


・そもそも『人間』とは実際に付き合ってみないとその人のことなんか分かるわけがないじゃないか。


・これまでの評価サイトは『金銭』が発生する『商品』に対しての評価であり、事前にそれを知ることで『金銭』を無駄に浪費することを防ぐ利便性があった。それを『金銭』が発生しない『人間』を評価することはナンセンス以外なにものでもないじゃないか。


・下手しなくても『冤罪』が存在するように、『間違った評価』をされた人はどうするんだ?その人の人生をめちゃくちゃにしてしまうのではないか。


 など。


 双方の意見は客観的に見ればすべて正しい。そして反論を与える隙も存在する。絶対的に国民が納得する意見は出なかった。マナーやモラルは理想論であり、そこに利便性や民間企業が運営するため『金銭』が発生することもあり。また、この国ではそれらを規制する『法律』も整っていなく。これだけの先進国であり、経済大国なのに現代社会に適応する『法改正』にはものすごく腰が重たいこの国は結果、国民の声を真剣に聞こうとせず『人ログ』の運営を認めてしまった。もう一つの『人ログ』の運営が認められた理由はごく僅かの人間しか知らない。そのもう一つの理由は単純にその『人ログ』を運営する民間企業のバックに大物政治家がついたからだ。この国の企業は政治家をバックにつけることが出来れば強い。都市伝説のようだがそれが現実。

 これまで国民は好き勝手にいろんなものを『頼んでもいないのに』勝手に評価してきた。飲食店に始まり、家電製品やわざわざ自分が欲しくて購入した商品、宿泊施設、就職先や転職先の企業、映画や漫画や小説や音楽、スマホのアプリ、AVや風俗店までも。

 サイト設立当初は甘い考え方の人が多かったのも事実だった。


「ウィキペディアじゃあるまいし。有名人ならいざ知らず、普通の人である凡人なんか書かれないだろう」


 とか、


「『あの人がこんないいことをしていた』とか肯定的なことをわざわざ書く人がいるの?」


 とか。


 そんな甘い考えを『人ログ』は一瞬でかき消した。

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