第101話
王都から人が消えた……なんてことはない。確かに中央通りには人はいない。しかし、ハッキリと感じる。家の中に人の気配を感じる。まるで何かに怯えて皆が隠れているそんな様子。
「まるで国が死んでいるみたいだ」
「いいえ、メロベキアはもう死んでいるわ」
馬を操りながらマリーはそう言う。その言葉には怒気と憐憫が入り混じっているようだ。
「でもここから生き返らせてみせる。王と宰相を――危ない!」
前方から大量の矢が降り注ぐ。道としては十分な大きさの中央通りはしかし戦場としてはかなり手狭な空間である。
俺とマリー、ニーアは馬を捨て左右へと回避し、家々の屋根の下へ潜り込む。降り注ぐ無数の矢は疾走する馬を襲い、甲高いいななきを上げて倒れた。
「王城までもうすぐなのに!」
マリーが歯噛みしながらそう言う。王城に続くであろう城門の前には多数の弓兵を率いたサロメの姿があった。やはり、ニーアが言っていた通り、サロメがメロべキアの内通者だったようだ。
「メロべキアの民達よ! 王へ歯向かう賊を捕らえよ!」
サロメが叫んだ瞬間、家々の扉が次々と開き家の中に潜んでいたであろう王国民達が棍棒や包丁など、自宅で用意できるような武器を持って飛び出してきた。
「まんまとかかったってことよね……」
王都の前で感じた違和。普段を知らないサトルでさえ変だと思った。しかし刻一刻を争う今、三人には突入以外の選択肢はなかった。
棍棒を持った男が俺達に襲いかかる。俺はエクスカリバーでそれを受ける。棍棒はエクスカリバーの刃に当たるとそのまま真っ二つに斬れてしまった。
「ひっ!」
その光景を見た男が一歩下がって、そのまま逃げだした。
彼らはやりたくてやっているのではないのだろう。王の名だから、逆らえばそれこそ命がないから……彼らもそう行動せざるを得ないのだ。
「ああぁぁぁあ!」
逃げ出した男が中央通りに出た瞬間であった、サトル達を襲った無数の矢が再び降り注いだ。防ぐすべのない男は先ほどの馬同様、甲高い叫び声を上げて倒れた。背中には無数の矢。王城への道を赤く染め上げる。
「クソ!」
サトルは悪態をつく。おそらく弓兵には動く影が見えたら矢を放つように言ってあるのだろう。逃げ場の少ない王都内におびき寄せ、罪のない国民達にサトル達を襲わせ、屋根から飛び出したら念入りに矢を降らせる。
サロメのやっている作戦は卑劣極まりない方法だ。王や宰相同様、国民を、人を人と思わぬ最低の所業である。
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