第64話


「隣、いいかな?」


 サトルが声の方向へと振り向くとそこにはマリーがいた。

 返事は返さなかったが、彼女はサトルの横へと座った。


「すごかったね。えっと……グングニールだっけ? あんな力があるなんて私ビックリしたよ」

「……」

「颯爽と窮地を救ってくれて、本当勇者様って感じでかっこよかったよ!」

「……」

「やっぱり、誰かを殺したことに罪の意識を感じてるの?」

「違うんだ。何も感じないんだ……」


 誰かを殺したことに関して感情が動かない。心が動じない。

 そのことに罪悪感がある。


「ありがとう」

「え?」

「サトルが何を感じてるのかはわからない。ただあの時にサトルがああしなければ、私達は捕まってたし、遅かれ早かれ殺されてた。だから助けてくれて、命を救ってくれてありがとう」


 マリーのありがとうに救われた。


 あの時、「最後にその選択が君を、マリーを助けることに繋がるなら、俺は迷わない」そう言った自分の覚悟はなんて儚い誓いだったのだろう。


 以前の世界の規範に縛られるな。そして忘れるな今は自分が生きるために、誰かを守るためにも、他者を傷つけないといけない時がある。そんな渦中に放り込まれていることを。


 そんな迷いは全てが終わった後でいいんだと。


「マリーには救われっぱなしだな」


 彼女の手を取り、優しく握り、マリーの目を見つめてサトルは言った。


「ありがとう。俺はもう迷わない」

「えっと……ちょっとズルいんだけど……」


 顏をあからめ、狼狽するマリーに自分の行いがなんと恥ずかしいことかに気がつく。


「ちょっとお二人さん。そろそろ出たいんだけどいいかしら?」

「「!?」」


 ひょっこりと顏を出したニーアに驚く二人。サトルは慌てて手を離し、マリーはサトルから目を背けた。


「あ、ああ行こうかマリー」

「そ、そうね。もう大丈夫そうねサトル!」


 三人はサロメの待つ荷馬車へと戻って行った。


第三章 聖剣 完

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