第6話 スリーの街②

「ホント、甘々です」


ソフィアとリリは、林から現れた。


「そんなこと言ったって、こんなおチビちゃんにマジになれないのよ」


ウェールスは頭をかきながら、ルルとの距離を保つ。そして、怪我が何ともなかったのように立った。


「それなら、しっかりやりなさい」


ソフィアの忠告もさることながら、ルルはナイフを飛ばしてきた。


「お兄さん、私の前で余裕かまさないでください」


ウェールスはナイフをギリギリのところでかわした。


「助けましょうか」


リリがため息をつきながら、魔法を詠唱しはじめる。


「やめてくれ」


「いやいや、ウェールスさん。ギリギリでしょ」


「これはオステン人の問題だ。俺にませてくれ」


ウェールスは先ほどまでの攻撃とは変わり、ウェールスは足のポケットから魔道具のダガーナイフを取り出した。


「へぇー。お兄さんもナイフを使うんですが、面白い。どっちが強いか、楽しみですね」


ウェールスのダガーナイフは、電流のような光がナイフに帯びていた。


「雷ってやつですか。それに体が触れた瞬間。私も気絶しちゃうかもですね」


「そうだな」


ウェールスは、ルルのの剣戟を止めつつ、ルルの死角を探していた。


「段々とへばってきてますね。お兄ちゃん」


ルルは、カウンター攻撃になると、特徴のあるステップを踏んで、攻撃に切り返す。ウェールスはそこが狙い目だと考えた。


「お嬢様、本当に大丈夫なんでしょうか。私たちの目の前で事件が起こったら、ヴァイスガーデン家の面目が立ちません」


リリはお嬢様のロープを掴みながら、忙しく助言をしている。


「リリ、大丈夫よ。ウェールスに秘策があるみたい」


ソフィアが微笑みながら、ウェールスの戦いを見ていた。


「お兄さんも懲りない人だね。もう楽になっちゃいなよ。お兄さんを殺したら、あそこにいるお姉さん方も一緒にあの世に送ってあげるから」


ルルは攻撃のスピードを少し速めながら、カウンターを出そうとした。


「待ってました」


ウェールスは、カウンター攻撃を避けながら、左手のダガーナイフを捨てて、雷の魔法を唱えた。


「ライトニングサンダー」


攻撃が発動した瞬間、町外れには真昼のような明るさがともった。


「うわっ」


ルルは避けようとしたが、ウェールスの攻撃範囲が広く、避けきれなかった。



雷がるるの全身を駆け巡り、ウェールスにもたれかかった。ウェールスはルルの心臓の鼓動を聞いた。


「加減したんでしょうね?」




ソフィアは怪訝な目でウェールスを覗き込む。


「そうに決まってるだろ」


ウェールスは、ルルをお姫様抱っこして、テントの中に寝かせた。スターリンはグースカ寝ていた。


「ホント、お気楽な鳥ね」


ソフィアはスターリンを一瞥した後、テントから出て、ウェールスを手当てするために、3人で座った。


「それで、どうするのよ。この子?」


「ルルのことか」


「そうに決まってるじゃない。明日、憲兵団に渡すの?」


ウェールスは、頭を掻きむしって、自分の考えを答えた。


「この子は俺が面倒を見る」


ソフィアとリリは、唖然とした表情になった。


「正気ですか?ウェールスさん。あなたも怪我をしたのですよ」


リリは包帯をウェールスに強く巻き付けながら話す。


「イタイ、イタイ」


「痛いのは当然です。心配したんですから」


リリは少し、悲しそうな声をしながら手当てをした。ウェールスは言葉に詰まりながら、話し始める。


「ルルは同じ、オステンの民だ」


「でも、あの子がやったことは許されないことよ」


「それでも、あの子がこの世界に生まれてきて良かったと思わせたい」


「傲慢ね」


ソフィアは、ウェールスの甘さを許容できない。


「傲慢かもしれない。でも、俺が関わった人、誰も見捨てられるほど、人間できてない」


ソフィアは拙くも、ウェールスの覚悟を知った。ソフィアはウェールスを嫌いになれなかった。


「不思議ね。あなた」


「何が?」


リリがウェールスの包帯を巻き終わった。


「これで良し」


「包帯も、巻き終わったことだし。宿に戻りましょう。リリ。明日はそのルルという少女を連れてきなさい」


「本気ですか?お嬢様。あのような子を」


「私も一度決めたことは曲げないタイプなの。わかってるでしょ。リリ?」


不敵に微笑むソフィアはどこか嬉しそうだった。


「しょうがないですね」


夜更けの戦いはこうして幕を閉じた。



「ふわーあ」


ルルは起きると、手と足が拘束されていた。


「よう起きたか?」


「起きたか。くぅわー」


スターリンもことの顛末を先ほど聞いたらしく、ルルに言葉をかける。


「何だよこれ、お兄さん。トドメをさしてくれなかったのかよ」


ルルはジタバタと暴れながらも拘束された鉄の手錠と足枷は解けない。


「何なんだよ。これ〜」


「悪いが、ルルにはこれから俺たちの仲間になってもらう」


ルルの目がキョトンして、ウェールスとスターリンの両方を見る。


「正気か?お兄ちゃん?」


「同じオステンの民だ。ルル、俺と一緒に来い」


ウェールスはかっこよくポーズを決めているが、包帯をしているためいまいちしまらない。


「お兄ちゃん.......」


ルルは感極まって泣いてしまった。今までどれほどの苦しみを背負ってきたか、わからない。けれども、ルルのこの先はウェールスとスターリンと一緒に歩んでいけるのだと思った。




ルルの拘束を解き終え、ソフィアとリリが停泊している宿に向かった。


「おはよう、ウェールス」


「おはようございます。ウェールス」


ソフィアとリリは身支度を整えて、宿の前に立っていた。


「あっ、昨日のきつね女」


ルルはそういうと、ウェールスのズボンを掴んで、後ろに隠れた。


「キ・きつね、狐おんな?」


ソフィアは若干、怒りをこもった態度でルルを睨みつける。


「まあまあ、落ち着いてください。お嬢様。子供が言ったことですから」


リリがなだめる。


「たぬき、オンナもいやがるです」


ソフィアをなだめていたリリの眉間に皺がよる。


「私がた・たぬき・おんな?」


リリもルルを睨みつける。


「この子には教育が必要ね」


「そのようです」


ルルは二人をうまく焚き付けながら、ウェールスにべったりくっつく。


「お兄ちゃん。このきつね女とたぬき女。怖い」


「うーんそうだな」


ウェールスはまるで妹を宥めるかのようにルルの頭を撫でる。


親しげな二人の姿をみて、ソフィアとリリは、またもや不機嫌になった。


「これから一緒に行動するのだから、名前を知らないとダメだぞ。きつね女の方はソフィア、たぬき女の方はリリ。覚えた?」


ルルはウェールスに対しては素直ないい子だが、少しあざといのかもしれない。


「うん、覚えた」


ソフィアとリリの怒りはおさまらないながらも、ようやく、1日が始まった。


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