シンガポールで下宿1.8年目

 そんなことしてる日本人は僕くらいのもんなので、速攻で身バレしそうではありますが……。

 赴任してから、シンガポール人ご一家の家で一部屋借りて住んでいます。決め手は家賃と立地、それから壁が白かったということ。壁の白さですが、ほかに内覧に行った家々は全て壁がピンクだったり黄色だったりエメラルドグリーンだったり。それならコンクリート打ちっぱなしがいいな……なんて思いながら内覧していました。

 シンガポールの物件事情は日本の東京よりも激しく、ワンルーム(キッチンなし、湯船なし、都市部)だと、月額12万くらい。僕のこの間借り部屋でも8万円くらいです。シェアハウスが主流で、ワンルームはとかく数が少ないんですね。中華系が7割を超える国ですので(英語が通じる中国だと思った方が早い)、大人数でごちゃっと住む文化っぽく。その例に漏れず、そして家賃に10万以上出し続けるのが嫌だったので笑、一部屋借りることにしたんですね。小さい子が2人いて、それぞれ7歳と9歳。

 最初の半年は、それはもう楽しく過ごしました。出かけるのも連れてってくれますし、飯も作ってくれたり。完全に「お客様」だったんでしょうね。いま思うと。

 半年後くらいから、大人しかったちびっ子姉妹が本性を現し始めました。詳しくは、拙著〈ブランブランは死んだ〉に書きましたが、倫理観としつけがぶっ壊れているのが見え始めまして。姉の方は妙な流し目を覚えてくねくね見せつけてくるし、メシ食ってて顔をめっちゃ近寄せてくるので、幼女に全く興味のない僕からしたら「鬱陶しい」だけ。妹は妹でほぼ不登校、毎日大騒ぎです。

 そして2020年、コロナウイルスの大暴れに伴うサーキットブレーカー(緊急事態宣言。在宅ワークとなりオフィス出社禁止)で、親の方も本性が暴露されました。祖国に帰れない一年が過ぎて、帰りたくて仕方ないけれど帰れない日に、「日本に帰りたいなら帰ってもいいんだぞ! 帰れないけどな! でも行ったとして帰ってくるなよ? 子供たちにうつされたら困るからな(爆笑)!」ってぶつけられたオーナーの言葉、英語でしたけどはっきり一字一句覚えてるほど腹が立ちました。その瞬間、この人達とサーキットブレーカー中はせめて仲良くやっていく選択肢がすっと消えました。

 僕は予備校やら塾やらで講師をしていますが、そのせいで夜は窓を閉めて冷房を使って授業をします。冷房を使い過ぎだとか文句をたくさん言われましたし、姉妹は僕に構ってほしいが故に、授業が始まるタイミングで僕の部屋の前で楽器をガンガン鳴らす。やめてくれ、と言っても爆笑していますし、オーナー曰く「ここは俺たちの家だ。仕事してるのはお前の勝手だ」ということで。夜まで仕事をするにあたってインターネット必須ですが、健康に悪いとかでWi-Fiは突然ぶった切ってきますし、ね。カラオケのマイクを娘たちに買い与えて大音量で叫ばせた挙句、フロア全部屋からクレームが来たのは伝説だと思ってます、僕。

 有り体に行って……。うん、僕は自他ともに温厚だとは思いますが、いったんこの家を出るときに殴らせて欲しいかな。ストレートには自信があるんだ。

 風呂の時間も指定があり、24時までには出ろ、うるさいからダメだと言う理由で……って、僕の仕事夜までだって説明して契約したよね? と言いますと、契約書に「オーナーの言うことには従え」とあるので無意味で。物音を立てるとすぐにLINEで怒りのメッセージが来ますので、深夜帰ってきての神経疲れはなかなかのもの。

 我慢ができなくなって、先日長々とメッセージを送りました。端的にまとめて「来年の契約が切れるときに出ます」と。速攻で返信が来て、「いや、帰りが遅い時はシャワーの時間は気にしなくていいよ」とのことでしたが、僕の決心は変わりません。もう仲良くする必要がない、と実感したらとても肩の荷が降りました。

 その後から……。

 挨拶をしても無視される、使っていいはずだった食器用洗剤は隠されている、メイドさんがやってくれるはずだったシャワー室の掃除はされなくなるなど、とても不便ですしなんなら一人暮らしとそう変わらない感じになりました。一人暮らしの扱いに、人的ストレスのオプションが付いてきます。

 この国の人代表が僕の中で彼らなので、シンガポールを嫌いになる前に、必ずこの家を出ようと思います。

 でもね、物凄く良い勉強になったと思うんです、この2年弱。やってみないとわからないでしょ? 外国人の生活に入り込むなんて。この辺りの話を、海外生活が長い同僚にしたところ、「滅多にいない酷いオーナーに当たってる」との評価。自分に甘くて他人に厳しい人からは距離をとるべしと僕は思っているので、次は、高くていいから一人暮らししようと思ってます。

 これ書いてる今も、学校サボってる姉妹と母親が大音量で歌ってるんですけどね。

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