第12話 エキシビションマッチ 終戦
6本の剣を構えた背の高い女性アバターが目を細めた。
「どうやら君たちは、この名前の元となった人物について話し合っていたみたいだが……どこまで知っている?」
「俺はほとんど知らん。ランマルが知ってただけさ」
軽口はここまで。そのまま相手の懐に迫る。
六本の腕がバラバラの動きで攻撃を仕掛けてくるが、順番さえわかればさほど怖くない。
そもそも一人を相手するのに六本使うのは逆に不便な気もする。
上の二本はそれほど動いていないし。
こちらが相手の攻撃を読めるのと同様に、カン・ジエも俺の攻撃を的確に捌いていた。
防御の手数も多くて厄介だ。
「単純に手数の多さが強さに繋がっていると見るべきか?」
「さて、それはどうかな? ここからは本気を出させてもらう」
相手の右中段の剣が光を放つ。スキル技の合図だ。だが、単調な攻撃なので軽く回避する。
スキル技を放った後には、反動で生じる硬直による隙が生まれるのだが、カン・ジエには実質的に隙がほとんどなかった。
別の剣が光を放って、硬直時間を無視した別のスキル技を放つ。
同じことが全ての腕で出来るのだから、理論的には常にスキル技を使えるわけだ。
「腕が多いと便利だな」
スキル技は通常の攻撃よりも格段にスピードが速い。
避けることも難しいが、攻撃をコントロールするのもかなりの難易度だろう。
だがしかし、適切なスキル選択と卓越した武器制御でじわじわと回避の余裕を削ってくる。ついに一本の剣が身体を掠めた。
唸りを上げながら頭上を過ぎ去っていく剣の風で頭を冷やしつつ、軽く打ち合って得た感想を纏める。
「なるほど。目もかなり良いみたいだな。四つあると考えてもいいだろう」
ギリギリのところで二発躱す。
「腕が六本、目が四つ……だがなぁ、足が二本なら、まだ勝てる」
宣言しながら、足元を薙ぎ払う。下の腕を使った直後に仕掛けたので、相手は素直に飛んで避けた。同時に刀を身体に引き付けて構え直す。
カン・ジエが空中で歯噛みしながら呻く。
「まんまと誘いに乗せられたということか!」
このチャンスを逃すことなく、一歩踏み出した瞬間、周囲の動きが止まった。
これはランマルからの一種の警告だろう。引き延ばされた時間の中で、ヴィクターの槍が俺に向けて投げられているのを感じとった。
スッと屈んで頭上を槍が飛んでいくのを見送りながら、カン・ジエに連撃を叩きこむ。
体力が残りわずかになった相手が立ち上がりながら尋ねる。
「あの槍、ほとんど視認していなかっただろう。何故かわすことが出来た?」
「なんとなく、だ。それ以上は言葉にしにくい。でもまあ、ランマルが時間を作ってくれなかったら、槍は避けれたとしても、君にここまでのダメージを与えることは出来なかっただろう」
「そこ避ける前提なのが不思議って話なのだが……」
会話しながら戦闘を続ける。今度は、二本の剣を投げる攻撃を織り交ぜてきた。
投げられた柳葉刀は、俺が躱すとブーメランのように相手の手元に戻っていく。器用なやつだ。
同じような攻撃が何度か繰り返される。
再び同じ攻撃の構えを取ったように見えたが、投擲しようとしている腕に不自然な力が加わっているような気がした。
「ランマル、たぶんそっちに二本行くぞ」
「ホンマ?」
「お前、どこまで……」
ランマルよりも、目の前の相手の方が大きく動揺した。
申し訳ないが、この隙を見逃すほど甘くない。
防御の合間を縫って刀を突き刺す。
「クッ……。ヴィクター、一人ぐらいは倒せ」
「無茶言うな……と言いたいが、それを通すのもプロの矜持か」
小さく呟いたヴィクターが、片手剣と盾を手に、鬼気迫る勢いでランマルへの猛攻を開始した。
完全に防御を捨てているように見せかけて、側面からゆったりと近付く俺への警戒も怠ってはいないようだった。
この状況でも、まだ勝負を諦めていないように見える。
「おぉ、ホンマに何でも上手く使いよるわ。片手剣も中々のモンやな」
「……裏を返せば、俺の片手剣ではお前に届かない、ってことか?」
ランマルの沈黙を肯定と受け取ったヴィクターは、剣と盾をこちらに投げ、すぐさま周囲を浮遊している武器の群れの中から刀を抜き取った。
当然というべきか、俺がアイテムボックスから武器を出すより早い。
便利なスキルだ。
「ミラちゃんへの対抗心? でも、好都合や」
ゾッとするようなランマルの声を聞いて、俺は加勢するのをやめた。
俺が足を止めたと同時に、二人が一歩踏み出して決着した。
ランマルは右肩に浅く一撃もらいながらも、それ以上のダメージを相手に与えていた。
向こうの体力ゲージがゼロになるのも時間の問題だろう。
「最後に一つ」
ヴィクターが顔を上げてランマルの顔を見据えながら質問する。
「なぜ刀が好都合だったんだ?」
何でもないようなことのようにランマルが言葉を返す。
「そら、ミラちゃんが相手になった時に、いつでも殺せるようにって刀対策をしっかりやってたからやで」
信じられない、という風に目を見開いたヴィクターに、
「ほな、さいなら」
と告げながら追いの一撃を入れて、アバターを爆散させた。
静かだった観客席が一挙に沸き立った。
「勝者、ミラ&ランマルチーム! これが《WHO経験者》の最上位層だと言うのか! 二人の体力はほとんど減っていません! 強い、強すぎる!」
スポットライトに照らされながらカメラに向かって手を振る。
復活した四人と再び握手を交わし、少しコメント等を残して、俺たちは会場を後にした。
会場から出て、ランマルと二人で試合についての観客たちのコメントを見る。
大会が用意した控室ではなく、プライベートな部屋に戻って来たため、ランマルは遠慮なく煙草をふかし始めた。
〈やっぱり《神の見えざる手》はエグイわ……あんなんチートやで〉
〈昔に比べれば遥かに短い刀だけど、ミラの《大縄跳び》も健在だったな。アレは跳んだらアカン。ミラたんの思う壺〉
〈止まってもこちらより長い得物で一方的に攻撃されるだけなんだよなぁ……まだ短い刀で良かったけど、全盛期の装備だったらもっと一方的な試合になっていた。アレで何度惨劇を見て来たことか……〉
〈あの戦い方トラウマだからあまり見たくなかったが、刀が短かったのでギリギリ見れた。ヴィクターたちには勝ってもらいたかったが、初見であの二人を倒すのは流石に無理か〉
いくつかのコメントを見て、ランマルがホッとした声音で呟いた。
「思っていたよりは荒れてへんなぁ。良かったやん」
「動画サイトのコメント欄は書き込みにいくつか制限が掛けられているらしいからな。他のSNSとかなら、どんなことが書かれているか……」
想像するだけでうんざりする。まあ、実際に確かめるほど暇ではないし、チームのスタッフさんたちからも、あまりエゴサーチをするなと釘を刺されている。
「アーキテクチャの面から言論統制してるってわけね。でもまあ、わざわざそういう輩の相手はせんでええよ。確かに恨まれても仕方ないことをしてしもうたのかも知れんけど、その裏ではそれ以上の人たちを助けてきたんやからね」
「でも、その助けた人たちだって一部は……」
「アレはあの人たちの選択や。ウチらは正当防衛しただけ。……そう合理的に考えないと埒が明かへんで。実際、それが事実やし?」
ランマルの言葉が途切れると、部屋に沈黙が流れる。
タバコを一本吸い終えたランマルが立ち上がってこちらを向いた。
「それじゃあウチはこの辺でお暇させてもらいますわ。出演料も貰ったし、たまにはこういうことも悪うないね。またこういう話があったら気軽に呼んでや」
「ああ、じゃあな」
ランマルが帰って暇になったので、どこかにレベリングにでも行こうかと思っていた矢先に、キラからメッセージが届いた。
まさかの呼び出し。
世界大会が終わってまだあまり時間が経っていないというのに、人使いの荒いやつだ。
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