第3話 陽気で貧しい胸板

「ただいまぁ〜」


緊張と不安から解放され一気に気が抜ける。

そのまま流れ込むようにリビングへと向かい、ソファに腰を下ろす。


「あんた入学式どうだったの?」


「ん?いや、普通。なにもない。あ、でも美香が首席だった」


「美香ちゃん?へー。まぁ、頭もいいし顔もいいしスポーツも出来るもんねあの子。それに比べてあんたは顔がいいだけだもんね」


「うっさい。ほっとけ」


俺にうざったらしい皮肉を言ってくるこの女こと俺の姉、愛美まなみ

茶髪なセミロング。

切れ長の目。

胸はまぁあれだが、スタイル抜群な高校3年生である。


「あんた今どこ見てた?」


「へ?・・・・気のせいだよアハハ」


「胸見てたらマジ殺すから」


俺の姉は胸のことについて言われるとガチギレする。

それはもうほんと手が付けられないほどに。

父さんが


『愛美は背だけ大きくなったなぁ〜』


なんて言った時は家が壊れるかと思ったものだ。

その後に父さんがお詫びにと大好物のハーゲンダッツを10個ほど買って許してもらっていた。


「そういえばさ、あんたピアス開けてみない?」


「え、なんでピアス?」


「私は痛そうで嫌だから」


「え、俺も嫌なんだけど」


「よし、決定ね。そこに座りなさい」


「言ってないんだけどそんなこと。まぁ、別にいいけどさぁ」


姉さんはたまに変なことをしだす。

ネイルをしてきたり、俺の顔を化粧まみれにしたり、俺の髪をピンクに染めたこともあった。

だからピアスぐらいは全然マシな方だ。

どちらかと言うと弱い方でもある。


姉さんが穴あけ機を持ってきて俺の右耳のみみたぶにセットする。

・・・・・・・・・・・


「ねぇ、そんなに溜められると恐いんだけど」


「私もするの初めてなの。カウントダウン。発射5秒前。5」


「なんでロケット形式なの・・・・」


「4、3210」


「なんでいきなり..っ!!」


みみたぶに痛みが走る。

こいついきなりスピード飛ばしやがった!!


「お前まじやめろほんとに」


「我慢しなさいよ男なんだから」


「逆ギレって言うんだぞそれ」


少しみみたぶに違和感がある。

なんかスースーするような?

そんなことを考えているとピアスを付けられる。


「よし、完成。まぁまぁのできね。はい、鏡」


「どれどれ」


手鏡で見てみる。

そこにはシルバーのファッションピアスがひとつ。

なかなかに様になっている。

結構綺麗。


「よし、もう片方いこう」


「え、やだ。恐い」


「文句言わない。ほらもう片方だして」


「いやだ」


「・・・響也さん、いい加減払ってもらわないとね。その借りたヤツをね。返せないっていうならみみたぶに穴でも開けましょうね」


「なんで借金取り立て風なんだよ・・・」


「ほら、早く!私がクレイジーサイコパスになってもいいの?」


「はぁ・・・。ならしょうがないか。はい」


俺は渋々ながら左耳のみみたぶを差し出す。


「自分の痛みを生贄にみみたぶを召喚してきたわね。なら私は穴あけ機を召喚するわ」


「そういうのいいから早くして」


「じゃあ、いくわよ。5、4、3、2、1、0」


左耳のみみたぶに痛みが走る。

そしてシルバーのファッションピアスを付ける。

これで両耳ピアスになったわけだ。

フフフ。ついに俺もグレちゃったぜ。


「ニヤニヤすんなきもい」


「・・・・いいじゃん。少しぐらいにやけても」


「どーせ、俺ついにグレちゃったへへ。みたいなこと思ってんでしょ」


なぜバレた。

俺の姉は超能力なのかもしれん。

なら俺にも力が目覚めててもおかしくないんだが...。

まぁ、一向に目覚める気配はないんだけども。


一気に話は変わるが、どうせならピアス開けたこと美香に報告したろ。


俺はバックの中からスマホを取り出し美香に電話をかける。

数回のコール音のあと美香のだるそうな声がする。


「ねぇ、今からお風呂入ろうと思ってたんだけど」


「え、はや。じゃなくてごめん」


「で?なに?なんかあったの?」


「フフフ。それがな美香。両耳にピアス開けたんだ。少しやさぐれちゃったよ俺」


「・・・・・そんなことしてる暇あるなら少しでもメンタル強化と友達作りにでも励んだら?」


「至極真っ当でございますはい」


「じゃ、お風呂行くから。ばーい」


そう言って電話を切られた。

ド正論をぶち込まれて・・・・。

ハハ。


「美香ちゃんなんて?」


「そんなことしてる暇あるならメンタル強化でもしろって」


「プッ...アハハハハハ!!!ほんとにその通りだわ!」


「姉さんがそれ言ったら終わりだろ。実行犯あんただろ・・・・。はぁ・・・」


笑う姉さんを咎める気にもならないまま俺はため息を吐く。


「てか、あんた早く美香ちゃんと付き合わないの?」


「はぁ?美香はそんなんじゃないよ。何言ってんだこいつ」


「はぁ。私の弟ながらヘタレね。イ○ポでしょどーせ」


「おい、ナチュラルに下ネタぶっこむな。反応に困るだろ」


姉さんは下ネタに耐性があるほうだ。

なぜだかはしらんが。

そういうお年頃だからかもしれん。


「はぁ、あんたも早くDT捨てなよ。みっともない」


「全国のDTに謝れ、いますぐ」


「DTのみなさん、DTなんて言ってごめんなさい。これで満足?」


「うん、まぁ、うん・・・」


今のはノリだから素直に謝られても困るんだけど・・・。

そもそもDTは悪くないのだ。

いや、むしろ純潔を守っているのだから偉いとも言える!

いや、そうだ。絶対そうだね。

決して現実逃避とかではないからね?うん。


「てかさぁ」


「なに?」


「いや、こっちこそこれなに?」


そう言って姉さんが俺の目の前に取り出したのは俺の秘蔵のピンク本である。


・・・・・・・・why!?!?!?


「は!?!?なんで!?それを!?」


「廊下歩いてたらエンカウントした」


「RPGじゃねぇから!ドラゴンなんたらじゃねぇから!」


「そんなツッコミいらないから。で?これは?」


「・・・・・・・・」


「よし、美香ちゃんに報告したろ」


「ごめんなさい。ほんとにすいませんでした」


美香にこのことを言われたら明日からは構ってくれないかもしれない。

それは困る。

俺の高校生活が終わりへとまっしぐらだ。

ぼっちでトイレ飯してる未来しか見えない。


俺は姉さん相手に必死のドーゲーザーを見せる。

もちろん誠心誠意でだ。


「あんたもさそういうお年頃だから分かるけどさこれを隠さないとはどゆこと?」


「ほんとごめんなさい。もうバレないようにします」


「ふーん。まぁいいや。ほい」


そう言って姉さんは俺の目の前へとその本を投げ捨てる。

俺はその例のブツの瞬時に膝の下に隠す。


「じゃあ、部屋に戻るわ私。てか、あんたピアスとかしたら絶対クラスメイトに絡まれるね(ニコ)」


「あ、・・・・・・・・・」


俺の今頃気づいたという唖然とした顔をニヤニヤと見ながら姉さんはリビングを出て、階段を昇って行った。


明日からどしよ・・・・・・。

絶対絡まれるやん。

特にあのギャル3人組とかに・・・・・・。


俺は少しの絶望と果てしない緊張を心に抱え、その日を終えた。




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もう恋愛なんてしないと決めていたのに美少女たちが構ってきます 気候カナタ @kokixyz

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