第9話 都市シニフィエ①
「おーここまた広い街だな」
ウェールスは建物を見上げて、感嘆としていた。
「田舎者みたいだから、今すぐにやめなさい」
「うわーでっかいのー」
「ほんと、田舎ものには困ったものですね」
スリーの街を離れて、馬車に二日ほど乗ったところ、この国では五番目に大きいシニフィエについた。シニフィエは、古くからの街で大きな建物や昔ながらの建造物が立ち並んでいた。
「この街で一週間ほど停泊するわ」
「そんなに長く、くぅわー」
スターリンがしゃべる始めると、周りの通行人が驚いた表情でこちらを見てきた。
「スターリン、もう少し、静かに」
「なんだくぅわー?」
「だから、あなたが大きな声で喋っていると怪しまれるのよ。私たち」
「お嬢様、お嬢様、声が大きすぎます」
そんな一行がついたのは、古い木造の建物だった。
「なんだ。この建物?」
「グゥッへー」
ドアを開けて出てきたのは、金髪の短いパーマをかけた少女だった。
ウェールスの溝落ちに頭から突っ込み、ウェールスは苦しみに悶えていた。
「あうあう、ごめんなさい」
「こちらこそ、ウェールス。いつまでも痛がってないで、立ちなさい」
「俺の扱い雑すぎない?」
ウェールスは溝落ちを抑えながら、立ち上がった。
「あのー大丈夫です?」
金髪の少女は心配しながらこちらを見上げる。
「ウェールスはこんなのへっちゃらですよ」
メイドのリリが金髪少女をなでなでしながら、答えた。
「良かったです。図書館のご利用の方ですか?」
金髪の少女が頭を傾けて、尋ねてくる。
「そうよ。あなたはえっと...」
「ああ。申し遅れました。私はアディー・コーディニラスです。この図書館の司書です」
「「「「「本当に?」」」」」
ソフィアたちは、アディーを見ながら、声を揃えてしまった。
「失礼ですね。これでも魔法の知識に関してはこの国随一だと自負しています。ゴホゴホゴホ」
アディーは自分の胸を張って、拳でドンと叩いたためか、咳をしていた。
メイドのリリとルルがコソコソと内緒話を始めた。
「あのー。リリおねえちゃん」
「何でしょう?」
「本当にこの人は司書で、魔導書、魔法の知識はこの国シュトーレン随一の人なの?」
「長年、ソフィア様につけてきましたけど。私もそういう噂は、聞いたことありません。自称の人なんでしょう」
「それは痛いやつだ。くぅわー」
スターリンも内緒話に参加して、アディーの疑いが強まっていく。
「それにしてもよ。こんなに小さい子が頑張って司書の真似をしてあげてるんだから、私たちとしては付き合ってあげるのが、礼儀だわ」
ソフィアは、リリたちの内緒話を制する。
「あのー全部聞こえてるんですけど」
半分、泣きそうになりながらもこちらを見てくるアディー。ウェールスはアディーの頭をヨシヨシと撫でていた。それにしても、アディーはやはり、年相応の女の子のようにしか見えなかった。
「これがこの図書館の書庫です」
アディーに紹介されながら、吹き抜けで三階もある書庫を見てまわった。図書館としては大きな分類に入るようだった。
「それにしても、大きいわね」
「はい、この図書館は、長い年月をかけて蔵書を収集してきましたので」
アディーはまるで自分のことのように、胸を張って、自慢する。胸はないけども
「それで、予言者マーリン・ジャクリーンの書籍でしたか?」
「そうよ」
ソフィアは何か焦るように、予言者マーリンについて、調べている。
「もしもし、そこのお兄さん?」
「何だい。アディー?」
「ソフィア様は何で、予言者マーリンについて、あんなに一生懸命調べているのでしょうか?」
アディーはパーマがかかった金髪の髪を整える。
「うーん。俺もわかんないんだけど。なんか、マーリンの予言がどうのこうのという話をしていたな」
ウェールスは、後でリリから聞いた要領の得ない話をアディーに話してしまった。
「ふーん。そうなんですか」
うなずくアディーは、なぜか、不敵に一瞬笑みを見せたのであった。
「やはり、めぼしいものがないわね」
ソフィアはため息をつきながら、本を戻した。
「マーリンの本ですか。先月、ここの本棚に見かけたのですが、最近、見れないですね」
「アディー、あなたは読んだことがあるの?」
「そうですね。私も読んでみたのですが、難解な本で、よくわからなかったですね」
アディーは申し訳なさそうな声を出す。
「あなたが気落ちすることないわ」
「それにしても、この時代に図書館があるなんて珍しいくぅわー」
「うわ、鳥がしゃべった」
ウェールスの肩に乗ったスターリンが喋り始めた。
「驚かせて、失礼した。くぅわー。この図書館は、長いこと建っているのか。それにしても人があまりいない。くぅわー。」
「この図書館は、もう100年近く建っている神聖な図書館です。でも、最近は訪れる利用者の方も減少しているのは事実ですね」
アディーは先ほどよりも、肩を落としてしゃべる。
「この鳥、本当に気遣いができないのでしょうか」
リリはため息をついて、スターリンの頭を軽く叩く。
「いいんです。こんなに魔法が発達した世界で本なんて...
.それこそ学者さんになる人しか使わないと思いますし。しかも、その本がたくさんある図書館なんていらないのですから」
アディーはどこか、去りゆく時代に取り残されていく人のように、悲しげな声で笑ったのであった。
「まぁ、あれだな、マーリン・ジャクリーンについての本はなかったし俺たちも失礼するとしようか」
「そうだなくぅわー」
「すみません、お役に立てずに…」
「いいのよ、ダメもとだったから」
「このバカとバカ鳥はしばいておきます」
リリはウェールスとスターリンを指差してアディーに詫びて、一行は図書館を後にした。
図書館で1人になったアディーは通信用の魔法石を取り出して通話先の相手に話しかけたのであった。
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