第15話
空かした腹に、疑問符だらけの現状。深く考えられるような材料も持ち合わせていないサトルは石畳の上に横になった。
衣服を挟んで冷たい石の感触が伝わってくる。
「こんなの寝れるかよ……」
いろいろな体勢を試してみたが、肩甲骨や骨盤、肋骨が硬い石に当たって眠りを妨げる。結局は壁を背もたれにし、胡坐をかいて座る事にした。
――キィィィ。
蝋燭一本で照らされた静かな牢獄に木の軋むような音が聞こえてきた。それと同時に、音の下方向から少し生暖かい風が吹いてくる。
夢と現の間に落ちていた意識が一気に覚醒する。目を見開き、格子の先を見やると灯りが揺らめいている。サトルが感じた風が夢ではない証拠であった。
間違いない。誰かがこの牢獄に入って来たのだ。
逃げも隠れも出来ない状況ではあるが、サトルは息を殺してその訪問者を待ち受けた。
「あら、随分と存外な扱いじゃない。さすがにアノ体たらくじゃ用無しか」
聞き覚えのある声が、聞き馴染みのない口調で話す。
サトルが収監されている牢の前に現れたのは、ピッチリとして膝下まであるブーツにホットパンツ程の丈しかないズボン、胸だけを隠せる程度のチューブトップに小さ目の上着を羽織っただけと言うなんとも蠱惑的な魅力を垂れ流すメレニアであった。
「メ!――」
サトルが声を出すよりも早く彼女はその潤った唇に人差し指を押し当て、静かにのジェステャーを取った。その仕草が現在のメレニアの服装と相まって。より扇情的に彼女を魅せる。
少し出かかった言葉を飲み込み、サトルはゆっくりと立ち上がって牢屋の格子まで移動した。そして、声のボリュームを下げて彼女に話しかける。
「メレニア……」
昨日今日の付き合いとはいえ、心細い空間に見知った顏を見つけ安堵と高揚をないまぜにしたような感情に覆われたサトル。ただ彼女の名前が出ただけで、それ以上の言葉が出てこない。
ゆっくりと息を吸い込み、吐き出す。深呼吸をして、心を落ち着かせ、質問を選ぶ。
「メレニア……だよな?」
まず始めに彼女に投げた質問は、本当にサトルの目の前にいる女性が彼の知るメレニアかどうかであった。
顏だけ見えれば確かに、異世界へと召喚された勇者サトルを甲斐甲斐しく世話してくれたメレニアではある。
だが、冷静になればなる程、サトルが抱いていたメレニアのイメージからかけ離れているのだから。
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