3.見せなかった裏側

「世界樹のエストレリア」は、いわゆる「クソゲー」扱いされている乙女ゲームだ。

 二十歳の時代という、若き女の時代を終わろうとしていたあたしこと、丘咲おかざき さくらにとって、このゲームは特別なものである。例えそれが「不人気で不出来なゲーム」とこき下ろされようが。

 だって、大半は知らない。このゲームにどれだけあたしが心血を注いだかを。

 初めて受けた、大口のお仕事。シナリオライターとなってこんなに早く舞い込むなんて思わなくて、すごく力を入れたし、もちろん制作側も大喜びでほとんど駄目出しもなかった。

 だって当然だ。最初に制作側がつけた最優先事項が「悪役令嬢はあくまで、令嬢が「悪役」になりきる事を前提に」という内容だったから。

 だから、通常ルートは全て、ラスボスを彼女にした。しかも、そこにも伏線を張った。裏ルート、つまりトゥルーエンドと呼ばれるそれに辿り着ける、ヒントの欠片を埋め込みながら。

 だけど残念ながら、世間はそんな頭を使って乙女ゲームをしたいわけではなかったようだ。


『何このゲーム。全然悪役令嬢のざまぁがない』

『モノローグうっざ。悪役なら言い訳してないでヒロイン苛めて断罪されろ』

『このゲームのシナリオライター、悪役令嬢の事何も知らないで書いたでしょ。でなきゃこんな、同情誘うエンド作れないって』

『今年のクソゲーオブザイヤー確定』


 ……てめえら全員、しばき倒したろかああああ!!

 酷評の嵐を見て、あたしはスマホの画面を割りそうになった。危ない危ない。高いんだよ最近のスマホは。

 それより、だ。ここまでこき下ろされては、あたしも黙っちゃいられない。

『裏ルート開放のヒントを出して、ある程度の裏側を見せましょう! このゲームの本気度を舐められるのは、許せません!』

 あたしの言葉は、制作側にも同意だったようだ。早速、一番早く情報を出す雑誌に打診し、突貫で作った裏ルートへのヒントや裏話などを綴った情報を開示した。

 そしてそれは、それなりに効果を出したんじゃないか、と思う。

 何しろ、トゥルーエンドに辿り着くのは、並大抵の努力でどうにかなるものじゃない。王子ルートで血反吐を吐く思いをしながら悪役令嬢を倒すのは、実は間違いだったことを知る必要があるのだ。

 王子エンド含む表のエンドを全て終わらせた後、変化が訪れる。次の周から悪役令嬢のモノローグが変化するのだ。誰かの声を聴くように、誰かの声に応えるように。

 その度に緑のキラキラが出るようにエフェクトを加えてもらった。が、これだけではない。この状態で王子ルートをクリアする必要がある。

 王子ルートでエンディングを迎えた後、それまではエンディングスチルが出て終わりだったのが、後日談が流れるのだ。

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