第8話 未解決②

アーロンは倒れているウェールスに目も向けない。

「私の未来は関係ないわ。今あるのは、あなたを倒すことよ。アーロン」


「あんたに何ができる?貴族の汚れた仕事を見てこなかったあんたに.....」


アーロンはまるで苦虫を噛み潰したように、ソフィアと対峙する。


「私のモットーは清廉潔白。あなたとは違うわ」


「それはどうかな。ヴァンドゥオー!!」


アーロンはすかさず、水攻撃魔法を加えてくる。



「フレイム・ド・シザース」


ソフィアの中級魔法の炎が周りを焼き尽くすが、アーロンは水魔法のヴァンドゥオーで対応し、力が拮抗した。


「こういうこともできるんだぜ。ヴァンドゥオー、ウインド・ストーム、合わせて、サイクロン」


アーロンは2つの魔法を合わせて、同時に放つ、水魔法ヴァンドゥオーが風魔法のウインド・ストームによって、強い魔法に変わっていた。


「くっ」


風の中に切り裂く水が合わさっており、殺傷能力が上がっていた。この魔法に対して、ソフィアは避けるのに精一杯であった。


「はぁ、はぁ」


「お疲れのようだね。お嬢ちゃん。実戦は不向きかな?」


アーロンは、地面に膝をつけているソフィアを嘲笑う。



アーロンは慈悲もなく間髪も入れずに、水魔法を打ってくる、それに対して、ソフィアはかろうじて、炎の魔法で相殺させていた。


「だめ。もたない」


「お嬢様。あともう少しです」


メイドのリリは、ウェールスを必死に治癒魔法をかけている。


「お嬢ちゃん。余裕があるね?」


アーロンの下卑た笑いを浮かべた瞬間、リリとウェールスの方向に風魔法を放った。


「危ない」


ソフィアの手はとどかなった。


リリは治癒魔法をしていて、身動きが取れない。


ウェールスに至っては、気を失っている。



ソフィアはもうだめだと思った。


「なんだ?」


アーロンも手応えがあったと思っていたが、風魔法が粉塵を起こして、何も見えない。目を凝らしていると、雷の虎が出てきたのであった。


「お前、それは?」


「ああ、見たことないんだな。俺もうまくまだ使えねんだ」


雷でできた虎は一瞬で消えてしまった。


「魔法が虎?面白いなお前?」


「まあ、そこらへんにはいないだろうな」


「ウェールス、あなた・・・」


ソフィアは一瞬驚いた素振りを見せた。魔法の動物化は見たことがなかったからだ。しかし、ウェールスが起き上がったのも見て安堵の表情を浮かべた。


「私の分まで、頑張りなさいよ」



「はいよー」


ウェールスは間延びな返事をしながら、アーロンと対峙する。


「ウェールスと言ったか?お前の魔法は驚いた。まだ、未完成みたいだが.....」


「そりゃどうも」


二人の仲に沈黙が流れる。先に仕掛けたのは、アーロンだった。


「リュズギャル」


「エレキガル・ドナー」


アーロンが放った水魔法は避けられ、ウェールスの雷の魔法でアーロンは雷に打たれたように痺れていた。


「ウェールス、お前、俺たちの仲間にならないか?素質としては、ブラック、ホワイト以上だ」


「アーロン、あなた、何言ってんの?」


ソフィアとリリはアーロンの言葉に驚愕する。二人は息を飲み込み、ウェールスを見た。


「高く買いかぶりすぎだ。どちらにしても、そんな長いものに巻かれるようなの嫌だね。お前自身が救われてないじゃん?」


ウェールスは事情は知らないが、アーロンの不幸なこれまでを悟った。アーロンは、少し動揺したように見えたが、薄気味悪い笑いをし出した。


「救われてない?笑わせるなよ。小僧?お前なんかにお前なんかに........」


アーロンは狂ったように攻撃をウェールスに加えた。


「アーロン、もう一度だけ言う。お前は可哀想なやつだ」


ウェールスはそうに言うと、最大出力の電気魔法を展開した。


「エレキガル・エネ・ミリオン」


「俺は可哀想なんかじゃない」


そう叫びながら、雷の中に消えていくアーロン。




雷で周りのレンガが焼け焦げたようになっていたが、アーロンの姿はもうなかった。


「逃げられたわね」


「逃げられましたね」


ソフィアとリリの冷たい眼差しがウェールスに刺さる。アーロンはあの中で逃げ切ったのだ。


「まあ、あの攻撃で遠くまで逃げきれないだろうよ」


「そうだ。そうだ。くぅわー」


遅れてきたスターリンが話す。スターリンは、ルルの警護をしていたようだ。


「ルル、お前は大丈夫か?」


「うん。大丈夫」


かすかな頼りない声であった。ルルはアーロンがいなくなったので少し元気になったように見えた。




「いやはや、皆さま。この度はなんとお詫びをしたらいいのか」


急いで来た警察長官のディクスンがソフィアやウェールスたちに深々とお辞儀をした。


「警察の汚職などの事件に関わらせてしまって、申し訳ありませんと思っています」


「それでアーロンは見つかったの?」


ソフィアはアーロンの不吉な予言を思い出し、少し怯えたように両腕をさする。


「それが、こちらも全力で捜索しているのですが、アーロンは、見つかっておりません。多くの事件に関わっているので、私どもで捕まえたいのですが、難しいかもしれません」


ディクスンは申し訳なさそうな顔をして、こちらをみる。


「まあ、今回は俺たちに怪我なかったからよかったら。イタタタ」


リリは治りかけの、傷を叩いた。


「そんなに強がらなくていいですよ。ちっともかっこよくないですから」


リリは不機嫌そうに話した。


「お兄ちゃんをいじめるな」


ルルがリリとウェールスの間に割って入る。


「ちんちくりんには、大人の関係はわからないです。ね、ウェールス?」


「何を言ってんの?たぬき女?私の方がお兄ちゃんのことをわかってるよね?」


二人の眼光に睨まれて、ウェールスは、スターリンを連れて逃げ出した。


ソフィアはウェールスたちをほのぼのしく見ていた。



「元気になってよかった。ソフィア様。これはお見舞金です」


ディクスンが巾着袋をソフィアに差し出した。


「ウェールスにということ?」


「この街の治安を守っていただいた方は私の恩人です」


 そう言って、はにかんだはディクスンどこか、寂しげだった。



ソフィアたちが去った後、ディクスンは何者かに殺害されたのは、風の噂の話である。



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