仕事の準備に飽きたのでつらつら。嘘のような本当の話。なんの脈絡もないので興味がある人向け。
二学期が終盤ですね。
二学期は、先生って仕事がもっとも細分化される時期ですね。学校の先生と僕たちの差が一番大きい時期になります。優劣じゃなくて種類の差。
僕たち予備校/塾講師は、二学期は先生というより、将軍あるいは大将という感じになります。一学期と違って実際に不合格も出始め(推薦、帰国組)、ピリピリというかバチバチし出す感じ。一学期はまあみんなのほほんとしてるんです。落ちる?ないない、みたいな。でも、実際に出始めると、みんな慌て出す。
そのクラスの担当になり、導く使命を帯び、戦況(倍率)を読みつつ突破するというとリアルにベレト先生(※ファイアーエムブレム 風花雪月の男性主人公)ですが、マジでそんな感じ。連日の入試で耐え切れるか、合否がわかるタイミング(第一志望前に前哨戦が不合格だった場合のダメージを考える)。この場合はこう動いて……と、全部ある程度シミュレーションし、保護者と打ち合わせて……ってのを、担当全員分やるわけです。部下にも指導しつつ。
ただ、なぁ…。
長く受験戦争の大将してたら、こいつが受け持ったから大丈夫、って神話ができてしまって。お礼言われたいとかじゃ無いんだけど、受かって当然となって、受からせてもお礼の言葉すら無くなっていくんです。逆に、万が一不合格の時の棘は鋭くなって、無理無茶を要求されることも増えた。……いやー、10月に1日だけ休めそうな日に休んでてクレーム貰ったのは流石に辟易したが……でも、大将だから言えなくてね。頑張るってことが当たり前にされて、頑張ったことを認められ無いって感じかな。
今思えば、僕は疲れていたんだと思う。頑張ることも、頑張るのが普通の人だと思われることも。誰かに……誰かに、認めてもらいたかったんだろう。
そんなこんなの、だいぶ前の1月。
昔の教え子Kさんが、大学受かったよ報告ついでに遊びに来た。Kさんは最初ダメダメだったが、最後は優秀な生徒になった。そりゃもう優秀。当時からモテたよな、お前……なんて話で笑いながら、僕に差し入れのコーラを持たせながら、ため息半分でKさんは言った。
「先生、頑張りすぎです」
僕が折ってたプリントの束を奪って折りながら言う。先生と生徒といっても、実は5歳しか離れていない。新卒のペーぺーなんてそんなもので、彼ら彼女らからしたら気の良いお兄ちゃん、なわけだ。
「恩返ししにきたんですけど、詳しくは秘密です。そのうちわかりますから」
にこっと笑う。この笑顔が人気だったよなぁとか思いつつ、あまり気にせずに居たのだけれど……あろうことか、次のミーティングでKさんは新人講師として紹介されてきた。肩を竦めて笑いながら、「あの先生に現役時代はお世話になって」とかはにかむわけだ。
鳩が豆鉄砲を食ったような顔、ってのを僕はしていたと思う。差し入れを持ってくる前、時間講師の試験と面接だったらしい。受かったのかお前。
当然部下として僕の下についたので、連絡先を教えたところ、その瞬間だけ生徒の顔してやがった。
「広めていいですか? みんな知りたがってました!」
「だめ」
「先生何歳なんですか? ほんとのところ」
「秘密」
現役時代から懐いていた子だったから、余計に嬉しそうだった。僕の、Kさんの扱いは雑かもしれないが、研修、実地研修、解答能力研修もろもろ叩き込んだ。その上でめっちゃ頑張ったので、大学生でありながら進路指導も見事にこなす。見た目かわいいもんだから生徒にも大人気。一年鍛えたところ、最上位クラスを僕と組んで戦うレベルになった。家でも相当勉強してたらしい。受験生じゃないのに。
くっそ忙しい時期、勤務状況は超絶どブラックだから他の部下達には隠してたんだけど、バレて怒られた。サシで。いや待て、部下よ。上司を叱るとは何事だ。
なんで部下をもっと頼らないのか。なんで一人で苦しんでるのか。役に立てない部下の気持ちも考えてみろ!と。それだけだと僕が変わらないと察したらしく「頼りたい時に倒れられてても困るから休んでください!」と憤慨しよった。情けない話、謝るしかできなかった。
……役に立たない、か。そりゃ悔しいよな。すげぇ納得できた。なんか気まずい感じだったからデカいエクレア買ってあげたんだけど、いつまで生徒扱いなのかって憤慨しながらめっちゃ食ってたな。
それからは、ちゃんと休むようにしてる。さすがに超繁忙期はあまり休めないけど、前と比較したら、ね。疲れた、お腹すいた、眠い、なんてどーでもいい事も言うようになったよ。オフ会とかに参加できるようになったのは、休むようになったから。あいつには感謝している。
……そんなKさんは、保護者からついにお怒りが降り、時間講師を辞めざるを得なくなった。
大学生の貴重な自分の時間を割きまくってこっちに尽力してしまったから。というか、土曜の夜は何回か終電逃してるからな……帰れと言うのに、僕らのメシ会(深夜焼肉パーリー)に参加するもんだから。そりゃ保護者は心配するし怒る。
何があったのか、それ以来誰もKさんと連絡が取れない。僕も何度か連絡したけど、なしの礫。電話も繋がらないし、家電はないし。住所は人事が持ってるけど、さすがに突撃はまずいだろうし。
そのままあれよあれよと、僕は出国までしたから、二度と会えないのだろうなとうっすら思っている。
少なくとも楽しかったよ、毎日顔突き合わせて仕事すんのは。もしかしたら、働きすぎで体調が悪い系の他人のツイートに反応して、無理しないでって送るのは、こいつの影響かもしれない。
頑張りすぎ、って一言が僕を救ってくれたから。僕を変えたからね。
実は物凄く嬉しかったんだ。見ててくれる人がいて、声をかけてくれたのが。他でもない愛弟子の君が。
好意があったのは、もちろんわかってる。僕のスタンス「一度教えたら一生生徒。恋愛対象外」ってのを聞いてしょんぼりしてたもんな。しょんぼり目撃証言もあって、どんだけ周りにいじられたことか! 防衛線は張ってあったから、告白はされていない。されたとしても断っているだろう。要は、僕のプロ意識の問題。
生徒には幸せに生きて欲しい。たったそれだけだ。それだけ、生徒たちには要求する。
っていう出来事があった二学期がいよいよ最後だなーって思い出したんで書きました。懐かしいな?
長い上にオチが全くないんで「オチないんかーい!」って突っ込んでもらえると嬉しい。
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