第45話 自衛隊での移動
「自分は、『桂川 圭』階級は巡査です」
緊張した俺は、島田空佐と同じように答えた。
「ははは、そう緊張するな。それより、兄ちゃんも桂川なのか?」
「はい、こちらの彩芽は妻になります」
「別嬪さんの階級は、それは確か、警視か?するってと、兄ちゃんの嫁さんは偉いさんじゃないか」
「ええ、歳は12歳上になります」
「へー、俗に言う逆玉ってやつか。それで、後の二人は?」
「娘二人になります」
「へー、こんな大きな娘が居るのかい。あんまり、詳しい事は聞かない方が良いな」
島田大佐は一人で納得している。それは、ミイが彩芽の連子だと解釈したのかもしれない。
「それで、国家機密があるとの事だったが…」
「えーと、それはこのミイです」
「へっ、この子が国家機密なのか?全く、どういう事なんだ?」
「えっと、それは国家機密と言う事で…」
「ああ、まあ、そうだな。そうじゃなきゃ、国家機密じゃないからな。それじゃあ、車を積み込んでくれ」
「ミイ、遠隔で良いから車を積み込んでくれ」
ミイが遠隔で操作した車を輸送ヘリに積み込む。
「おい、桂川くんだっけか、どうやって積み込んだんだ?」
「このミイが遠隔で操作して、車を動かしました」
「ほー、そんな事が出来るのか。最近の技術の進歩は凄いな。よし、それじゃあ、乗り込んでくれ」
俺たちが輸送ヘリに乗り込むとローターが回り出した。すると、自衛隊のヘリだけあって、ローターの音がヘリの中に響いて来て、話も出来ない程だ。
「おぎゃー、おぎゃー」
あまりの音に日奈子が泣き出した。
「ミイ、日奈子の耳を塞いでくれないか」
「分かりました」
ミイはそう言うと、ベッドホンの姿に形を変えて、日奈子の耳を塞いだ。きっと、中では音楽が流れているのだろう。
しかし、それを見て驚いたのは島田空佐だったようで、大きな声で何か言っているが、プロペラの音が大きくて、何を言っているか分からない。
そのうち、島田大佐も諦めたようだ。すると、身体が一瞬、無重力になったと思ったら、まるでエレベータに乗るような感覚で上昇して行く。
しかし、空中に浮かぶとローターが一段と五月蠅くなった。
「ミイ、どうにかならないか、余りにも五月蠅くて」
するとミイはヘッドホンから食指のような物を出して、俺と彩芽の両耳を塞いだ。
「ふう、やっと、どうにかなった。ミイありがとう」
「愛情1ポイントアップ」
「あら、愛情ポイントがアップしたわ」
彩芽の声がクリアに聞こえる。
「あれ、彩芽の声が聞こえる」
「はい、現在、音のキャンセリング機能を起動しました。会話は骨伝導機能で会話が可能です」
そんな事も出来るんだ。ミイの能力には正直驚かされる。
輸送ヘリは1時間半ほどで、小松空港に着陸した。ローターが止まると辺りは静寂になった。いや、静寂ではないが、五月蠅かったので、そう思えるだけだ。
遠くには旅客機のエンジン音とか車の音とかもしている。
ミイは再び子供姿に戻り、俺たちと一緒にヘリの外に出る。ヘリの後部が開いたので、ミイに言って、遠隔操作で車を外に出す。
「あのなあ、桂川くんだっけか。そのミイという子は一体何なんだ。どうして、姿が変化出来るんだ?」
「えっと、それは国家機密ということで…」
「ああ、そうか。その子には何かとてつもない何かが、あるということだな。それじゃあ、後は気をつけてな」
俺たちは車に乗り込んだ。
「お世話になりました。それじゃあ、出発します」
「ああ、また、どこが会おう」
「ミイ、場所は分かっているだろう。北陸道を急行してくれ」
「分かりました」
ミイが言うと、天井から赤色灯がポップアップする。
「ウーウーウー」
サイレンが鳴る。その瞬間、あまりの加速で、身体がシートに張り付けられる。
空港から外の道路に出ると、信号は全て青だ。そこをミイが運転する水素自動車は疾走する。
ミイは運転するといっても、ハンドルに手を添えている訳ではない。全て車と接続して、今はミイが車の制御装置になっている。
北陸道に入り、一路金沢市を目指すが、一体いくら速度が出ているのだろう。サイレンと赤色灯で、前方を走る車が道を譲るが、恐らく100km/hで走っている車があっという間に後ろに飛んで行く。
今夜は金沢で一泊し明日の朝、今回の麻薬捜査の本部になっている石川県警に行く事になっているが、挨拶だけはしておいた方が良いだろう。
ミイが運転する車は、まず石川県警に入る。
車を停めてから、本部のある会議室に行くと、まだ捜査員が残っていた。
「情報鑑識センターの桂川彩芽と桂川圭です。この度、協力ということで派遣されました」
「私が、今回の指揮を執る『佐竹』だ。君たちが噂の桂川夫妻か、明日は早速、現地に行くのでよろしく頼む」
それから多少の情報を聞いてから、今日の宿であるホテルに向かう。
俺たちは、あらかじめ予約してあった金沢市内のビジネスホテルに入った。
「家族でビジネスホテルなんだ」
「一般の出張扱いだから、仕方ないでしょう」
税金で給料を貰っている身分としては、贅沢は言えない。
「確かにそうだな」
フロントに行って、宿泊の予約を確認し、指示された部屋に向かうが、警察の制服を着て、子供を抱いた俺たちをホテルの従業員はどう思っただろう。
両手に抱えた荷物を置くと、夕食に出かける事にする。
私服に着替えて俺と彩芽、それにミイは部屋を出る。日奈子は俺が抱いて行く。
「どこに行こうか?」
「日奈子も居るから居酒屋はちょっとね。ファミレスとかあれば良いんだけど」
ホテルの前で見回すと、近くに回転寿司の看板がある。
「そう言えば、こっちの回転寿司って美味しいらしいぞ。回転寿司はどうだろう」
「いいわね。そこに行きましょう」
俺たち一家は地元と思われる回転寿司屋に入ったが、かなり混んでいる。
順番の番号札を取って、待合の所で立って待つ。
「あの、こちらにどうぞ」
見ると、やはり家族連れだろうか。両親と年の頃なら25歳ぐらいの若い女性のグループだ。その若い女性が席を譲ってくれた。
「いいんですか?どうもすみません」
「いいですよ。子供さんを抱いて、立っているのは辛いでしょうから」
「なら、お言葉に甘えます。彩芽、座らせて貰えばどうだ」
「そうねえ、なら私が日奈子を抱くわ」
譲って貰った席に彩芽が座り、日奈子を抱いた。
「奥さん、彩芽さんと言うんですか?私と同じ名前だわ」
「ええっ、そうですか。彩芽という女性は美人ばかりだな」
「ホホホ、お上手ね」
彩芽を見ると複雑な顔をしている。しかし、確かにこの彩芽と名乗った女性も北陸美人というか肌は白く、対照的に髪は黒髪で、美人と言っても良いだろう。
「38番の方」
「はーい、それじゃあ、お先に」
彩芽と名乗った女性の家族は、呼ばれて行ってしまった。
「あなた、やっぱり、若い女性の方が良いんでしょう」
彩芽がヤキモチを焼いている。
「何を言っているんだ。彩芽も美人だと言っているんだ。第一、ミイを見て見ろ。彩芽に似て美人じゃないか」
「愛情3ポイントアップ」
ここで愛情ポイントがアップした。
「もう、本当にお調子者ね。まあ、いいわ」
そんな話をしていたが、15分程で呼ばれたので、指定されたボックス席に入った。
ボックス席では二人で食事をする。ミイは荷電粒子結合体のため、電気が食事になるが、ここにはコンセントはない。なので、ただ座っているだけだ。
これは傍から見ると虐待している様に見えるかもしれないので、ちょっと心が痛む。
食事が済んだ俺たちは、店を後にしてホテルに戻った。後は風呂に入って寝るだけだが、ツインのベッドなのに彩芽が俺のベッドに入ってきた。
「彩芽、あっちのベッドは?」
「日奈子を寝かせてあるから、私はこっちで寝る」
ミイは椅子に掛けてコンセントから充電している。
「ミイ、スリープ」
ミイは照明を消すと、そのままシャットダウンする。それを見た彩芽は俺に抱き着いてきた。
「あなた、朝食に行かないと」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
朝、目覚めるとホテルの朝食に行くが、夕べ遅くまで夫婦の共同作業をしていたので、ややお疲れだ。
日奈子を連れて朝食会場に行く。ミイは、部屋で留守番をして貰う。
朝食が終わると、部屋に戻り制服に着替えて、ホテルを出た。日奈子は俺が抱いて、車に乗り込むと、ミイの運転で石川県警に入る。
昨日の会議室に入ると、さすがに昨日より多い捜査員が居た。
「あー、静かに。紹介しよう。今回、協力してくれる情報鑑識センターの桂川一家だ」
佐竹警視が一家と言ったのは、俺と彩芽以外に日奈子とミイが居たためだ。
しかし、それを聞いた捜査員は驚いている。それはそうだ。10歳ぐらいの子供と赤子を抱いて来ているのだ。ちょっと考えれば可笑しいだろう。
しかし、警官の制服を着ているので、それがアンマッチでもある。
全員の視線が俺たちに集中する。
「あー!」
声のする方を見ると、どこかで見たような女性がいる。
「昨日、回転寿司屋で席を譲ってくれた女性です」
ミイが顔を記憶してくれていたのだろう。
「ああ、そう言えば昨日、寿司屋で会った方。確か、彩芽さん」
「三倉 彩芽です」
「何だ、三倉くんは二人を知っているのか。なら話が早い。今回、二人に協力してくれないか。何分見知らない土地だから、詳しい者が居た方が良いだろう」
「えっ、ええ、分かりました」
「と、言う訳で、今回はあの三倉くんと一緒に行動してくれ」
佐竹警視からの指示で三倉巡査と行動する事になった。
三倉巡査を連れて駐車場に行く。
「それでは、彩芽、これからその朴という男が消えた場所に行ってみようか」
「「はい」」
「えっ、あっ、そう言えば二人とも彩芽だった」
「そうね、なら私はママで良いわ」
妻の彩芽が言う。
「いや、三倉巡査は先輩なので、三倉先輩と呼びます」
「えっ、私が先輩ですか?」
「本官は今年、配属になったばかりですので」
「ええっー!なんだか昔から警官をやっていた感じ。それに今年配属になったのに奥さんと子供まで居るなんて…」
「えーと、それには色々とありまして…」
「まあ、それは良いじゃない。さっさと行きましょう」
彩芽の言葉で自分たちの車に乗り込んだ。運転席にはミイが座り、助手席には俺が座る。彩芽と三倉先輩は後部座席だ。
「あのう、車はまさかその子供さん、ミイちゃんでしたっけ。その子が運転するんですか?」
「ええ、そうですよ。それについても移動の途中で説明します。では、ミイ、朴の消えた所まで行ってくれ」
「では、発進します」
ミイが車を動かしたが、アクセルにもハンドルにも触れていない。
「ええっ、どうしてこの車は動いているんですか?」
その時、ミイの手が変形して制御コンピュータと繋がったコネクターに接続されたのが三倉先輩の目に入ったようだ。
「えっ、その子の手、コネクターと接続されている」
「実は、この子は荷電粒子結合体という物質で出来ているアバターなんです。でも、ミイはれっきとした俺たち夫婦の子供です」
「愛情10ポイントアップ」
「何ですか、今の?」
「あまり、深く考えないでくれませんか。それより、ミイ緊急走行モードで行ってくれ。もしかしたら、何か手掛かりがあるかもしれないから」
「分かりました」
ミイがそう言うと、天井から赤色灯がポップアップし、サイレンが鳴る。
「ウーウーウー」
その瞬間、信号が全て青になり、金沢市内の道路を専用パトカーが疾走する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます