第63話


 殲滅の一閃「グングニール」――


 サトルの頭をよぎったナニか。サトルの目的に聖剣が導き出したであろう答え。

 サトルは目を見開き、外の様子を伺うニーアに並ぶ。


「何かあるの?」

「わからないけど、試してみる価値はあると思う」


 サトルは聖剣を天へと掲げ、叫ぶ。


「殲滅の一閃! グングニール!」


 上空から眩い程の光が現れ、そこに十メートルはあろう巨大な槍が出現した。

 そして、聖剣に導かれるようにして、目標へ向けて剣先を振り下ろした。


 上空に出現した槍はこちらを追いかける騎馬隊へと向かい、地面に突き刺ささった瞬間――凄まじい爆発を引き起こした。


 グングニールの引き起こした爆発に伴って起きた爆風が広がり、林道の木々をなぎ倒し、余波の風がサトルの顔へと叩きつけられる。


 顏を腕で多い、凄まじい風に顏をしかめるサトルは薄く開いた目で後方を見やる。

 爆風で巻き上げられた土煙で視界が遮断され、様子を窺い知ることはできない。


 しばらくして、薄くなっていく土煙の中に動く者の様子は認められなかった。


 追っ手は完全に退けた。そう考えるには十分すぎる程の威力を示したグングニール。そのことにニーアもマリーも、サトルですら歓喜の声を上げることは無く――


 ただただ、小さくなりつつある光景に戦慄するしかなかった。


◇◇◇


 その後も荷馬車を全速力で走らせ続け、絶対安全と思われる距離を取れたと確信した時、限界に近い馬を休ませるために荷馬車を止めた。


 その逃亡劇の最中、誰も言葉を発しなかった。


 そしてサトルは何も考えないようにしていた。思考を巡らせることによって何かに押しつぶされてしまうかもしれないからだ。


「もう大丈夫だと思うけど……念のため近くにはいてね」


 荷馬車から降りた各々には休憩の時間が設けられた。馬を休めるのも大切だが、荷馬車に揺られると言うのも疲れるものだ。


 サトルは近くの木陰に腰かける。

 手持ち無沙汰に聖剣を観察しながら、思考してしまった。


 何人死んだろうか。何人殺したのだろうか。

 誰かが死ぬかもしれないと、そんなことを考える前に、現状を打破するために放たれたグングニール。


 あの破壊力だ。

 サトルが意図せずとも死者は出たであろう。


 サトルは恐れた。

 没落村で王国騎士と対峙し、確実に殺せる機会を逃した自分が、目の前の敵に剣を突き立てることに躊躇した自分が――


 今、全くもって良心の呵責を感じていないと言うことに……


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