第7話 未解決①
「なんでしょうか?」
リリが指さした通り道には人が大勢いた。
「何かあったのかもしれない。行くわよ。ウェールス」
ソフィアはただごとではない雰囲気を読み取ったのか、ウェールスたちを連れて、人集りの方に行く。
そこには、警官が大勢いた。
「見物人は早く引っ込んでくれ。見せ物じゃないんだ」
大柄で紺色の服の警官が、大きな声で話していた。
「何かあったんですか?」
ウェールスはすかさず、警官に話しかけた。
「なんだ。お前?見ない顔だな。そちらのお嬢さんたちも」
「旅の者です」
「旅の者?お前たちオステン人か?」
警官はオステン人のウェールスとルルと気づいた瞬間、血相を変えた。
「オステン人に話すことなんか、ない」
ウェールスは、すかさず反論しようとするが、ソフィアが話に割って入った。
「こんにちは。私はソフィア・ヴァイスガーデン。訳あって、ここに滞在している者です」
「ヴァイスガーデン?」
警官や見物人からも、驚きの声があがる。
「これはこれは、ヴァイスガーデン家のお嬢様でしたか。私はこのスリーの町の警察長官のディクスンであります」
ディクスンは先ほどと違って、深々とお辞儀をした。あからさまな態度の変化にウェールスはひきつってしまった。
「ディクスンさん、何が起こったのでしょう?」
「はい。今朝方、新聞屋の配達人から通報がありまして」
ディクスンは汗を大きく垂らしながら、ソフィアにへつらうように喋る。
「なんの通報かしら?」
「殺人です」
ソフィアとウェールスたちは目を見合わせた。
「それって、この町を騒がせている。惨殺の死体?」
「左様でございます。ヴァイスガーデン殿もご存知でしたか」
あたふたとしながら、別の警官がディクスンの元に報告にくる。
「長官、お話のところ失礼します。間違えありません。件の連続殺人と同じ犯行と思われます。死亡推定時刻は昨日の夜中と思われます」
「わかった。下がれ」
ソフィアとウェールスたちは、自然とルルに視線を向けそうになる。だが、ルルは昨日の夕方から一緒にいた。
「ウェールス、これってどういうことなのよ?」
ソフィアが小声で耳打ちをしてくる。
「俺もなんだかわからないよ。昨日は、ルルと一緒にいた。それは絶対だ」
「それじゃあ、連続殺人鬼は別にいるということ?」
「そうかもしれない」
ウェールスは額に嫌な汗をかきながら頷いた。
「あのー。ヴァイスガーデン殿?他に用件があれば、何なりと、この者に申しつけてください」
ディクスンは、先ほど話していた若い警官を前に出した。
「初めましてヴァイスガーデン殿、私はアーロン・コミンスキーと申します。以後、よろしくお願いいたします」
アーロンは、はにかみながら話した。
「早速で悪いけど、今までの連続殺人の捜査資料を見せてもらえますか?」
アーロンは、少し額にシワをよせた。
「高貴なお方がなぜこの事件を知りたいのでしょうか?
・・・警察内部の資料なので、ヴァイスガーデン家のソフィア様でもお見せするわけには・・・」
「ヴァイスガーデン家の次期当主として、この事件を知りたいのです」
ソフィアが危機に迫るような表情でアーロンに詰め寄る。
「ソフィア様、軽々しく、家名を出してはいけませんと」
リリがソフィアを止めに入る。
「いいえ。この問題は私たちで解決すべきよ」
ソフィアは初めて、ルルの表情を見た。ルルは、ウェールスの服をつまみながらガタガタと震えていた。
アーロンはソフィアの覚悟を見て、それ以上言及することはなかった。
「かしこまりました。事件の捜査資料は、警察署にありますので、ついてきてください」
ソフィアとウェールスたちは、アーロンの後をつけながら、警察署に向かった。
警察署内はレンガ造りで、署内は張り詰めた空気だった。数人の警察官が慌ただしく、働いていた。
「応接間はこちらです」
アーロンに通されたソフィアたちは、ソファーに腰掛けた。
「捜査資料を持ってきますので、ここで待っていてください」
アーロンが出て行った後、ソフィアは真剣な眼差しでルルに話しかけた。
「あなたに聞きたいことがあるの」
ウェールスは思わず、声を被せる。
「それは今日聞かなくても」
ウェールスは昨日の戦闘と今日でルルの精神状態を心配した。
「ウェールス、あなたは黙っていて」
ソフィアは、普段は出さない大きな声でウェールスを制した。
「ルル、あなたは本当に今までの殺人をやったの?」
応接間の空気が張り詰めている。
「あたしは、本当は事件現場にいて、本当はやってない」
「じゃあ何で自分がやったように言ったの?」
ソフィアが畳み掛けるように問う。
「私が死体の前にいたから、私の無意識のうちに殺しちゃったのかなと思ったの。あたしには殺人の動機もあったから。でも、今回の殺人でわかったの。本当にやってないって。だから、だから・・・」
ルルは泣きながら、ぐずる子供のように弁明した。ソフィアたちは、昨日のルルのナイフさばきを見る限りでは、疑わしいのは明白だった。
「ルル、あなたがやってないのなら、それを証明する必要があるわ」
ソフィアはルルの震える手を持ちながら、訴えかける。
「そうだそうだ。証明しろー。くぅわー」
スターリンも大きな声で、ルルを鼓舞する。
「わかった。頑張る」
ルルは決心をし、ソフィアの目を見た。
「こちらが捜査資料です」
アーロンは山のような捜査資料を持ってきた。
「この事件は所長も肝を冷やしていて、膨大な資料で事件の詳細を資料として残しているのですが.............いかんせん、私どもでは、事件の手がかりが見つかりません」
「それでは話を聞かせてくれるかしら」
ソフィアとルルは挑むように話に耳を傾けた。
アーロンは驚きつつも、資料を見せながら、事件の詳細を語り出した。
「一件目は、一年前のこの街の役人のワズリーです。この役人は昔からオステン人を嫌っていたらしく、オステン人に不確かな罪状をつけて告発していたらしいです。ワズリーは町の南東に両手と首が切り落とされて殺されました。
・・・二十二件目は、三日前のことです。被害者は理髪店を営むスチュワートです。この事件でも遺体は、両手と首が切り落とされていました。彼女は過去にオステン人を殺害したことを罪にとわれた犯罪歴がありました。そして先程の現場で二十三件目です。今朝早く新聞屋の配達人からの通報があったのは話した通りです。発見時にはすでに死体は死後硬直が始まっていたので、昨晩深夜の犯行と思われます。身元は現在確認中です。いずれの事件も被害者は、オステン人からの恨みをかっていた可能性があり、その線で調べています。失礼ですが、ウェールスさんとルルさんからも昨日の深夜の事情を聞いてもよろしいでしょうか?」
アーロンの目は、ウェールスとルルを鋭くにらめつるものだった。
ソフィアはただちに反論をした。
「昨晩は、ウェールスもルルも私と居たわ!」
「もうしわけありませんが、警察は疑うのが仕事ですので、お二人とも一応、取り調べをさせてください」
「まずはルルさんからお一人で、他の方はご退出をお願いいたします。現場付近では何度か幼いオステンの娘が目撃されていますので…」
ウェールス、スターリン、ソフィア、リリは部屋から退出した。
しかし、ウェールスは腑に落ちなかった。
「いや、おかしい…
そもそも凶器がおかしい…
ルルのナイフでは骨まで切断できない。
まして少女の力ではできるわけがない…
警察にもそれくらいのことはわかるはずだ…」
その瞬間ウェールスは、取り調べが行われている部屋から魔力を感じ取った。
ウェールスはドアを蹴破って取り調べ室に入る。
そこにはルルに向かって、魔法を構えたアーロンが居たウェールスはすかさず魔法を放つ。
「ライトニングサンダー!!」
「チッ!!」
「何をやってんだ?アーロン!!!」
「どうして魔法が使えるのか知らんが、邪魔だ、小僧!!ウィンドビースト!!」
「ボルシルド!!」
アーロンの放つ切り裂く風の魔法に対して、ウェールスの電気の盾の魔法を放つ。
「お前こそ警官なのになんで魔法を使っている」
「ケッ、バレちまったなら仕方がねぇ、俺は貴族。
この仕事で貴族の事件や不正をもみ消すためにこうやって警官として潜り込んでいる。ゆくゆくは出世を狙っているのさ」
「警察がそんなことをゆるしていいのか」
ウェールスは嫌悪感で顔を歪めながら話す。
「はっ、笑わせるな。世の中はお綺麗事じゃない。警察もそんなのはわかっていて貴族を入れているに決まっているだろ。俺としても貴族に金をもらっているのさ。貴族に媚を売れるしWINWINの関係さ」
「くっ、この国は腐ってやがる。」
ウェールスにとって、自分の悪事を実績のように語るアーロンはこの国の闇を見ているようだった。
「だいたい魔法が使える人間が警察にもいたほうがいいだろ、強い力ってのは使ってこそだ」
「その力をつかって、なぜルルを狙っている!!」
「答えは簡単さ、俺はこの力を使いてぇ、だからそのために魔法で人を殺す、その上で犯人をでっちあげて捕まえれば警察としても手柄をあげられる。一石二鳥さ。その娘を犯人にしたてあげる」
以前の強気の姿勢はなくルルは怯えながら、しゃがんでいた。
「この外道が!!!」
「なんとでも言うがいいオステンのゴミが!!」
「貴族として聞き捨てならないわねこの話!!ヘル・ファイア!!」
ソフィアが炎の魔法をアーロンに向けて放つ。
「ふん、ヴァイスガーデンの娘が!!魔法の相性というものを考えろ!ウィル・ストーム!!!」
ソフィアの放った炎は、アーロンの放った風にかき消され、その風の勢いは止まらずソフィアを切りつける。
「くっ」
「嬢ちゃんはあとでちゃんと始末してやるよ!まずはこっちのオステン人だ。」
「やってやろうじゃねぇか腐れ外道!エレキガル!!」
「リュズギャル!!」
ウェールスから鋭い電撃を放たれたが、それを切り裂く複数の風の魔法がウェールスを傷つけ壁にうちつける。
「変な魔法を使いやがって…だが、格が違うんだよ、これを見ろ!!」
そういいいながらアーロンはバッジを見せつける。そこには赤色の、円の中に六芒星が書かれたバッジが光っていた。
「あぁ?それがなんだってんだ?」
「ウェールスのバカ!!それはレッドクラスのバッジよ」
傷をおさえながらソフィアが罵声をあびせる。
「レッドクラス?」
「魔法使いには階級があるの!」
「オステンのクソガキはそんなことも知らないのかこれは魔術協会の決めた魔術のランクによって、上からブラック、ホワイト、パープル、レッド、グリーン、ブルーのクラスがあるよ覚えとけ、まっ死ぬんだから意味ないか」
「けっ、上から4番目じゃねぇか」
「ブラックやホワイトは伝説級、パープルなんてほんの一握りしかなれない。レッドクラスは魔法使いとしては十分上級よ!」
「そうなんだじゃあソフィアは?」
「私はグリーンよ」
「えっ、マジ?」
「レッドクラスともなると2つの魔法を同時に使うことだってできるんだよ!くらえヴァンドゥオー!!リュズギャル!!」
高水圧の水のカッターと切り裂く風がウェールスをズタボロにする。
「ウェールス!!」
ソフィアがウェールスに駆け寄る。ウェールスは息をしているが気絶している。
「こうなったら私が相手よ!!」
「くっ、ヴァイスガーデンの娘め、消される運命のくせに…」
アーロンは、小声で声をこぼした。ソフィアは怪訝な顔を深め、アーロンに食ってかかる。
「消される運命?」
「なんだ知らないのか?かわいそうに、冥土の土産に教えてやるよ。予言の魔女マーリン・ジャクリーンの予言が出たんだよ、お前が王子の妻にふさわしいと…お前ならこの意味がわかるだろ?」
アーロンは、面白いおもちゃを見つけた子供のように嬉々として笑う。
「そんな…」
「そうとも貴族といえども、ヴァイスガーデンのような地方の中級貴族が次期王妃になることなんか他の上級貴族が許すわけがない!とくにシュバルツ家が黙っているわけがない。幸いこの予言は魔術協会だけが知っており、王家の耳にはまだ入っていない。今ならまだお前を殺すことができるってわけだ!」
「まさかステファンを殺した2人も私が狙いで…」
「俺がヴァイスガーデンの娘を殺したとなれば私の魔術協会での地位もうなぎのぼりだ!本当についている!さぁ、死ね!」
「ヴァダパート」
アーロンは風魔法を放った
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