2-4
「ねえねえ、あなた、名前何て言うの? あたし、さ……じゃなかった、プリムラっていうの! プリムラ・インビエル」
今、名前とちらなかった? このヒロイン。名前によって家の名前も変わるという、ちょっと変わった仕様なんだよね。つまり、今回はインビエル家って事か。えーと、男爵だっけ……平民に産ませた子供を一度母子共に捨てておいてまた拾って学園に送り込むとか、魂胆丸見え過ぎる。ヒロインはそれでいいんだろうか。
「……わたくしは、オルテンシア・イルミナルですわ。一年間、同じクラスとしてよろしくお願い致しますわ、プリムラ様」
「さ、様とか……! プリムラで呼び捨てにして下さい!」
とんでもない事言いやがった、このヒロイン。このオルテンシアが許すか、そんな低俗な行動。
「呼び捨てなど、相手を軽んじる行為ですわ。わたくしとあなたは初対面ですもの」
「もう初対面じゃないですよね! あたしも、オルテンシアさんって呼びます!」
平民根性が染みついてやがる。ここでいびってもいいけど、シナリオ外では基本、オルテンシアはいい人なんだよなあ。……仕方ない、ここらで妥協するか。こっちがごねても不利だし。
「では、プリムラさん、とお呼び致しますわ。それでよろしくて?」
「やった! ありがとうございますっ」
「それから、言葉遣いは少々、改めた方がよろしいのではなくて? 貴族という自覚が薄いようですけれど、教育はどなたがなさったんですの?」
さすがに嫌味の一つも言いたくなってしまった。いくら何でも砕けすぎなのだ。これでは虐められても文句は言えないというレベル。既に視線が刺さってるのが分かる。やーめーてー! 巻き添えにしないで!
「あっ……ご、ごめんなさい……。あたし、最近になって、孤児院から引き取られたばかりで……学校も、その、引き取った貴族の人が……どうしても入れっていうから……だから、勉強とかまだ全然で」
そういえば、ステータスがかなり低い初期値だったもんね。なるほど、孤児院かー。スラムよりはマシだろうけど、それでもいい環境じゃなかったんだろうな。まだまだ細すぎる見た目してるし。
しかし、魂胆はともかく、無理矢理入れられたのか。難関で有名な学校へ。しかも努力だけで。逆に尊敬するわそのガッツ。
あーでも、確かに帰ったら歓迎するのは基本的に兄だけで、両親は嫌な印象しかなかったな。だから兄との駆け落ちエンドと、確かお家乗っ取りエンドがあったはず。後者は両親の不正とかを暴いて、好感度次第では軟禁もあったんだよ……別名ヤンデレエンド。普通の乗っ取りは普通に結婚したけど。駆け落ちも好感度とイベント発生した時に「もう自由になりたい」って言ったらそうなるんだけど、これまた好感度次第では普通とヤンデレがある。なお、ヒロインが死ぬのはこの時のヤンデレエンドのみだ。「一緒に自由になろうね」って言って、ナイフで心臓を一突きだ。心中エンド、と言われている。怖いやつ。
このヒロインだとそうはならなさそうだけどね。おつむが心配なところ。
「そう。でしたら、色んな方と交流なさい。あなたに足りないものが何か、気付けるはずよ」
とりあえず巻き込まれたくないのでそう返すと、ヒロインことプリムラはじーっと私を見て言った。
「お、オルテンシアさんは……その、嫌いですか、あたしのこと?」
その発想はどこから来た。親切に色々教えただろうが。しかし、好感度は低いぞ。
「初対面から貴族らしさの欠片も無ければ、相応の態度も取れない方と親しくしたところで、わたくしには何のメリットもございませんことよ」
まずは己の内面を磨いて出直せや、とオブラートに包みまくった言葉に、プリムラはキラキラした目で私を見ている。何で!?
「す、素晴らしい……! 高潔な方なんですね……! 頑張ります!」
「……貴族として、当然の考えを述べたまでですわ」
既に私はヒロインと仲良くする事を放棄したくなっていた。おっかしいなあ。ゲーム内ではもうちょっとこう、いい感じにいい子だったはずなんだけどなあ……。
まあいいか。私もボロが出ないように気を付けないと、という反面教師にはなるでしょ。
――こうして、違和感と疲労感の強い一日目が終わったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます