2.目覚めたら転生者
「……ま、お嬢様、起きて下さいまし」
誰? お嬢様? ていうか眠いんだけど……あと五分。
「ほら、よい朝ですよ」
シャッ、という音と共に、眩しい光が閉じた目に入って来る。
やだなあ、さっきの事思い出しちゃう……ん?
「……あれ?」
むくり、と私は起き上がった。どこも痛くない。むしろ身軽だ。
はっ、雑誌はどこ!? ない! ないぃ!!
慌てて起きて布団をひっくり返したり枕をどけたりする私を見て、また声が掛けられた。
「お、お嬢様!? どうなさったのですか!?」
「どうって……お嬢様? 私が?」
「は、はい。お嬢様です」
あ、クラシックメイドの衣装だ。これはいつ見ても良い物だと思う。メイド喫茶のフリルとかリボンおっきいのとかも可愛いけど、あれは観賞用であって、実用性に欠けるんだよね。
それはともかく、私がお嬢様。何の冗談だ。
頭を軽く振って、さらさらとした感触に、そして目に入った銀色に、ぴた、と動きを止める。
私の髪は、こんなに長くない。そしてこんな色をしていない。
「……お嬢様、大丈夫ですか? 顔を洗えますか?」
「う、うん」
メイドも戸惑ってる。私も戸惑ってる。おお、完全にどうしたらいいんだこれ。
そう思っていると、メイドが私の前に洗面器を出す。透明なその水が朝日を受けて鏡のように、私の顔を映し出す。
その目が赤と青のオッドアイと気付き、愕然とした。
「……オルテンシア」
ざっと血の気が引く。見間違いかと顔を洗っても、やはり変わらない。
上質なタオルを受け取り、顔を拭いてもまるで自分の顔とは違い、すべすべだ。
「…………」
(えーっと、ここで中身が別人ですって言うとまずい、よね? お約束として、医者だのなんだのと面倒になってくる……。これはシナリオを外れるフラグ!)
「ええと、今日は何日だったかしら……? おかしな夢を見てしまったようなの。ごめんなさいね」
何とかオルテンシアを演じる事にした私は、メイドにそれとなく日にちを聞き出す。容姿からして、ゲーム本編と何ら変わらないだろうことは分かっている。下手するともう始まってる可能性はあった。
だが、メイドはいつものオルテンシアに戻ったと思ってほっとしたのか、すらすらと答えてくれた。
「本日は、学園の入学式にございます。少々お早いお時間に起こすよう昨夜、仰られておりましたので」
「あ、ああ……そう、ね。ええと、まずはそう、支度をしなくては」
「はい。朝の湯浴みですね? お任せ下さいませ! 既に準備は整えております!」
朝からお風呂! 確かオルテンシアって公爵家だっけ? 贅沢ぅ!
まだ眠くはあるけれど、二度寝など出来ない。私はスリッパをはいて、メイドに連れられ、備え付けの浴室へ向かうのだった。
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