第10話 小さな英雄は今日も旅をする。
俺はラルフが魔眼を取りこんだ魔具を手にもち、魔眼を魔具の中へと移動させた。そして、それをレアリスの右目に当て、そしてその魔眼は、元の持ち主の目へと帰った。
「ほい。これでもう大丈夫だぜ。どうだ、気持ち悪くないか?」
「う、うん……今の所大丈夫だよ。その、ありがとう、アズ兄さん。どの、僕にとって、アズ兄さんは英雄、だね」
レアリスは元の所に戻った両目をを俺に向け、そして抱き着いてきた。弱弱しくもしっかりと小さな腕に包まれた俺は、それに応えるようにレアリスの頭を抱き寄せ、撫でる。
「へっ、ありがとうな。でもレアリス、君も本当、よく頑張ったな。
辛かったろ。さあ、ベロカーラに帰ろうぜ」
レアリスはうなずき、俺の手を握る。
「随分なつかれましたね。本当の弟みたいに。外見は全く似てませんが、……まあ、優しいという心は似ているようですし、特段違和感はないかもしれないですね」
「へ、俺は一人っ子だし、別に弟欲しいとは思ったことはなかったが、まあ悪くはねえな。フェリオ、お前も、ほんとありがとな」
「ま、素直にその言葉、受け取っておきましょう。僕は旅人組合で活動してますし、また一緒に活動出来る時もあるでしょうし、これからも、よろしくお願いしますよ」
フェリオはそういい、顔を背ける。こいつは俺に対しては当たりが強いが、悪い奴じゃない。それは確実に言えることだ。フェリオがいなかったら、多分俺は死んでたと思う。願わくば、これからも手を組んでいきたいもんだと、俺は密かに思っていた。
「それじゃあ皆、帰ろう! ベロカーラに!」
そして、ベリーのその掛け声を合図に、俺たちはその場を後にした。ラルフの扱いについては、ベロカーラ騎士団に連絡をしているとのことだったため、騎士団に任せることとなった。だが、しばらくたった時に知ったことだが、ラルフは騎士団に捕まったが逃走したらしく、その大型犯罪組織の頭はまだどこかで活動をしているのだろう。
俺たちはベロカーラに戻り、そしてレアリスの両親とその護衛をしていた人たちの墓参りをした。彼らの亡骸はすでにベロカーラ騎士団が回収し、彼らがすでに持っていたお墓へと案内し、そして星に還ったそうだった。俺たちはそのお墓の場所を聞き、跪いて、ご両親に報告した。
「レアリスの両親さん。無事、依頼は達成したっすよ。これでレアリスがこれからも生きていける。乗りかかった船だし、このままにもしておけないから、これからは俺がレアリスの面倒を見ようと思ってますよ。だから、安心して、星の御心に帰って大丈夫っすよ。――それじゃあ、お元気で」
レアリス、フェリオが二人で先に挨拶をして、最後に俺が挨拶をした。なぜ一緒じゃないのか、それは、ちゃんと伝えたいことを伝えるのには、こういう時は一人の方が言い易いからだった。俺はゆっくりと立ち上がり、入り口の方で待っているレアリスとフェリオの方へ向かった。こうして、俺の初めての緊急依頼は終わった。小さな命を救う、重要で大切な依頼をなんとかこなしたのだった。
それからは、旅人組合の方でいつの間にかフェリオとパーティーに入れられていた俺は、ベロカーラを拠点にして、レアリスの様子も見ながらも、旅人としての依頼や冒険を続けていった。
――
俺は何杯目か忘れた酒をぐいっと飲み干し、最後のつまみも口に頬張った。夜も更け、客たちはまばらになってきていた。残っているのは数人の一人客に俺、そして店主と音楽魔術師だ。
「はえー。それで、お客さんはその少年を救ったんですか。それはすごい英雄譚ですな!」
「いえいえ、そんな大層なことはしてねえんすよ。結局、俺自身がそういうことをするのが気に食わないってが一番大きいんすから」
「それで、その少年は今どこにいるんです? ご両親が亡くなったなら、親戚の家とか?」
「いやいや、まあ、そこも深い事情があって俺も整理できてないんすけど、とりあえず今は俺のところにいるんすよ。学校に通いながら、旅人組合の手伝いもしてるんすよね」
「それはまた立派な少年だ! 今度連れてきてくださいよ。未成年用の飲み物も準備しますよ!」
「そりゃありがてえ。そんじゃ、また今度連れてきますぜ、店主」
俺と店主の話が一区切りつき、一息息を吐き出す。先ほどまでの賑わいから一転、静寂が店内を包み込み、音楽魔術師の心地よいリラックスミュージックの音心地もあり、眠気が俺の瞼を閉じようと悪戯をしてきていた。
(今日はこれで帰るか。明日は組合で待機することにしてるし)
そんな風に考え始め、俺は金袋を取り出した。
「店主。今日はこれで会計を……」
そういって、金袋を手に持った時だった。俺の隣に誰かが座り
、俺の代わりに金を出していた。
「うちの団員がお世話になりました! ここは私が出すよ! はい、おつりは大丈夫だよ!」
この明るく人を心地よくさせる明瞭な声。俺はついにやけ、その上司である女性に声をかけた。
「全く、急になんなんすか、ベリーさん。びっくりしたじゃないっすか」
フードを外し、その人懐っこい笑顔をしている、国境なき騎士団の第二団長、ベリーは、俺の肩を叩き、続ける。
「明日、手伝ってほしい依頼があるんだ! だから、明日は国境なき騎士団の方に来てほしくね! だからこれは来てもらうためのほんの気持ちだよ!」
全くこの人は、お人好しなんだ。でも、俺はこの人柄にも惹かれて、この人についていきたいと思った。だから、俺はもちろんこう答えた。
「ありがとうございます。ま、支払いは俺がしますけど、そんなことしなくたって、ベリーさんに言われれば、俺はあなたについていきますよ。国境のない騎士団の団員として、そして、俺自身がそれをしたいから」
俺は、あの日にあの人に出会い、レアリスの出来事のあと、国境なき騎士団に入団した。彼女らが掲げる信念に理解と共感を自然とうけたからで、そしてベリーについていきたいと自然に思えたからだ。だから俺は、その小さな小さな、素朴な旅人が経験した冒険譚を皮切りに、俺の目指したい道を探しながら、活動をしていくだろう。
小さな小さな未来を、守り大きくしていくために。
魔眼少年と駆け出し英雄譚 後藤 悠慈 @yuji4633
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