第95話
黒髪の少女を葬るも、それだけでは止まらないアラダイン。更に踏み込み、ドライの蹴りで間合いを離したサトルとマリーへと追撃。
アラダインの表情は薄ら笑いすら浮かべず、無常に、無慈悲に、ただその剣にて対象を斬るために全身を駆動させている。
エクスカリバーもなく、打つ手もない。ドライを犠牲に余命を数秒間だけ伸ばしただけだ。ここで諦めることは簡単だ。だが、サトルにはそれで終われない理由がある。
ただただ、後ろにいるマリーだけでも守りたい。
そんなサトルの思いが、今にも潰えそうな希望に手を伸ばさせた。
それは腰に下げた一本の古びたダガー。
マリーからお守り代わりだと貰ったプレゼント。彼女曰く、父が使っていた品によく似ているのだと言う。
サトルは左手で、腰に携えたダガーの柄を逆手で持ち、勢い良く引き抜いた。
スキル【ウェポンマスター】発動!
スキル発動と同時に慟哭にも似た一つの感情がサトルの全身に駆け抜ける。
「マルグリットおぉぉぉ‼」
身体を駆ける衝動と感情を吐き出すようにサトルの喉奥からその叫びを上げさせた。
サトル自身が持つマリーを助けたいと思う心と、ダガーから雪崩れ込んでくるナニかが共鳴し噴出するままに――
何時もあったスキルに引っ張られるような感覚ではなく、己の確固たる意志と統合するように、一切の不自然さはなく、違和感もなく、昔から自分のものであったようにそのダガーに刻まれた経験を引き出した。
迫るヒロイックスレイヤーをダガーの刀身で受け、十字架を思わせる、長く特徴的な鍔を右手で掴み、巧みな力の強弱によって――
アラダイン必殺と思われた一撃を受け流した。
十分な体勢ではなかったが、ダガーによって急場は凌いだ二人。サトルは足場を整え、アラダインの追撃の備えてダガーを構え直す。
しかし――
「おのれ! アレイスタ―!!」
騎士団長からの追撃は来ない。
今まで、自分の野望を語る際でも全く崩すことのなかったアラダインの騎士然とした態度が豹変。怨嗟に満ち満ちた雄たけびを上げる。
「ここに来て! こんな時にも! 貴様はまだ私の邪魔をすると言うのかぁぁあ!」
感情的に喚き散らすアラダイン。彼は勇者殺しの剣を、幻影を斬り裂くようにデタラメに振り回している。
アレイスター。
その名が誰を示してくれているのかはサトルが握るダガーが教えてくれた。幾度かの発動に際し、サトルが持つウェポンマスターの練度も向上。
その武器の持つ経験だけではなく、記憶や持ち主の感情も獲得できるに至っていた。
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