君を待つ夏

空彩★

「ボク」は一生待つ。それが「ボク」の仕事。

夏が来た。

君がいなくなって5度目の夏。

帰ってくることを期待しているわけではないが、毎年何故だかこの季節になると縁側で座って玄関を見守るのが日課になってしまう。

君がいつかは帰ってくることはわかっている。

わかっているが、それが毎年待ち遠しくてそわそわして昼寝をする気もなくなってしまうのだ。

こんなことになるならお母さんたちの電話をしっかり聞いておけばよかったと、こう思うのももう5度目。

でも、今年も帰ってこないかもしれないのはわかっている。

お母さんから直接聞いた。

どうやら大切な人ができたらしい。

なんだよ、「ボク」を放っておいて。

あんなに大好きだって言ってくれたのに。



でも…どんな人かな。

君が選ぶんだからとてもいい人なんだろうな。

次来るときは一緒に来るんだろうか。

そのときは相手にしっかり喝を入れてやらんと不安で昼寝もできない。


そのときガツンと言ってやる。

その子を幸せにできるのか、何よりもその子を大切にしてる「ボク」よりも大切にできるのか、死んでも守る覚悟がないならその子はあげない、と。


そのときだった。


「あれ?ミユ君お出迎えしてくれたんだ!久しぶりー!」


大好きな君の声が聞こえた。

顔を上げると案の定、君が満遍の笑みでこちらを覗き込んでいた。


___あれ…?帰ってこないんじゃなかったの…?!


そんな君に飛びつこうとした時だった。


「あ、その子が話してたミユくん?こんにちは!」


知らない男がきた。


誰だお前、近寄るな。


「あらぁ、もお、お母さん待ちくたびれちゃったわぁ。ささ、上がってもらって!」


お母さんまで…なんでうちの中に入れるの…


それからしばらくリビングで3人が仲良く話している。

話の内容はどれも世間話で「ボク」にはつまらないし、理解ができないものばかりで、もらった水をただひたすらあいつから隠れながら飲むことしかできない。


…こいつ…やっぱりそうだよな…


すると、さっきまで笑いの絶えなかったリビングが真剣な空気になったような気がした。


「__お母さん、娘さんと…えっと…」


なんだよ、男ならシャキッとしろよ、覚悟を決めたからそれを言いにきたんじゃないのかよ。

その子を幸せにする自信がないのか?大切にする自信がないのか?

だったらもう2度とその子に近寄らないでくれ。


そういいながら睨みに行くと、「ボク」の顔を見た途端覚悟を決めた顔になり、「ボク」とお母さんに向かって頭を下げた。


「お母さん、ミユくん。娘さんと、結婚させてください。」


…その子を幸せにできる?


「必ず幸せにしてみせます。」


…大切に、できる?死んでも守る覚悟ある?


「死んでも守り抜きます。一生大切にさせてください。お願いします。」


一生大切にさせてくださいって…なんだそれ。


「…その子は、私のたった一人の娘です。あの人と私の大切な宝物です。その宝物を、守り抜く覚悟はありますか?」

「__はい。もちろんです。」

「…ミユ君、ミユ君はどう思う?」


3人揃って、「ボク」の顔をまじまじと見てくる。

はっきり言うとこう言うこと何も知らないし知りたいとも思わない。

だって難しいし。

それを最終的に「ボク」に丸投げっていうのはどうかと思う。


__まあ、でも、


ボクはそいつの前に座って、目を見ていった。


…しょうがねぇな。じゃあ、お前がもしその子を捨てたらボクが呪い殺してやる。覚悟しておけよ。


「ミユくん、なんて…?」

「…うーん…しょうがないなって…言ってるよ」

「ミユ君のお許しも出たことで…娘をお願いします。」


二人は涙を流しながら笑っていった。


次その子とお母さんを泣かせたら許さないからな、覚えとけ。


「ミユくん、ありがと、この子を俺に託してくれて。」


勘違いすんな、まだお前のこと許してないからな。













そして、あれから数年後の夏、「ボク」はまた、縁側で君達を待っている。


「ミユ君!ただいま!」


__おかえり、大好きなご主人。


「にゃぁ。」

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