第5話
模擬戦によって実力を見せろと言うことだが、サトルは二つ返事でその要望に応えた。サトル本人もその他のスキルについてはよくわからないので、それを知る機会が出来るのはいい事だと考えたからだ。
「今日のところは召喚での疲れもありますでしょうし、模擬戦は然るべき場所と相手を用意させますので明日に致します。今晩は勇者様に相応しい待遇でおもてなしをさせて頂き、その疲れを癒して頂きましょう」
それはありがたい。サラディの言う通り、サトルは召喚酔いでクタクタだ。主に、精神的な疲労ではあるが……そんな中いきなり戦えと言われてもちゃんとしてポテンシャルを発揮できるとは思えない。
「それではお部屋まで案内致しましょう。メレニア!」
「はい、ここに」
メレニアと呼ばれ、貴族や兵士の中からひょっこりと顏を出したのはなんとも杓子定規なメイド服を着た女の子だった。
「勇者様をお部屋に案内しくれ。くれぐれも失礼がないように」
「はい! お任せください!」
元気よく返事をしてサトルに笑い掛けるメレニアは、黒髪でセミロングのボブヘアーで幼さの残る無邪気な笑顔が印象的な女の子だった。だが、右目の下にある泣きぼくろがなんとも言えないセクシーさを演出している。
「勇者様、以降はこのメレニアに何でもお申し付けください。こう見えて彼女は我がメロベキアが育て上げた優秀な人材でございます」
「え? あ、はい! ありがとうございます」
サラディが言った何でもと言う言葉に、如何わしい妄想が膨れ上がりそうになり抑えるサトル。こんな公衆の面前で欲情を露わにするわけにはいかない。
「それではお部屋までご案内致します」
「そえではサトルよ。また明日、相見えようぞ」
メロベキア王に深くお辞儀をし、サトルは彼女の後に続いて謁見の間を後にした。
「お夕食は一時間程後にお届けいたしますね。大浴場は準備が出来次第、お呼びに参ります」
彼女の話を聞きながら城内を歩く。窓から見える空は茜色になっていて、今の時刻が夕時なのだと知らせている。あちらの世界で召喚されたときは朝だったのだが……恐らく時間の軸が少し違うのだろう。
もしかすると日本の裏側に位置するのかもしれない。まぁ完全に異世界であるのだから元の世界の理はまったく通じないだろう。それに、こちらの世界に来てからは時折、元いた世界の事柄が曇ったように曖昧な時がある。
恐らくこれも召喚酔いの影響なのだろう。時間が立てば問題ないとは思う。
そんなとりとめもない事を考えながらメレニアに案内された部屋に辿り着いた。
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