第46話 現地調査

 金沢市内から能登半島道路に出て北上するが、そのうち、能登半島道路を下りてからは一般道に移る。

 一般道を走っていると、輪島市という看板がある。ナビを見ても、輪島市に入った事が分かった。

 そして、輪島市から更に海岸の道路に向かうが、既に民家も店舗もない。

「朴の行方ですが、この地点では既に確認されていません。先程、通過したコンビニの防犯カメラが最後に確認された地点になります。

 しかし、そこからはこの道しかありませんので、恐らく北方向に来たと考えられます」

 ミイが説明するが、確かに現在走っている道路しかないので、この道を来たのは間違いないだろう。

 しばらくすると、海岸に出た。ここから先は日本海になり、道路はこの海岸線に沿って北上する形になる。それは、ナビでも確認出来る。

 既に赤色灯は仕舞っており、サイレンも鳴らしていないので、今は海岸沿いをドライブしているようだ。

「この海岸に外国の船が来て、麻薬を密輸しているとしたら、捕まえるのも大変だな」

 俺が独り言のように言う。それに答えたのは、ミイだ。

「この辺りは、夜になると人も来ないでしょうから、密輸には持って来いでしょう」

「やはり、ここら辺りで受け渡しをしたのは間違いないだろうな」

 後部座席を見ると、二人は寝ていた。起きていたのは日奈子だけだ。

「日奈子だけか、起きているのは」

 俺が言うと、日奈子が笑う。

 しかし、母親の本能だろうか。寝ていても、彩芽は日奈子をしっかりと抱いている。

 車で海岸沿いを走っていると広い場所があったので、車を停めて降りてみる。

 俺の横に、ミイも降りて来た。

「この辺りだったら、車も停めれるし、しかも砂浜だし、船で持って来て、車に乗せ換えるには最適な場所だな」

「現在、地図を確認していますが、ここ以外で船から積み替える事が出来る最適地は見当たりません」

「ここで、密輸した可能性が高いか」

「ワーン、ワーン」

 車の中で、日奈子が泣き出した。その声で、彩芽と三倉巡査は起きたようだ。

 車から、日奈子をあやしながら、彩芽と三倉巡査が出て来た。

「どうしたの?」

 彩芽が聞いてきた。

「麻薬を陸揚げするならここだろうと、ミイと話ていたところだ」

 二人もこの場所を見ている。

「そうね、船も海岸に付けられるし、波が静かなら問題なく陸揚げが出来るわ」

「確かにそうですね。ここなら、沖に大きな船を停めて、小型船で持って来れば問題ないですね」

 現場を視察した俺たちが車に戻ると、石川県警の佐竹警視から連絡が入った。

「今、どこだ?」

「輪島市の海岸に来ています。朴が消えたという足取りから、船を着岸出来そうな海岸と車を停めれそうな場所を確認しました。

 恐らく、ここで麻薬の受け渡しをしていたと思います」

「そこについては、こちらも衛星画像から確認している。後は、隠れる場所を確認してくれ。次に密輸する際に、相手の船を確保したいからな」

「分かりました。隠れる場所も合わせて確認しておきます」

 佐竹警視との連絡が終わると、隠れる場所を4人で探す。その位置をミイが映像にし、同時に地図上にマークしていく。

 そんなことをしていると、太陽も落ちて来た。今は水平線上にオレンジ色の夕日が沈みそうになっている。

 ここの夕日は、都会で見る夕日の何倍も大きい。

「さて、帰るか。途中、どこかで夕食にしてから、帰ろうか」

「制服だから、それはちょっと…」

 三倉巡査が言う。

 確かに、今日は制服で来た。このまま、ファミレスとかに寄るのは拙いだろう。

「うーん、それは言えるな。でも、ホテルに帰ってからだと、また昨日の回転寿司になりかねないぞ」

「そうねぇ…」

 彩芽も、ちょっと不安になっているのだろう。

「もし、よければ私が案内しますよ。私の実家はあの近くなんです。なので、昨日、両親と一緒にお店に行っていたんです」

「それは有り難い。なら、帰ってから、時間を決めよう」

「到着は、20;32の予定です」

「ミイ、そんな事も分かるのか?」

「ただ今の交通状況から各通過時間を予定しました。ほぼ、間違いはないかと」

「よし、では帰ろう」

 俺たちは、通常モードで輪島市の海岸を後にした。

 車は通常走行しているので信号で当然、停まる。しかし、運転しているのはミイなので、俺たちは同乗していてだけだ。

 そして、車は時間どおり、20:32に本部がある石川県警に到着した。


 翌日は朝から麻薬組織摘発の会議だ。

「情報鑑識センターからの情報では、今度の密輸の予定は明後日との事だ。天候も良く、海も荒れていないため、その日ではないかとの連絡があった。

 そうだ、今回その情報鑑識センターから助っ人が来ているので、紹介しよう。桂川夫妻だ」

 佐竹警視に呼ばれ、俺と妻の彩芽が全員の前に出て行く。子供はミイと三倉巡査に預けた。二人は会議室の後ろに座っている。

 しかし、日奈子はまだ赤ちゃんなのに場所をわきまえているのか、このような場所では泣く事はない。

「ただ今、紹介に預かりました。情報鑑識センター副所長 桂川彩芽です」

「同じく、情報鑑識センター担当1年目の桂川圭です」

「ざわざわざわ」

「あー静かに、彩芽さんの階級は警視だ。ここに居る全員より階級は上だからな。旦那さんの方は巡査だ」

「ざわざわざわ」

 恐らく嫁が階級が上なので、不思議に思っているのだろう。

「えーと、妻の方が私より一回り上になります」

 俺は全員が疑問に思っている事が分かったので、彩芽の方が年上だという事を言ってみる。

 それで、ざわついていた会場がある程度静まった。だが、それでも何故、年上の警視が妻になっていのかは分からないだろう。

「それで、二人の子供も一緒に連れてきているが、まだ幼いので、そこは皆が気を配って貰いたい。それでは、二人は後ろの席で頼む」

 俺たちは、後方の席に移動した。そこにはミイと三倉巡査が居る。

「彩芽さんって圭さんより一回りも上だったんですね。私はてっきり2,3歳ぐらい上かと思っていたんですよ」

 三倉巡査から、そんな事を言われて彩芽は嬉しそうだ。

「それでは、会議を進める。まず、密輸の日程と場所は各人のタブレットに出す」

 この説明は、情報漏洩を防ぐために情報をここで言う事はしない。その代わりに、タブレットに必要な情報とその他の番号と名前が班の情報として表示されている。

「その数字が各班の番号になる。1班が飯田班、2班が宮城班、3班が広田班、4班は私が直接指揮を執る。桂川くんたちは私と一緒の班でお願いする。質問は?」

 数人から手が上がった。佐竹警視は、そのうちの一人を指名する。

「武器と装備はどうなりますか?」

「全員、防弾チョッキ着用だ。後は拳銃になる」

「相手は外国の専門部隊です。それで大丈夫でしょうか?」

「我々以外にも機動隊とSATが待機することになっている。これはあくまで麻薬捜査だからな」

 別の人物が手を挙げた。

「海上側の警備は?」

「そちらは海上保安庁が対応する事になっている。その後方には海上自衛隊もスタンバッている。それだけ、総力戦ということだ。

 これが、公になれば国際的に某国の謀反が暴かれる事になるからな。後、質問は?」

 誰も手を挙げない。

「では、明後日、最後の実行に向けての判断を行う事にする。解散」

 会議は終了となった。それと同時に明後日が密輸の摘発日と決まった。

 俺たちは佐竹警視の部屋に行き、福山警視正と連絡を行う。

「福山センター長、決行日が決まりました。事前の調査の通り、明後日の予定です」

「こちらもミイくんからの情報に基づき、新たな情報をサーチしているが、特に目新しい情報はない」

「了解しました。こちらは新しい車の機能を使えるので、そちらに居る時と同じように情報を入手出来ますので」

「そうだったな。それでは後は頼む、ちょっと、佐竹警視と交代して貰って良いか」

 彩芽が佐竹警視と交代した。

「佐竹警視、うちの二人が迷惑をかけていると思うが、よろしくお願いしたい」

「はっ、こちらとしては助かっており、迷惑などという事はありません」

「それでは、くれぐれも頼む」

 それで、報告は終了となった。

「警視、ご迷惑をおかけしています」

「いや何、二人が来て助かったのはこちらだ。情報鑑識センターとのやり取りがスムーズになったのだからな」

 佐竹警視の部屋を後にした俺と彩芽は、三倉巡査とミイを連れて車に行く。

 ミイが車とコネクトして、情報鑑識センターの計算機と連携する。すると、目の前にあるモニターに必要な情報が表示される。

「ミイ、明後日が密輸だとすると、密輸船は既に北朝鮮の港を出ているだろう。今頃はどこだろうか?」

「恐らく漁船に成りすましていると思われます。今頃はEEZの外にいるのではないでしょうか。衛星で確認します」

 すると何隻かの漁船の姿が確認出来た。

「これらの漁船のうちの一つが密輸船の可能が高いです」

「海上保安庁との連携は?」

「わざと1か所、警備を手薄にしている箇所があります。そこから、招き入れる予定です」

 本国内の販売ルートは悉く押さえた。後は密輸側のルートを潰すだけだ。それは明日の夜、決まる事になる。

 車で情報を集めていると、ミイが突然発言した。

「今、朴の電話に電話が掛かってきています。北朝鮮からの国際電話です」

「ミイちゃん、出て。ただし、朴の声でね」

 ミイが操作したようでミイが何か話しているが、それはハングル語であって、俺たちには理解出来ない。

 ミイは男の声で受け答えしている。しかし、それは手に持っているスマホに会話の内容は翻訳されて表示されている。

『馬だ。最終決定の連絡を行う。明後日2時丁度、場所はいつもの海岸だ』

『明後日午前2時、場所はいつもの海岸。了解した』

 それだけ会話すると電話は切れた。

「佐竹警視に連絡しよう」

「既に会話の内容はシェア済です」

 すると、すぐに佐竹警視から連絡が入った。

「今の会話の内容については、スマホで確認した。どうやら、予定どおりだな」

「はい、そのようです。引き続き、情報の確認を行います」

 それからは、何も目新しい情報はなく日が暮れた。


 決行の日、19時となり、全員が防弾チョッキと拳銃を持って会議室に集合した。

 これは1時間前に、全員のスマホに集合の連絡と装備が連絡されている。

 どの顔も緊張しているのが伝わってくる。それはそうだ、もしかしたら銃撃戦になる可能性もある。相手は単なる売人ではないのだ。

「全員準備は良いか。それでは、手配してある車に乗り込め。場所と配置等には各自のタブレットに送信する」

 佐竹警視の指示で、会議室に居た刑事たちが専用車に乗り込むと車は出発した。

 俺たちも専用の車に乗り、現地に向かう。服も普段の背広ではなく、機動隊が着るような服装を着る。それは、他の刑事たちも同じだ。

 出発すると直ぐにタブッレトに捜査場所と待機場所が表示された。俺たちの近くにはさらに機動隊とSATも待機し、海上には海上保安庁もいる。そして、その後ろには海上自衛隊までも待機している事が分かった。国をあげての捕物帖になっている。

 現地に到着すると、車は遠くの場所に隠して、各班が配置に着く。俺とミイは佐竹警視たちの班に居るが、彩芽と日奈子、それに三倉巡査は車で待機だ。

 俺も防弾チョッキを着用し、拳銃を持つが拳銃なんて、警察学校での訓練でしか撃った事が無い。

 現実的に持っても持たなくても余り違いはないだろう。

 俺たちが配置について1時間後、1台の車が入って来た。この辺りは街灯とかは無いので、車のヘッドライトだけが暗闇に光る。

 車は調査で来た日に、俺たちが車を停めた場所に同じように車を停めた。やはり、ここが取引の場所なのだろう。

 車からは男が二人出て来た。だが、この男たちは実は警察の刑事だ。日本側の運び人の朴は既に確保しているので、この場所に来る事は出来ない。

 その車のヘッドライトが見えたのだろう。真っ暗な海の上に小さな光が出て、それが上下に揺れている。

 こちら側も車のライトを点灯して答えると、沖合の光が徐々に近づいて来る。

 車もライトを点けて、上陸位置を示すと、船外機をつけたゴムボートが小さな音を立ててやって来た。

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