第5話 スリーの街①

邸宅に戻る途中のスリーの街に停泊することになった。


「あなたたち、宿泊できるお金あるの?」


「それは・・・」


ウェールスと鳥のスターリンは顔を見合わせながら、汗をダラダラと垂らしている。このスリーの街は、この国の中でも栄えている分類に入る街だ。


「「野宿する」」


ウェールスとスターリンは、声を揃えた。


「でも、この街には出るのよ?」


「出るって何が?」


ソフィアはリリに目配せをして話の続きを促す。


「はい、この街では数年前から、手首が切断された遺体が十字架に貼り付けにされる事件があります。特に夜は危険で、野宿してるものなら、


••••••••••••••明日の朝には、両手はなくなり、十字架に貼り付けになるでしょう」


ウェールスは、迫真の演技の脅しに相当、怯えているようだ。


「我はどうなるんだ。くぅわー」


「それは、全身、毛がむしり取られて、もう二度と飛べないでしょう」


スターリンは、自分の羽で飛び出して逃げようとするが、ウェールスは必死にスターリンの逃亡を妨害する。


「わかった?今までみたいに野宿して大丈夫なところじゃないの。それで、あなたたちはお金があるの?」


ウェールスは財布を出して、中身を出す。中からはホコリぐらいしか出てこない。


「あなたたち、今までお金なしで、よく生きてこられたわね」


「面目ない」


ソフィアはウェールスが魔法学院を作る前に路頭に迷う姿を想像できた。リリは、ソフィアに目配せをした。


「お嬢様は寛大なお方です。あなたに対して、一応、襲撃犯の撃退に対して、報償金を差し上げると言っております」


思いがけない言葉を聞いたように、ウェールスとスターリンは口を大きく開けている。小声で青年と鳥は内緒話をはじめた。


「スターリン、これはデレというやつだ」


「くぅわ。それはどういう意味だ。ウェールス」


「好意的な態度ということだ。今までがツンツンと邪険な態度をしていたけど、急にこういう風に優しくなることだ」


「それはいいことを教えて貰った。くぅわー」


青年と鳥は、苦笑いをしながら話していた。


「本当に学習しないのね。あなたたち」


「本当におバカな方々ですね」


ソフィアとリリは呆れながら、魔法を詠唱する。すると、ウェールスとスターリンは風に乗って城壁の外に飛ばされた。




「痛っ」


「グゥわー」


青年と鳥は、先ほどいた森林に飛ばされていた。木の枝がクッションになったようで、大怪我をしなくてすんだ。それがソフィアとリリの優しさだと信じたい。


「大丈夫か。スターリン?」


「大丈夫だ。デレじゃない。くぅわー」


二人に城壁の外に出されてしまった二人は、野宿をするしかなかった。




ーーー


「お嬢様、大丈夫なのでしょうか。」


リリは心配そうにソフィアを見つめる。


「殺人鬼にやられるようならそれまでよ」


リリはティーカップにダージリンティーを入れながら、珍しく、こぼしてしまう。


「・・・申し訳ありません」


普段ミスをしないリリが取り乱すとは思っていなかった。


「そんなに意外かしら」


「はい・・・」


「大丈夫よ。死にそうになったら助けてあげるから。でも、そんな輩にやられるようじゃ、魔法学院を作るのも夢に終わると思うけどね」


容赦なく切り捨てられるが、ソフィアは貴族のパワーゲームの中で生きてきた人間だ。優しさはあっても決して、甘えは許さない。


「東のオステンの民…ウェールス…」


ダージリンティーを飲みながら、宵闇の中を鋭く見つめるのであった。



ーーー


「あの凶暴女め、ここには猟奇的殺人鬼が出るんじゃないのかよ」


ウェールスとスターリンは焚き火のための木の枝をあつめることにした。



焚き火にちょうどいい木の枝を拾おうとすると、いつのまにか、少女が立っていた。


「うわーでたー」


「びっくりだ。くわー」


破れた布切れをスカートのように着ている少女だった。スターリンが、飛び出していき、少女の頭に止まった。


「こんな夜中にお嬢ちゃん一人だけど。お父さんとお母さんはどうしたんだ。くわー」


「お父さんとお母さんは死んだの。私一人」


デリカシーのないスターリンのせいで、涙を大粒流す少女。スターリンは慌てふためき、少女の頭を旋回する。


「ごめんよ。お嬢ちゃん。うちの鳥がデリカシー無くて」


スターリンもすかさず、謝る。


「ごめんよ。ごめんよ」


ぐすぐすと泣き止むのには時間がかかった。

それから晩ごはんのための薬草を集めをするのだと言うと、少女は率先して手伝ってれた。


「お兄ちゃん、はい薬草♪」


「おう、ありがとう。悪いねお嬢ちゃん」



ウェールスは薪をくべながら、晩ごはんの準備をする。


「また、雑草汁、雑草汁」


スターリンは、薬草汁を雑草汁といい。大嫌いである。


「我慢してくれよー。報酬貰えなかったんだから」


ウェールスはため息をつきながら、雑草汁を自分のものとルルのものとスターリンのものに分けた。



「それでね。それでね。私がね。お父さんに言ったの、それはお父さんのやつでしょー」


少女のありし日の家族の日々を語っていた。今では二度と戻れないのに、楽しそうに語っている。それほどに愛おしく、この子にとって、大切な日々であったのだ。一息ついたところで、少女の名前を聞き出すことにした。


「元気になって良かった。君の名前は?」


「ルル」


「いい名前だ。くぅわ」


ルルは、自分の服を両手で掴みながら、言葉をかみしめる。


「私を今日だけここに泊めて欲しいの」


「俺は構わないけど」


「我も構わない。くぅわー」


「ありがとう」


その夜はルルの両親との話を聞かされながら、眠りについたのだった。



臨時に張った真夜中のテント中、一人動くものがいた。テントの中には布団の中にうずくまったウェールスとスターリンがはなちょうちんをつけて寝ていた。






「やっと、寝やがりましたか」


かぶっていた布団をどけて、ルルは起き上がる。先ほどまでの天真爛漫な表情と異なり、獲物を見る目に変わっていた。


「てこずらさせやがって。鳥と男か。どうに殺しますか」


服の中からナイフを取り出す。年相応の女の子ではなく、そこには獲物を前に興奮が抑えられないルルがいた。


まず、スターリンを首だけにするべく、ナイフを強く握り、勢いよく下ろす。


「ちょっと。まった」


いきなり起き上がったウェールスに自分の手を掴まれてる。


「ルルちゃん。筋力あるね。まず、ナイフをしまおうか?」


ルルはギロッと横目でウェールスを見た。ウェールスは、魔法の詠唱を始めた途端、ルルはテントを破った。


「危ないじゃないですか。お兄ちゃん」


「ナイフを持ちながら、妖艶に微笑む少女にだけは言われたくない」


「それもそうですね」


ルルはナイフを巧みに操り、両手の中で遊んでいる。


「何でわかったんですか?お兄ちゃん」


ルルは自分の計画を邪魔されたことに不機嫌になっていた。


「殺気が隠せてないよ…」


「感が鋭いね。お兄ちゃん」


ルルはナイフを服の中からもう一本出して、構える。そんな中も、スターリンはまだ寝ていた。


「今度の獲物のために、どこでバレちゃったんだと思ったけど、参考にならないね」


二つのナイフを自由に空中で操つる。飛んできたナイフと持っていたナイフでウェールスの間合を詰める。ウェールスも持ってきたダガーで応戦するが巧みな攻撃で、防戦で精一杯だった。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん・・・」


狂気に満ちた相貌で、ただ相手の死だけを望む。


「ルル、お前が猟奇的殺人鬼だったのか?」


ウェールスにとってわかりきった答えだが、攻撃の糸口を見つけるために会話をする。


「そうですよ。お兄ちゃん。でもひどいな〜。猟奇的なんて。私はちゃんと、私の両親と同じところに行けるように、両手を切り落としていただけなんですよ」


攻撃の威力が高まったような気がした。いかんせん、猟奇的という言葉がルルの琴線に触れたのだろう。


「ルルの両親は亡くなったんだっけな?」


こちらもダガーをもう一本取り出して、二つのダガーで対処する。


「そうですね。私の両親も両手を切り落とされて、十字架に張り付けにされました」


「それは、お前がオステンの民だからか?」


ルルの攻撃がやみ。こちらを鋭い眼光で睨み付ける。


「何で、何で、私はオステンの・・・」


「その目さ。焚き火のあかりの中で見えたルルの瞳はオステンの色だ」


ルルは自分の目に手をあてる。片手ではしっかりとナイフを持ちながら。


「この目はオステン出身の母から受け継いだもの。そして、この体の色と頭の毛は、この国の出身の父親からきてるのかな」


愛おしそうに自分の身体を眺めるルル。


「でも、両親は殺された。それも酷く、凄惨に」


ルルはこちらにナイフを飛ばしてきた。


「お前に何がわかる。オステンの民だから殺された母を、オステンの民と結婚したから殺された父を。あんなに酷く殺されたんだから、私はこの国の奴らに復讐してやると思った。まずはじめは、私たちの家族をオステン人として売った男を殺した。そして、私の両親の両手を切った役人も殺した。最後に首をはねて、十字架に張り付けた、この街の代議士も殺した。でも、私は収まらなかった。だから、今度はお兄ちゃんの番。そして、同じように両手を切って、同じようにしてあげることで、私の両親は報われる」


ナイフをダガーではじき飛ばして、ウェールスは言い放った。この国の現状だとオステンの民は過剰に、差別されやすく、最悪のケースであれば、見せしめとして殺されてしまう場合がある。


「狂ってやがる」


「狂ってるのはこの世界でしょ?私の両親を奪ったこの世界の方が悪いに決まってるじゃん」


ダガーとナイフの攻防が続く。魔法は近接戦闘には不向きであるため、近接戦闘では自身の身体能力で勝敗が決まる。


「お兄さん、そろそろ、私のナイフで死んでくれない?」


「それはごめんこうむる」


ダガーで一瞬の隙をついたところで、ルルの腹にダガーの柄の部分でついて気絶させようと擦り。


「お兄さん。甘いんだよ」


ウェールスの甘さが出てしまったのか。ルルの片方のナイフでお腹に真一文字に切る込みを入れられてしまった。


「痛ってぇ」


溢れ出す血を抑えながら、ウェールスは立っている。


「この世界、そんな甘さじゃ。私みたいな人間に足元すくわれちゃうよ」


「普通、自分の生死がかかっているときに、相手を心配するってことはないだろうな。でも、ルルの生い立ちがオステンの民としたら俺はその呪縛から解き放してあげたい」


ルルが不適な笑いをする。


「私がオステンの民だから助けたい。思いやがりも大概にしてくださいよ。お兄ちゃん。私はオステンの民として生きて、大切な両親からもらったこの体とともに、オステンを迫害した者。そして、この呪縛を背負わせたオステン人も殺す。お兄ちゃんのその目、オステン人の証拠。次死ぬのは、お兄ちゃん。君だよ」


ルルにとって、両親との思い出だけで良かったのに、それを奪った者。迫害の歴史のオステンの民でさえも憎しみに変わろうとしていた。

ルルはトドメにウェールスにナイフ思い切り突き立てようとする。


「ウェールス、あなた、甘いわ」



森の方から、ソフィアが出てきた。


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