破れないルール

【栄養ドリンクは1日一本。身体壊すから。心配だから】

 そんなルールを。むしろ、ルールは自分が作るものだと思ってるこの俺が、馬鹿馬鹿しいなと苦笑しながらも絶対守ってる。

 寝られないから昔話でも書いてみようか。

 気まぐれだ、気まぐれ。


 無理無茶上等な100連勤近くをしてた時、久々に会った人に言われた。その時の俺は仕事でガンガン成果出すのが楽しくなって、自分の身体が二の次で、身体が限界っぽいのを無視して、アドレナリンで乗り切っていた。いま思えば、自滅の道を走りまくっていたんだろう。

 その人とは、あれだ。

 滅多にない休みの合間を縫って会ったりしてたけど、受験シーズン前後も含め、半年会えない。連絡なんてその間はしない。それでも縁が切れない、不思議な人。

 俺の会社は業界では大手で、電車に広告が吊られてる。その人は広告を見ながら、休みはこの辺だな、ってときに連絡をくれる。

 こちらが夕方には上がれるって日に、遅いランチに行って買い物をして、その人の家でダラダラとゲームしたりとか、話すとかして。肩が凝ってるとかいうからマッサージしてみたりして。一緒に夕飯の買い出しに行って。何が食べたい?なんて話をのほほんとして、リクエストを聞いて俺が作って。メニューじゃなくてざっくりと「優しい味がいい」とかいうリクエストを聞いて作った雑な男メシを、満足そうに、おいしいとか言ってくれる……まぁ、そんな感じの半日休みを一緒に過ごす相手だ。

 あー、うん。その人は女の子。


 ある日、そんな半日のオフの日に。

 自覚してなかったけど、俺はすっげー疲れた顔してたみたいで。

 部下の前とか、それこそプライベートで会ってる人には絶対見せたくない、疲れた顔をしてて、あくびを噛み殺してたのを見ていたらしい。カッコ悪いなーと今でも思うけど、過去は変えられないから放置する。

 その時家のトラブルを抱えてたのもあって、少しだけ弱音を吐いた。家の金銭的な問題を押し付けられそうになってて、仕事は仕事で逃げ場がなくて、もう無理だなーって薄々気付いてた。ただ、限界だと認められなくて走ってた。

 ひとしきり聞いてから、彼女は思いつく限りの意見をくれて、その後言ったんだ。


 どうせ言っても無理するし、なんだかんだで乗り越えるんだと思う。でも、体に悪いからドーピングは1日一本まで。心配だから。……と。

 いつもはお調子者だったりクールだったり忙しい、掴みどころのないその人が、本当に真剣に言ってくれた。


 あー、くそ。

 完敗。

 そんな強くないよ、って抵抗したけど、無理だった。

 どうにかしちゃうでしょ?と……。

 そこまであんたに言われちゃ、無理できちゃうし乗り越えちゃうし、なんとかする。そんで、出来るだけ心配はかけないようにする。つまり、絶対倒れないしダメにならないぜ、ってこと。

 そこまで信じてくれてるのが嬉しかったし、この人はよく見てくれてるな、ってのも驚いた。

 とりあえず、「この穏やかな時間、好きなんだよね」って言うしかなかった。不細工な照れ隠しだ。我ながら。

 ひとつだけ分かってんのは、この言葉がなかったら、俺はとっくに働きすぎでおかしくなってただろうってこと。限界なんて何度も見えてたし、もう嫌だって愚痴も吐きたいことはたくさんあったけど、吐いたところで変わらないから言わない。そうやって、溜めてきた。まぁ、海外に来てからは立場が立場だから吐くことなんてほとんど出来ないけれど。

 感謝してるんすよ、マジで。

 あと……いいや、それは日本に帰れたら、本人にだけ伝える。


 よし、眠くなってきたからここで終わりだ。

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