第1話

【矢本 幸樹】


学校に到着した俺は自分のクラスと出席番号を確認し、高校棟2階の階段を上った後、廊下の手前から3番目の教室に入った。


すると、もう既に何人かの生徒が座っていた。


自分の席が窓側の1番後ろだったので、僕は席に座って窓の外を眺めていた。


外は桜が満開で穏やかな風が吹いていて、まるで新入生を歓迎しているようだった。


しばらく外を眺めていると、教室に一人の女の子が入ってきて、俺の隣の席に座った。


登校前に決心していたのもあり、俺はチラッと隣の様子を確認するだけで、すぐ視線を窓の外に向けた。


すると、急に隣の子が小声でこう言ってきたのだ。


「今日からよろしくお願いします」


え?このタイミングで?普通、式のあととかじゃない?あれ、俺がおかしいのか?などと思いながら俺は心にも無いことを言った。


「あ、はい、よろしくお願いします」


ーーーそう、俺はよろしくなんてするつもりは無い、もう《あんな気持ち》は二度とごめんだ。


そんなことを考えながら、俺は三度窓の外に視線を戻したのだった。



【正野 優澄葉】


「あ、はい、よろしくお願いします」


ヤバイ...これはヤバイ...緊張しすぎてやらかしたかも...


高校デビューの方法を考えた結果、まず隣の席の子と仲良くなるのが最も効率的と考えた私は、人見知りのせいで今まで1度も経験したことが無い、自分から他人に声を掛けるという行動を、実行に移すことを決意したのだ。


だがいざとなると緊張し、完全にタイミングを誤ったというわけだ。


無視はされなかったけど、絶対ちょっとおかしい子だと思われたよね...


あーもう私のバカ!


そうして私は朝から落ち込んでいたのだった。


そしてその後私から話しかけることも向こうから話しかけてくることも無く、担任の中西先生の自己紹介が終わり、私たちは講堂に集められ入学式が始まった。


そしてその後自教室に戻ってきた私たちは、出席番号順に自己紹介をしていった。


その自己紹介で私は、先程完全に誤ったタイミングで挨拶をしてしまった相手の名前を初めて知ることになった。


「初めまして、矢本 幸樹です。好きなことはゲームとアニメを見ることです。よろしくお願いします」


「矢本 幸樹君か〜」


私は小さく呟きながら、明日からどう声を掛ようかと頭を回転させるのだった。

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この子のせいで俺の決心が揺らぎまくるんだが!? 花込 沙谷香 @hanagomesayaka

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