第5話  アストラルギア


 極東支部の支部長室。

「これが、あそこで見つかった刀か」

「そうだ。これがビーストのコアになっていたっぽい」

 支部長のジークが手に取りまじまじと観察する。

「あの辺りにビーストの反応はなかった。これは揺るぎない事実だ。しかし、結果から見ればビーストがいた。それもまた事実だ」

 白妙ノ太刀を机の上に戻し、窓の外を見る。

「極東支部一番の問題は国内のアストリアの養成がかなり難航している」

 支部長の言葉は重いものであった。

「動いているのは金沢、津軽、明石、下関、あとは九州方面で界門の周囲で事案が起きたから、養成機関封鎖して防衛隊の前線拠点になってる」

 静岡はもう運営再開できそうだが、それでも養成機関が足りないと言ってもいいだろう。

「その点からも海外からの戦力斡旋をしてもらいたいが……、戦力を分けられるほど余裕が無いのは向こうも同じ」

 支部長はサーティンに向き直る。

「だからお前のような個人運営の事務所を作らせている部分もある」

 支部の都合で動かない人材がいるようにすることで、痒いところに手が届くようにしているということらしい。



「今回の一件は予想外の事態であったが、お前が早急に報告してくれたおかげで今後の支部の運営方針を考えるきっかけになった」

 支部長は白妙ノ太刀をサーティンに渡そうとする。

「これはいいのか?」

 サーティンはてっきり支部の方で保管すると思っていた。

「いいさ。どうせ零號ぜろごうアストラルギアを運用できる人材がいないからな」

 サーティンが受け取ろうとする。


 サーティンが白妙ノ太刀を手にした瞬間、バリアリアが勝手に変形し白妙ノ太刀をその内部に取り込んでしまった。


「は?」

「え?」

「「ほわあああああああああああああああああああ!!」」


 零號アストラルギアは再製造する手段がない。

 喪失してしまえば、もうそれまで。


「はああああああああああああああ。どうするかな」

 海より深いような溜息を吐きその場にしゃがみ込む。

 支部長は数十秒ほどしゃがみこんだ後、

「マジな話をするなら、多分バリアリアのコアが自分の分身だと思って取り込んだんだろうな」

 支部長はサーティンの左腕に着けているバリアリアに目を向ける。

「それは、バリアリアは、不定のアストラルギアっての解っているだろ?」

 サーティンが頷くのを見ると、

「それは零號を基に造られた最後のアストラルギアだ。それがバリアリアが不定形な理由だ」

「まさかとは思うが」

 サーティンは自分の左腕を見る。

「そうだ。零號を自分の分身だと認識しているのかもしれない。その上、白妙ノ太刀はバリアリアの前身、スノウホワイトが使っていた白妙だった。その頃の感覚が残っていた可能性もある」

 スノウホワイトが前の持ち主だったことは意外だった。

 アストラルギアは持ち主の精神を写し出すことで戦える状態になる。そのデータをリセットしたりすることで、他の人間が同じコアのアストラルギアを使うことができる。


「どっちにしろ零號を摘出する手段はない。この辺りは割り切るか」

支部長はあっさりと引き下がる。

「今回の件は支部に依頼が来ていない。だから今回は支部として認知していないということでなかったことにすれば良いだけだ」

そう言って、支部長室から追い出された。


極東支部の全指揮権を持っている以上、支部長の裁量しだいでなかったことに出来るとのことらしい。

「帰るか」

そう言って一度事務所への帰路に就く。



「さて、今回の一件でわかったのはサーティンは予想以上のスピードで進化しているということか」

椅子に身体を預け、天井をにらむ。

「スノウホワイトだけじゃない。四聖も過半数がいない。それでも現状維持できていたことを見れば、白妙ノ太刀が顕現するのも必然か」

引き出しから一冊のファイルを取り出す。

「これから忙しくなりそうだ」

支部長が机に向き直りパソコンを立ち上げる。


「ああ、俺だ。例のビーストの出現予定を」


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アストラル・アビリティ みない @minaisan

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