遊びのつもりだったのに

ネルシア

遊びのつもりだったのに

「好きです、私と付き合ってくだい……!!」


目の前にいるのはショートヘアが似合う小さくて可愛らしい女の子。


そしてその告白を受ける遊び人でもある私。

今まで男を取っかえ引っ変えというかセフレとして遊んできたけど同性……かぁ……。

初めてだなぁ……。

まぁ、遊んでみて飽きたら捨てるか。


「いいよ、よろしくね。」


今にも泣き出しそうな顔で目をぎゅっと閉じて俯いてたその子の顔がパァっと明るくなる。


「ほ、ほんとに!?これからよろしくね!!」


そう言って元気に私に抱きついてくる。

まぁ本気で長い付き合いになる訳でもないしなー。

そう思いつつ、返答する。


「うん。よろしく。」



その日の放課後、お出かけしない?と誘われ、街をぶらつく。


「これってデート……だよね?」


初だなぁ……。

付き合ったこと無いのかな。


「そうだねー、どこか行く?」


「デート……デートかぁ……ふふ……。」


私の言葉が届いていない。

頭の中1面に私と付き合っている事実で満たされているのだろう。


心がズキリと痛む。


あんな風に人を好きになったのはいつだったっけ。


「あ、ここいこ!!」


「……あ、うん。」


突然の提案に同意することしか出来なかった。

ぬいぐるみ屋さんだった。

至る所に様々な大小のぬいぐるみ。

珍しい店もあったもんだなと思う。


「うわぁ……どれも可愛いなぁ……。」


高校生というよりまるで小学生。

汚れを知らず、目の前の世界がキラキラして見えているのだろう。

こんな汚れた私のどこが良いのだろうか。


「……ねぇ。」


「ん?なーに?」


「ちょっと、人いないとこに行こっか。」


「……分かった。」


私の顔色を見てか余程深刻な事だと察してくれた。

公園のベンチに座り、問う。


「私のどこが好きなの?」


「たくさんあるよ!!

誰とでも話せるところ。

ストレス感じると鼻をしきりにつまむ所。

細かい気配りができるところ。

ちゃんとありがとうって言ってるところ。

挨拶もしっかりやってるところ。」


あぁ、私が嫌われないようにしてる事だ……。


本当の私は寂しくて誰かに着いて回ることしか出来ない女……。

遊びで男と付き合って、そいつに振られるまで遊ぶだけしか脳がない私。


「でもね。そんな風な人間でいようと頑張ってるところが1番好き。」


ぶわぁぁぁっと何かが駆け巡る。

……え?


「私知ってるよ。

貴女は本当は寂しがりなこと。

嫌われないように努力してること。

でも、私はそんな弱い貴女が好きなの。」


明るい笑顔で私を見てくる。

……こんなことを言う人がいるなんて……ね……。


「そ、じゃぁ、」


遊びで付き合ってるって言ったらこの人は離れるのだろうか?

そう聞こうとして、続きを取られる。


「じゃぁ、もし遊びで付き合ってあげてるだけでもいいの?かな?」


「……それを知ってて?」


「見てたら分かるよ。振られても引きずってないし、本当に誰かを好きになったことなんてこの人はないんだろうなぁって思った。」


「…………。」


なら余計に私と付き合ってる意味がわからない。


「でもね、」


急に距離を近づけてくる。


「絶対貴女を落としてみせるから覚悟しといて。」


小さいはずのその子がやけにかっこよく見えた。


「……少しくらいは期待してるよ。」


「うん!!

あ!!もうこんな時間!!

帰ろっか?」


「そうだね。」


世の中不思議な奴もいるもんだとその時はただそう思った。


その後、放課後や休日遊んでいたある日、学校に行くとその子は休みだった。


「……いないのか。」


他の人と話すが色が無いように感じる。

全てがモノクロ。


放課後、どこに行こうか考える。


「ねぇ、今日はどこにいこーーー。」


……今日は1人じゃん。

仕方なく帰り道に着く。


あぁ、ここでこんな話したな。


このアイスの屋台で買ったけどあの子お腹痛くなっちゃって私が食べたんだっけ。


あ、このぬいぐるみ屋さん。

初めてデートした場所だ。


……あれ?

なんでこんなに考えてるの……?


「何……これ……。」


急に顔が熱くなる。

こんなこと今まで無かった。

どこで遊んだとか、どこで何をしたとかそんなことを思い出したことは1度もない。


「……うわぁ……うわぁぁぁぁあ……。」


これが恋かぁ……。


いても立ってもいられず、家まで走って帰った。


翌日、教室に入ると元気になっていたみたいでほっとした。


「おはよう、もう大丈夫なの?」


「うん!!まぁ昨日は家族の用事で来れなかっただけだからねー。ごめんね?」


にへらと笑うその子の顔を見て鼓動が1つ。


「……放課後、遊べる?」


「もちろん!!」


心の中でガッツポーズをする。


放課後、また公園に連れ出す。


「ねぇ。」


「なぁに?」


好き。

その一言を言おうとして喉が詰まる。

出てこない。

言おうとしても心臓が邪魔をする。

この子はこれほどの覚悟と勇気を持って私に好きって言ってくれた。

だから、今度は私が返さないと。


「え……と……。」


言え、ちゃんと言え。

生まれて初めての本物の恋だぞ。

遊びじゃなくて。

一生のパートナーとして過ごしたい相手だぞ。


「好き!!!!!!」


やっとの思いで吐き出した声は自分でも驚くほど大きかった。


「……はぁ……はぁ……はぁ…………。」


体が震える。

こんなにも疲れるなんて……。


「私も好き。」


優しい心地いい言葉が返ってくる。


「……いい?」


「いいよ。」


互いの唇をそっと重ねて、優しく舐め合う。

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遊びのつもりだったのに ネルシア @rurine

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