第67話


 数日をかけ、サトル達はサラニア共和国へ到着した。


 サラニア共和国は元々それ程大きな国家ではなかったものの、メロベキアの侵略戦争によって国を追われた難民が集まり、今では世界でも最大級の人口へと膨れ上がった国なのだと言う。


 さらに、メロベキアの侵略を恐れた他国が、積極的に出資をしておりメロベキアに対する最後の砦とも言われている。


「サラニアには特に問題なく入れたけれど、問題はここからね。私達が目指すのは首都サザラ。そこに入るには検問所を抜けないといけないわ」

「その検問所を抜けるのがそんなに大変なのか?」


 ニーアの話によると、サラニアの国民は多くが難民……メロベキアを恨む者はもちろん多く、どんな事情があれその憎しみは勇者にも向けられる。


 召喚勇者がメロベキアでどんな扱いを受けていたにしろ、彼らにとって勇者とは侵略の象徴。国を滅ぼした怨敵であることに変わりないのだ。


 故に、勇者でるサトルとメロベキア国民であるマリーの入国は慎重を期さねばならない。


「まぁ難民が寄せ集まってできた烏合の衆とでも言うのかしらね。国の管理は多くの難民には届いていなくて、首都の周り一帯はある種の無法地帯になってるわ。それでもサラニアが難民を受け入れているのは周りの国からの出資を受けるためね」


 ニーアの表情は浮かない。難民の受け入れをしている立派な国ではないかとサトルは思うが、実情はそんな優しい話ではないらしい。


「それが難民たちに行き届けばいいんだけど、実際は一部の富裕層が独占してるみたいなのよね。いや、その出資のおかげで富裕層になった連中って言った方がいいかもしれないわね」


 こんな時にまで人間と言う生き物はなんて強欲なんだとサトルは思う。どれだけ文明が発達した世界でも、異世界でも人間の本質は何も変わらないらしい。


 サラニア共和国に入って二日程で首都サザラへ到着した。


 サザラは巨大な城壁に囲まれた城塞都市であり、遠くからそれを望んだサトルからすれば感嘆する光景であった。


 しかし近付くにつれて、サラニアと言う国の実情が見えてくる。


 サザラを囲うように無数の粗雑な家々が立ち並んでいるのだ。それは没落村の何倍もの劣悪さと規模であり、人間でひしめいていた。


「うっ――」


 不意に吹いた風がサトルの鼻腔へとなだれ込む。眉根を寄せて瞬時に鼻をつまむ程の悪臭。


 長年掃除をせずに荒れ放題となっている公衆トイレのような不快な臭いと、炎天下に放置された生ごみの臭いを混ぜたような刺激臭。


 そこにさらに混ざる微かな焦げ臭ささ。


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