2-3
「ご、ごめんなさいっ! 大丈夫ですか!?」
慌ててどけた少女の声に、私は立ち上がって制服の埃を丁寧に払うと、声の主たる少女――ヒロインに向き直り、いざ。
「廊下を走り、あまつさえ他人を巻き添えにして転ぶなんて、令嬢の風上にも置けませんわよ!」
……多分あってる。大体合ってるはずだ。伊達に二桁周回はしていない。
ヒロインは綺麗なピンクゴールドだ。えーと、何の力混ざってんだろう、これ。
そして庶民丸出しなお詫びを口にした。
「す、すみません! 遅刻しちゃいそうだったので……! っていうか、何でこんな所で立ちっぱなしだったんですか!」
そして、後半の文句は選択肢に無い物だった。
「えっ……」
素が出てしまうレベルだ。ヒロインといえど、作られたキャラだ。バグじゃないだろうな、これ!?
だがヒロインはお構いなしに私の背を押す。
「大体、もう予鈴も鳴ってるんですから、ほら、入りましょう! 急いで!」
「な、何、押さないで……!」
ぐいぐいと中へ追いやられ、誰も座りたがらなかったらしい真ん中の最前列に自然と座る形になる。座る場所は合ってるけど……何だ、この嫌な予感。
ややして担任が入ってきた。この担任も攻略キャラで、結構な重要人物だったりする。
「全員、揃っていますね。まずはようこそ、ユグドラシル学園へ。この学園を卒業出来る者は、未来を約束されていると言っても過言ではありません。心して勉学に励み、また、国を支えるべく互いに助け合う関係を築かれますよう。私はグラルディア・チセロ。このクラスの担任であり、魔法学の担当教諭です。気軽にグラルディア先生、とお呼びください」
黒いローブは、国の魔法使いである事を意味する。いや、ただの黒じゃない。裏地は白であり、更に裾に施された紋様の刺繍糸は、赤、青、緑、黄色全てを使っている。つまり、あれ自体が魔法そのものレベルのすごい代物だ。確か当人しか着脱不可能で、破く事も出来ないとか。万能過ぎてローブ脱ぐのを見れるのが、彼の攻略ルートのみとなっている。
ちらりとヒロインを見ると、ローブに釘付けだった。あれ? 本編だと顔じゃなかったっけ? やっぱりおかしい。
そういえば、このヒロインは目が藍色なのか。目の色も一応属性に影響するらしい。サブ属性と言うべきか。オルテンシアは銀髪なのだが、何故か使えるユニーク魔法が緑属性である。全然緑無いんですけど!? その辺も知らないまんまだわ……前世知識、使えない!
そして、入学式はそのまま教室にあるどでかいモニター魔法が使われた。壮年のおっさんぽい影が映し出される。顔がはっきりしないのは、ゲームだからだろうか。
『えー、諸君。改めて、入学おめでとう。競争率も高く、また試験も困難な中、諸君らは非常に努力し、その成果が今この場に居るという栄誉だ。だが、慢心してはならない。世界樹の枝がある限り、この国はそれを守るべく、存在し続ける必要がある。諸君らはこの国を通して世界樹を守る使命を果たす為に、この学園に入ったという責任を常に持ち続けるように。だが中庭にある世界樹はもちろん、誰の物でもない。ただし、あの樹を害した場合、即刻退学、及び国外追放という重罪が待ち受けている事を肝に銘じておいてくれたまえ』
マジか。そんな法律あったのか。初耳だわ。ていうか、世界樹にそんな事した馬鹿居るの? ……居るから言ってるのかな。何事も前例があれば、周知徹底するものだって前世のお父さんが言ってたし。
『それから、校内恋愛は禁止していない。何故ならば、世界樹は愛によって育つ。もちろん不純な行いをする事は禁止だが……世界樹に愛という水を撒く分には歓迎だ。今の世界樹も、各国の一枝から国中の愛を受け続けて大きく育っているのだ。その為、世界樹付近での戦闘行為、及び争いに関する事は全て、校則として禁止している。その代わり、世界樹のある中庭以外の指定区間におけるそれらの行為は、立ち合い人が一人以上居る場合に限り、許可している。なお、これらを観戦する事に制限は無いが、被害が及ばぬよう自衛出来るのが最低条件となる。気を付けるように』
へえ、じゃあヒロインと令嬢の対決もそれに則ったやつだったのか。場所は確か、裏門だったっけ? あそこなら許可されてるってことかなー。ま、ラスボスの私としてはどこでもいいんだけど。
と、そんな未来の予想はともかく、校内恋愛が堂々と認められるのは中々面白いネタだった。新聞部とかあるのかな。ゴシップネタには事欠かなさそう。
『細かい校則などは、常に持ち歩く学生証に魔法圧縮で記されている。各自、時間を見つけて目を通し、快適かつ勤勉に学園生活を送って欲しい。それでは、これより三年後、同じ人数がこの映像を見ている事を期待している。私からは以上だ』
そうして、校長の話はぷつんと切れた。
ふーむ、魔法圧縮とはまた便利な。そんなのもあるのね。後で目を通さないと。それにしても、ここまでで随分と初耳情報が多いな。やっぱり、外側と内側じゃ情報量が違うってことか。
ヒロインが不安要素だけど、どうせ勝手に下っ端が嫌がらせするから、私はそのフォローに回って、私の仕業って事にすればいいんだよね。内容はもちろん、周回で以下略。
うん、簡単な仕事ですね! 良かった!
入学式も終わり、後は時間まで自由にしていい、と告げて先生は出て行った。あれ、ここもシナリオ外だな。どうしたものか……。
と思ってると、隣からなれなれしく声を掛けられた。
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