第100話
最低限の荷物を積み、ほぼ休みなく馬を走らせてもクリエ草原から帝都まで二日は掛かった。
戦いの疲れも癒えぬままの強行軍。
だが、最悪のシナリオは勇者召喚の方法を熟知しているアブラハム王と宰相サラディに逃げられることだ。
それはこの世界にいる限り、サトルの安寧は訪れないという事。
サトルの死がまた悲劇を作り出す侵略国家を生むと言うことである。
負の連鎖の元凶である二人を逃がすわけにはいかない。
「王都が見えてきたわ!」
大きな街道を進み、視界の端にメロベキア王都が見えてきた。
「このまま一気に乗り込むわよ!」
「あぁ!」
街道の周りには遮蔽物と呼べるものはなく、伏兵などを気にする必要はない。
このままの勢いで正門を突破し、王城へと乗り込む算段だ。
それまでに障害があればグングニールで吹き飛ばし突破する。
多少なりとも罪のない一般人も巻き込んでしまうかもしれない……だが、件の二人を逃がしてしまえば、今後どれだけの規模の人々が苦しむかわからないのだ。
王都に特に変わったような様子は今のところ見られない。
サロメが裏切り者だとするならば、姿を消した彼らはサトルらより先に王都へ向かい何かしらの準備をしていると踏んでいた。
だが、正門に大量の騎士達がいるわけでもなく、固く閉ざされているわけでもない。
普段を知らないサトルから見れば特に変わった様子はないように思う。
「妙ね……静かすぎる」
同じ馬に乗り、騎手をしているマリーが言う。
「どういうことだ?」
彼女の疑問の意味が分からないサトルはそうマリーに質問した。
「普段なら行商人が列を成してるのよ。王都で商売をするためにね。その他にも王都内のお店に仕入れをする人たちもいるから……」
かつて王都で暮らしていた彼女が言うならそうなのであろう。
そんな異変は潜入していたニーアも分かっているはずだ。それでも、先頭を行く彼女から特に指示は降りてこない。罠かもしれないと考えつつも、このまま当初の予定通りに正門を突っ切っていくと言う事なのだろう。
これから何があってもすぐに対応できるようにサトルはエクスカリバーを構えた。
正門が近づくもそこから見える王都内からは人の気配を感じられない。軽く悶着があると思っていた、門を守っているはずの守衛などもいない。
俺達はそのまま難なく正門を突破した。
「誰もいない……」
もぬけの殻。マリーの話からそこまでサラニアのような活気はないと聞いていたが、流石にこれは変だ。突如として王都に住む人間が消えてしまったような異様な様。
国の中心地だと言うのに人っ子一人いない。
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