第44話 能登半島へ
モニターには男たちの顔写真が並んだ。それにスマホのデータも表示される。
並んだ男の中には白の顔がある。
その顔をミイが一人一人サーチしていくが、山村の方に居た男たちは他の場所での履歴は見つからなかった。つまり、あの山村で拉致した女性の教育だけをしていた役割のようだ。
その男たちの入国履歴もなかったので、不法入国していたようだ。
そして、麻薬密売のアジトで確保した方の男たちは、個別に事情聴取を行っているが、男たちは黙秘しているらしい。
ただ、こちらの男性たちも入国の事実が無い事はミイの調べと、入国管理局の報告から分かっている。
男たちの移動先をネットワーク型監視カメラの画像と照らし合わせて追うが、それぞれの分担があるのか、ある者は新宿周辺、ある者は渋谷周辺、ある者は池袋周辺などと分かれている。
それは都内だけでなく、遠いところは横浜や千葉、埼玉なんてのもあった。
「新宿担当の朴という男だけを追跡してみようか」
前日の朴の動きを駅構内の監視カメラ、列車内のカメラ、警備会社と接続されている店舗のネットワークカメラなどをミイが探査して、その行動パターンを地図上に表示していく。
それは没収したスマホのGPS履歴と相互確認を取る事で、一致する事を確認する。
その作業を1日ごとに遡ってやって行く訳だが、毎日、夜にはある特定の場所に出入りしている事が分かった。
「ここは?」
俺がその場所を指して言うと、ミイが答えた。
「その場所は住宅地になります。恐らく、この朴という男の家になるのではないかと思います」
「ここに住んでいる人は、分かるか?」
ミイが役所の住民基本台帳とかにアクセスしているのだろう。しばし無言になる。
「40代の女性が一人と10代の男女が居ます。姓から判断すると恐らく家族と思われます」
その情報は直に捜査本部に連絡され、刑事たちがその家に向かう事になるだろう。
「家族の情報は?」
「子供二人は朝鮮学校に通っています。その朴という男性も朝鮮学校に出入りしています」
ミイが言う。
「何のために出入りしているんだろう」
「そこまでは…」
「それ以外は?」
ミイが、地図上に朴の行動しているルートを表示する。
「その地図に、確保した女性たちの履歴を重ねてみて」
彩芽がミイに言うと、確保した女性たちの行動パターンが重ねられた。
すると、毎日、どこかで、女性たちと接触していることが分かった。
「思った通りね。この朴が、女性たちに麻薬を渡していたという事で間違いないわ。すると、この朴はどうやって麻薬を手に入れていたかと言う事だけど、昨日のアジトからは大量の麻薬は発見されていないのでしょう。
だとすると、どこかで麻薬を手に入れていたって事になるけど、それがどこかって事ね」
彩芽の推理は、外れていないだろう。俺と山本巡査部長も、その話に頷いている。
「まさか、学校って事はないよな」
「いえ、それは十分にあるかも。まさか、学校が麻薬の中継に使われているとは思わないでしょうから」
「ミイ、朝鮮学校に出入りする車を全て当たってくれ。特に、この朴が出入りした前後だ」
ミイが黙った。このような場合は、ミイが近くの監視カメラをサーチしている証拠だ。
「1か月に一度、白いバンが出入りしています」
モニターに出入りする車が並ぶが、ほとんどは会社のロゴがあり、食品や文具用品の会社の車だ。しかし、1台、白いバンタイプの車だけ会社ロゴが無い。
「ミイ、ナンバーの解析とその車の行動範囲を示してくれ。NIシステムも当たって貰って良いか」
ミイがサーチすると、その車は高速を使わずに、下道だけで能登半島の方まで行っている事が分かった。
「遠く、能登半島まで高速を使わないのか?」
「高速は、NIシステムが多数設置されています。反対に一般道のNIシステムは、そう多くありません。
この車の運転手は、それを知っているのでしょう」
俺の疑問に山本巡査部長が答えるが、国道ぐらいになるとそれでも、ある一定の間隔でNIシステムは設置されている。
ミイはNIシステムから得られたナンバーデータや店や道の駅に設置している監視カメラ画像を繋ぎ合わせて、不審車の行動履歴を表示したのだ。
「最後に確認された画像は、この道の駅の監視カメラです。ここから先は、どこで停止したか分かりません」
次の道の駅まで約50km、近くのコンビニまで約10kmある。つまりは、その10kmの場所のどこかでこの車が停止した事になる。
「石川県警に連絡して、この車の目撃情報がないか確認して貰いましょう」
彩芽が早速、石川県警への協力依頼をするように、インターホンで福山センター長と調整している。
インターホンで会話していた彩芽がインーホンを置いた。
「福山センター長から、パパは石川県に出張してくれって。車も一緒に持って行って良いらしいわ。
その為に、自衛隊の輸送ヘリを使えるように手配するからって。輸送ヘリは今日の18時に府中飛行場から出発の予定ですって」
「なら、下にある車で一旦、家に帰るか」
「ちょっと、待って。車は新しいのがあるから、そっちを使えって」
「えっ、新しい車?」
彩芽に連れられて地下駐車場に行くと、いつも使っている電気自動車の横に見慣れないかっこ良いクルマがある。
「こっちが新しい車。電気じゃなくて、水素電池で走る車。燃料電池車ってやつで、今度、市販するやつをミイちゃん専用に改造してあるの」
彩芽がタブレットを見ながら、話してくる。そのタブッレトに概要が書かれているのだろう。
「そんな、税金の無駄遣いじゃないのか?」
「上もミイちゃんを有効活用した方が良いと考えたのよ。えっと、ちょっと待って。マニュアルを出すから」
「おいおい、マニュアル見ながら運転出来ないぞ」
「それは、心配無用よ。まず、キーは音声合成式だから、後から登録する必要があるわ。今はこっちのリモコンで開けるね」
彩芽がそう言うと、ドアが開いた。そこに乗り込んでみるが、目の前にあるのは全てディスプレイだ。
「今までは、ミイちゃんがWifi接続していたから、どうしてもコンマ数秒の時間差が出たけど、これはこのコネクタにミイちゃんを直接接続する事で車と一体型の動作が可能になったのが大きな違いね。
それと、大きく進化したのは通信機能ね。最新式の7Gに対応しているのはもちろん、衛星通信を利用しての通信が可能。それと、本部のコンピュータと接続出来るので、この車に居れば、本部に居るのと同様なサーチが可能だわ。
後は、燃料は水素なので、水素があればミイちゃんにもコネクタを介して充電が可能になっている」
「すごいじゃないか。ミイ、どうだ?」
ミイが運転席に座り、コネクタに接続している。
「マニュアルをダウンロードしました。パパとママの音声も既に登録しましたので、登録操作は不要です」
「ミイ、さすがだな。良く出来た娘を持って、パパは幸せだ」
「愛情50ポイントアップ」
おお、愛情ポイントが大幅アップした。
「動力系もマニュアルにあるけど、一応読むね。えーと、モーターはホイールインモーターで1つ辺りの馬力は150馬力で全部で600馬力。新型ウルトラネオジム磁石というやつを使っているらしいけど、良く分からない」
「最高速は350km/hです」
彩芽に代わり、ミイが答えた。
「それと、これ。ミイちゃんに」
彩芽が出したのは免許証だ。だが、それは俺の免許証ではない。
「ミイの免許証なのか」
「そうよ。これで、ミイちゃんも運転出来るわ」
「でも、ミイは免許の試験なんて受けてないだろう」
「だって、受けても実技も学科も全てパーフェクトで合格してしまうでしょう。やるだけ無駄というものよ。だから、上も無条件で免許証を交付したということ」
見ると、名前が桂川ミイとなっており、生年月日は2031年5月1日となっている。
「ミイは未成年じゃないか。法律的に運転出来るのか?」
「そこはどうにかしたらしいわ。第一、運転免許って人間に対して発行されるものでしょう。ミイちゃんはそれだけで、法律外という事ね」
なるほどね、どうやら上は別の意味でミイを見ているようだ。車の周りを見た俺は有る事に気が付いた。
「あれっ、水素で動くと言った割には、今までと同じで充電ケーブルが接続されている」
「ええ、水素とバッテリーを積んでいるの。電池だけでも走行出来るの」
充電ケーブルを外して、新しくなった専用車で自宅のある官舎に戻る事にする。
ミイが運転席に座り、助手席には俺、後部座席には彩芽が日奈子を抱いて座った。
「発進します」
ミイが言うと、車が動き出した。動力がモーターだからか、走行音はほとんどしない。
車は地下駐車場を出て、官舎に向かい、今度は官舎の地下駐車場に入り、専用駐車場に車を置き、エレベータで自宅のあるフロアまで移動すると、自宅に入った。
「それじゃあ、18時に府中飛行場だったっけ?それだと、何時に出発すれば良いんだ?」
「16:45に出発すれば到着します」
俺の質問にミイが答える。
「なら、出張の支度をしていくか。何泊ぐらいになるだろうか?2,3泊のつもりで行った方が良いかな」
「私が準備するから、いいわ」
「そうか、悪いな」
出張の支度は彩芽に任せて、俺は日奈子をあやす事にする。
そんな事をしていると、16時を回った。隣の部屋から両手に荷物を持った彩芽が出て来た。
「2,3日だろう。そんなに荷物はいらないだろう」
「何言ってるの、私たちの分もあるのよ」
「へっ、私たちの分?まさか、彩芽も行くのか?」
「私だけじゃないわ。日奈子の分もね」
「おい、俺だけで良いって事じゃなかったっけ?」
「だって、もちろん私も行くわよ」
俺は、抵抗する事の虚しさを知った。
時計が16:30を指す。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
俺とミイは両手に荷物を持ち、彩芽はベビーカーに日奈子を乗せて、親子4人でエレベータに乗る。
地下駐車場に行くと、まだ真新しい専用パトカーに乗る。運転はミイがする。
「目的地設定、府中飛行場。では、発進します」
ミイが言うと、専用パトカーはゆっくりと動き出した。
途中、高速に乗り、100km/hで走行するが、振動もほとんど感じないし、室内も静かだ。そして、一番、驚いたのは目の前にあるモニターに本部と直結された情報が表示されることだ。
この機能は本部に居るのと何ら変わる事がない。ただ一つ違うのは、モニターのサイズだが、これは車という室内を考えれば仕方ない事だろう。
「桂川くん、聞こえる。既に飛行場では輸送ヘリが出発の準備が出来ているからって連絡が入っているわ。後、どれくらいで到着する?」
山本巡査部長がTV電話で連絡してきた。
「えーと、ナビの情報では後20分弱で到着の予定です」
「了解。その旨、自衛隊に連絡しておくわね」
山本巡査部長がモニターから消えた。
その瞬間、西日がフロントガラスを通して車内に入って来た。
「うっ、眩しい。ミイは大丈夫か」
「私は問題ありません。赤外線映像から道路状況は常に把握しています。それと、これでどうでしょうか」
ミイがそう言うと、フロントガラスから入って来る西日の光が無くなった。
「えっ、眩しく無くなったぞ。どういう事なんだ?」
「この車には、全ての窓ガラスに電子偏光フィルムが貼られています。これは電気を通すと入って来る光を屈曲させる事が可能です」
「そんな事が出来るんだ!」
「何言ってるの、さっき説明しなかったっけ?ドアのパワーウィンドの下にあるスイッチを押すと、自分の所のガラスだけ偏光に出来るのよ。これで車で授乳しても外から除かれる事もないわ」
窓ガラス一つ取っても凄いという事が分かった。
そして、17:45に俺たちの車は府中飛行場に入った。
そこには、既に自衛隊の人が待っていてくれた。
「お待たせしました。情報鑑識センターの桂川です」
彩芽が自衛隊の隊長らしき人に言う。
「おお、ご苦労さん。まさか、こんな美人が来るなんて思っていなかったな」
日焼けした顔にヘルメットを被った50代の男性が言う。
「俺はこの部隊を率いる『島田 太一』。階級は第一空佐だ」
彩芽は美人と言われて、ニコニコしている。
「それでこっちは?」
島田空佐は俺を見て言う。
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