ラバーラヴ

エリー.ファー

ラバーラヴ

 私たちは愛を求めている。

 本当だ。

 嘘じゃない。

 真実ではない、愛を求めている。

 真実や現実はいつだって、私たちを突き放してきた。しかし、愛は違う。

 そうだろう。

 愛は、真実や現実とは全く違う尺度で私たちを迎えに来てくれる。そのことを知っているから、どうしようもなく求めて、逆に求められると億劫に感じるのだ。

 嘘とか欺瞞とか、そういう小難しいことを忘れさせてくれる麻薬。

 それが愛だ。

 愛が欲しい。

 愛に飢えている。

 愛を英語にすると、Iとなる。だから私たちは結果として、自分自身を求めているんだ。

 なんていう、体のいい言葉の重ね合わせなんて全く興味はない。はぐらかしあいをしたいということではない。

 真正面からだ。純粋で間違いのないもの、まじりっけのないもの、純度百パーセントのそれが欲しい。

 分かっているだろう。

 愛だよ。

 金や平和や、誰かの優しさや肩書や地位や名誉。そんなものではない。

 愛だよ。

 愛が欲しいんだ。

 いずれ、同じところを歩く仲間を見つけるとしても、その愛がなければ仲間として認めることもできない。手に入らないという悩みを持っているんじゃない。それが何なのかすら分かっていないことが既に悩みになっている。

 形を知らない。

 味を知らない。

 風味を知らない。

 癖を知らない。

 何もかも分からない。

 愛を欲している。

 誰もが、だ。

 私だけではない。貴方だってそうだろう。失ってしまったし、もう二度と手に入らないんじゃないかと思ってここにきて、気が付けば十数年と数か月と数日と、数時間と数分と数秒。

 そのまま死ぬのも悪くないと思ったところで、その価値に気が付くようなイベントが待っている。

 分かっている。

 フラグはあった。

 それが折られる兆候もない。

 だとしたら、この愛について誰が語るのか。

 もう、自分で語る術を持たない人間がこんなにも溢れてしまったのに、それなのにまた愛の尊さを語る言葉ばかりが溢れている。

 実物などどこにもないのに。

 実物などあってしかるべきだ、なんて思いこんだ人間ばかりなのに。

 何もないのに、手放しで抱きしめられるのが愛だろう。

 愛を失って生きていくことができないのなら、今生きているのは何のおかげなのか。何故、そこに疑問を持たない。

 いがみあって生じた摩擦熱が、ある日、誰かの勘違いで花になる。

 それが愛だろう。

 嘘じゃない。

 本当だ。

 これは、本当の話だ。

 誰もが知っているのに、誰もが誰かから聞かないと気づくことのできない愛の本性だ。

 だから。

 これも誰かに教えて欲しい。

 貴方の言葉と、貴方の生き方と、貴方の背中と、貴方の声と、貴方のその芯で伝えて欲しい。

 ただ。

 それでも。


 私はそこまで原稿を書き上げて少しだけ珈琲を飲む。

 美味しくはない。

 私は珈琲が嫌いなのである。何度飲んでも慣れることがないし、これを体の中に落とし込んで何かしらの良い感情を持つ人間がいることを信じることができない。

 だから、そうやって人を遠ざけて生きているから、自分の文章を見て笑ってしまう。

 愛の次に続く感情は何なのだろうか。

 心か、魂か、それとも社会や、文明、文化なのか。

 私は珈琲を目の前のテーブルにゆっくりとかけながらそれを見つめる。

 愛が大切か。


「真に受けるな」

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