時の流れは不思議だね

 時間というのは不思議で、みんな同じように日々を過ごしているのに時が経つスピード、循環していく情報量が全然違う。

 僕は生まれてこの方東京のはじっこに住んでいて、途中ひとりで中央部分に飛び出てみて、そしていま海外に住んでいる。その年数を、両親はずっと同じ家で過ごし、僕より六歳年下の妹もずっと同じ家にいる。

 僕は、大学の時はアルバイト三つかけもちしながらあっちこっちに遊びに行ったし、そして大学はサボったことが……一回くらいしかない。たしか、眠かったんだ。うん。アルバイトで塾の講師だったので、生徒、保護者のこともたくさん知らなきゃいけないわけで。

 そんなこんなだから、入ってくる情報量は桁違いに多かった。

 だからこそ、なのか。

 僕の中であまりに興味のなかった高校時代の記憶、小学校の記憶が非常に薄れている。顔も、名前も。あれだけ嫌いだった教頭先生すら名前を覚えていない。同級生の名前も。顔すら出てこないから、何人かはきっと会ってもわからない。中学校は今でも連絡をしている人がかろうじて残っているので、記憶は残っているけれど、その人脈が切れたらすぐに抜けていくだろう。

 家族と温度差を感じるのは、昔の話をしている時だ。僕が当事者だったのに忘れている出来事を懐かしんで話す母親。忘れていると言うと「ありえない」ような反応が返ってくるけれど、僕にとっては終わった小学校時代になんの感慨もないわけで、懐かしいと言うよりも世間話を聞いている感じだ。「ああ、◯◯さんね!」と盛り上がることを期待しているのだろうが、無理である。人間の記憶力が無限でない以上、使わない情報から切っていくことになるだろうから。僕は今でも塾講師なので、毎年毎年生徒情報が入れ替わっていく。

 一年で出会す情報量が多い人間の方が、忘れるのは速いのだろうか。それとも僕が薄情なのか。どちらであっても不思議ではないが、実家に帰ると毎回思うことではある。ああ、ここは平和で、戦場みたいな忙しさではない良いところだ、と。

 同じ時間を生きているはずなのに、不思議だねって思った話。

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