第41話


 捕らえたホランドから身ぐるみを剥ぎ、サトルが着る。


 どれだけの王国騎士が模擬戦でサトルの顔を見たのかはわからないが、黒い異国の服として認識されているうえ、返り血までかかった服は速やかに着替えた方がいいのは明白だろう。


 特別な着方があったわけではないので着替えには苦労しなかった。しかし、随分と洗ってもいない衣服は多分に臭った。


 サトル自身も川で溺れてからも着たままなので臭うとは思うが、やはり自分の臭いと他人の臭いは別種ものだ。


 ただ、命のかかった局面でそんなことを言ってられないとサトルは自分に言い聞かせる。

 そして、一つしかない麦わら帽子をマリーはサトルにかぶせ、家を出る。

 

 薄汚れた貴族の服に、農作業用の麦わら帽子。

 なんとも怪しい恰好だが、この村ではそれがスタンダードなのだ。


「これからどうするんだ?」

「まずは村の状況を確認するわ。監視のために付近で常駐してる騎士と、貴方を捕らえるために何人か来てるだろうから、まずは人数の確認ね」


 脱走を試みて成功したものはいないが、村が団結して騎士に歯向かったこともない。

 一人ではどうにもならなくても、協力すれば打開できる可能性があるかもしれない。とマリーは言った。


「誰か協力してくれるあてはあるのか?」

「うーん……正直望み薄ね。でも、さっきの騎士見たいに単独で行動してるならまだ私達にも勝ち目はある。ただホランドみたいに褒賞欲しさで協力してる村人がいなければの話だけど」


 協力どころか敵対することへの心配をする方がいいと彼女は言う。


 元はそれなりに地位のあった人達だ。何不自由ない生活に戻れる光があるのならば、それに縋るのは当然とも言える。果たしてそんな事を国王が許すかは別の問題だが……希望とは盲目だ。


 家の影に隠れつつ、没落村の中を慎重に進んでいく。


 マリーが住んでいた小屋は村の中心地から少し離れた場所にあったために、隣家は存在しなかったが、中心地にもなると小屋が所狭しとつながり、迷路のような様相を呈している。


 それを見てサトルは以前にテレビで見たスラム街の様子を思い出した。


 マリーの家と畑しか見ていなかったので、想像がつかなかったが、没落村は相当の人間が暮らしているらしい。


「これだけの人数がいて誰も団結しなかったのか?」


 そんな光景を目の当たりにしてサトルは純粋に疑問に思った。


「みんな貴族だった人間達だからね。貴族の社交界なんてみんな腹の探り合いよ。そして気に食わない人間をいかにこの村に落とすか、それでどれだけ自分の家の評価を上げようか。そんな事しか考えていない連中よ」


 そんなものは漫画や映画くらいだと思っていたが、やはり上流階級にはいろいろあるらしい。


「自分以外なんて誰も信じられないのよ」


 マリーは呆れるように溜息をついた。


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