どうやら、俺はおかしいらしい。
俺「平日の夕方とか夜によ、友達に連絡するじゃねーか。なんであ 既読ついてからの返信が遅いんだ、みんな?」
同僚「エビさん速いもんなぁ返信……。そりゃ、平日はいろんなことに頭がいっぱいで、回らないですよ」
俺「そうなの??」
同僚「あんたがめちゃくちゃ速いんですよ笑! さっきまで遊んでたと思ったら、仕事も訳わかんない速さで追い込んでくるし。普通の人の速度を知ってください!」
俺「……俺が変なの?」
同僚「自覚なかったんですか!? 普通の人はね、パソコンの横にiPad置いて仕事できないから。片っぽでzoom会議に出席しながら同時進行で議事録作り上げるって、化け物ですよ? 会議終わった瞬間印刷してるし。しかも自分の意見もちゃんと入れてるし。片方でSlackの流れ見ながらもう一個でメール返信してるじゃないですか、なんで混乱しないんです?」
……。
どうやら、俺はおかしいらしい。
そういう自覚と同時に、物凄く懐かしい気持ちになった。
「お前は、頭の回転が『速過ぎる』んだ」と上司に言われたことがある。
かといって勉強に本気になったとかそういうもんでもないので、別に東大出身とかではない。塾とか予備校とか行ったことないし。
ただ、『速さ』は昔から言われてきたことで、いわゆる毒親な母親からは、幼少の頃から常に「自信なんて持つな、天狗になったらへし折る。出る杭は打たれるものだ」と言われてきた。だから、歪んだ子供だったのは自覚している。
ただ……。
どうしてみんな、この結論になるまでこんなに時間がかかるんだ? 最初から見えてるじゃないか、大人が着地させたいところが。
なぜみんな、作文一つにそんな時間がかかる? 原稿用紙5枚なんて、15分あれば作文一つ完成させられるだろ?
メールひとつ返信するのにそんなに時間かかるかね?
……と、本音では、心の底では思っていた。さらに悪いことに、毒親その2の父親は大学中退の学歴を子供の俺に叩きつけて、「お前はまだ小学生で、俺の方が頭がいいからな」と育ったわけで。
くっそ面倒な「自分のことは底辺だと思ってるフリして、じつは自分そこそこ出来るんじゃね?って思ってる」子供に成長した。ただし、自信を持っている素振りを見せると叱られて殴られるので、「自分なんて出来ない」を演じていた。
我ながら悲劇の主人公っぽい演技力。
そんな感じで歪んだまま大人になったわけだが、社会に出て吃驚したのは、案外俺は仕事が出来ると言われるということだった。
子供の頃は、出来たとしても自信を持つなと言われて、自信を持ってはいけないんだと信じていた。
社会に出て、成果が出たのだからもっと自信を持てと言われた。
俺の歪みは大きくなる一方で。
「自分のことは底辺だと思ってるフリして、じつは自分そこそこ出来るんじゃね?って思ってる」大人になった。
これはもう親のせいとかにする気はない。いい年した大人になって、過去を理由にして今の自分が弱いことを正当化する気はさらさらない。だから、この歪みは俺自身の問題だった。
気づいたのは23歳。
上司が「君は自分の能力をやたら過小評価している」と言ってくれた。その上で「この企画、好きに動かしてごらん」と、新卒ちょいの俺に全権限をくれた。好きにやって成果出して、その部署の新記録を叩き出した。あれはラッキーだ、と思ったが、上司は「実力だ、自信を持ちなさい。だが、お前の強さはその謙虚さでもある」と言ってくれた。
過去の自分が認められた気がして、仕事にだけはプライドと自信を持とうと決めた。
間に何人か挟むが、海外に出る前の最後の上司が言ってくれたのは、
「お前は、頭の回転が『速過ぎる』んだ」ということ。伝えるかどうか物凄く悩んだ、と上司は言っていた。
「人よりもかなり先に結論が見えているから、周りが遅く感じることがあるだろう? 言葉を遮って結論を出したりすることもある。それはね、お前の頭が良くも悪くも良過ぎるんだ。普通の人の速度じゃないんだ。でもね、世の中のほとんどはそんな、お前から見たら遅い人なんだよね」
物凄く神妙に聞いていたのを覚えている。
「合わせろ、とは言わない。でも、周りの人はお前よりキャパシティも小さい。それを知っておきなさい」
そのあと上司は笑いながら「出る杭は打たれる。ただし、出過ぎると打てないもんだよ」と言った。
昔、出る杭は打たれる、と言いながら母は俺の自信を砕くことに専念していた。
今、出過ぎると打てない、と一緒に戦った上司は苦笑している。
うん、そうだな。
そろそろ認めようか。
自分はそこそこ、スピードに関しては人よりあるっぽい。でも、それを普通と思ってはいけない。ゆっくりな人には彼らの速さがあることをしっかり知っておけ、ってことだ。ゆっくりな人は他の作業が丁寧だったり、じっくり考えていたりする。俺とは違う生き方で、どっちが優れてるってんじゃない。
これをね、昔の自分に教えてやりたいなと、ふと思った。
はい、2000字ちょうど。原稿用紙5枚。
甲殻類の一人ごと エビテン @amakawa0812
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