第43話 突入

 次の日。

「あなた、気を付けて」

「俺には、ミイが付いているから大丈夫だ」

「愛情1ポイントアップ」

 久しぶりに、ミイの愛情ポイントがアツプした。

「では、行って来る」

 俺はミイと一緒に専用の車に乗り込む。もちろん、服の下には防弾チョッキを着用している。

 山川署からは有村刑事と曽我刑事も、この捜査に当たる。情報鑑識センター所属である俺は現場の捜査は行わないのだが、ミイを是非にと請願されて、俺も捜査に加わる事になった。

 目的のビルから離れた駐車場に車を停め、後はミイと手を繋いで歩いて行く。

 すると、前の方から制服姿の警官が2人やってきた。これは、ただのパトロールだ。

「ちょっと、良いですか?こんな夜に子供連れでどこに行くんですか?」

 ミイは小さくなっているので見た目10歳ぐらいだ。それが20歳ちょっとの男が連れていたら不審者も良いところだろう。

「あっと、別に怪しい者ではありません」

「怪しい者に限って、そう言うんだ」

 確かに、その通りだ。仕方なく、俺は警察の身分証を取り出した。その横にはミイも同じ身分証を出している。

「えっ、これは?」

「詳細は機密になっているので言えないですけど、我々は警官です。任務で先を急ぐのでこれで失礼します」

 そう言うと、俺はミイの手を取りさっさと歩き出した。

 しかし、二人は俺たちの後ろをついて来る。

「ちょっと、困るんです。制服姿で来られると任務に支障が出ます。あなたたちは、その責任を負えるのですか」

 俺が多少きつく言う。

「しかし、全面的に信用も出来ない」

「分かりました」

 俺は警察スマホで彩芽に電話をする。

「もしもし、今、職質に会って疑われているんだが、どうにか信用させてくれないか?」

「ホホホ、ミイちゃんを連れていれば、そうかもね」

 彩芽も理解したようで、俺に警官と代わる様に言う。

 制服警官も警察スマホを持っているのをみて、どうやら警官と信じたようだ。今は彩芽から話を聞いている。

「け、警視ですか?」

 そんな声が聞こえる。警官は電話を切ると、スマホを俺に手渡す。

「失礼しました。特務により、行動中である事を確認しました」

 二人はパトロールの続きを行うようだ。俺はミイの手を取り、捜査場所となっているマンションに向かう。

 マンションから100mの場所に到着すると、既に有村刑事と曽我刑事が居た。

 時計の針は9:30を指している。

「どうですか?」

「ああ、運び屋と思われる男連中が集まってきている」

 有村刑事から双眼鏡を手渡され、覗いてみると、赤外線処理された画像が、双眼鏡の中に現れる。

 俺は警察無線とそれに接続されたインカムを耳に当てた。

 インカムからは時々、状況を知らせて来るだけだ。今回、彩芽は参謀として本部に居る。

 時計が夜10時を指した。

「こちら、有村隊。敵のアジトに、ほぼ全員が集合したと思われます。突入の許可を願います」

 有村刑事から突入の許可を本部に要求した。

「こちら、本部。突入を許可する」

 それを無線で聞いた刑事たちが、マンションの方に近づいて行く。一人、一人とマンションに入り、あらかじめ決められた位置に着いた。

 俺たちもマンションの方に向かう。エレベータで12階に上がると、エレベータホールと廊下には刑事たちが居る。

「銃撃になるかもしれませんし、入る時もドアを開けて貰えないかもしれませんから、ここはミイを行かせます。ミイ、良いか」

「はい、私が行きます」

 ミイが行ってくれるようだ。だが、まだ部屋が特定されていない。そのため、ミイが電話を掛けてみる。

「トゥルルル、ガチャ」

 ミイは電話を掛けたが、直ぐに切った。

「分かりました、この一番奥の部屋です」

 ミイが指差した部屋の方を全員が向く。

 その先にミイが行き、ドアに相対した。ミイがインターホンを押すが、中からは誰も出て来ない。しかし、部屋の電気は点いている。

 ミイは相手が出て来ないので、手を変化させると、扉の鍵穴に手を入れて、開錠している。

「ガチャ」

 鍵が開き、ミイが扉を開ける。

「パンパンパン」

 扉が開いたと思ったら、室内から発砲の音がする。その時は既に部屋の電気は消されている。

「パンパンパン」

 室内からは途切れる事なく発砲音がし、それはミイに当たっているが、荷電粒子結合体であるミイは拳銃の弾では倒れることは無い。

「パンパンパン」

 拳銃は相変わらず撃たれているが、ミイはそのまま部屋の中に入る。

「バシッ」

「パンパンパン」

「バシッ」

「バシッ」

 ミイが電撃を使ったと思われる音が、何度か聞こえてきたが、その音が収まった。

「突入!」

 その声と共に警察が室内に突入するが、全員が防弾チョッキと拳銃を手にしている。

 俺も防弾チョッキと拳銃を手に持って、部屋に入った。

 ミイが電気を点けたのだろう。部屋の中は既に明るい。そこには、手に拳銃を持った男性が10人程転がっている。

 刑事たちが男たちから拳銃を取って行き、手錠をかけている。すると今度は担架を持った別のグループの刑事たちが入ってきて、男たちを運び出している。

 外に停めた警察車両に乗せるのだろう。

 後は家宅捜査になるが、それは鑑識の仕事になる。麻薬も見つかるかもしれない。

 俺たちは本部の方に帰ってきた。すると、福島の山間部へ捜査に行った部隊の報告も来ていた。

 それを彩芽から聞くが、山間部にいた男性たちと銃撃戦になり、こちらは重傷者が2名出たが、相手は最後に全員が自殺したとの事だ。

 拉致されていた女性の中には軽傷の者がいるらしいが、命に別状はないとの事。

 拉致されていた女性は既に確保されて病院へ連れて行かれ、検査入院をするらしい。

 そちらも今は家宅捜査中らしい。今回の事態にはSATが当たったということだ。

 銃撃戦で死んだ男たちの顔写真と、確保した女性たちの顔写真を送って貰う。もちろん、こちらで確保した男性たちの顔写真も情報鑑識センターに送って貰った。

 それらの顔写真はミイに分析して貰い、一人一人の行動を把握していく事になるが、直ぐ顔写真も集まらないため、分析は明日からになる。

「それじゃあ、今日は帰るか。そうだ、相手が撃って来た弾はどうした?」

「はい、ここにあります」

 ミイはどこから出したのか、手に持った拳銃の弾を出した。

「これも明日から分析だな」

 俺は拳銃の弾を専用のケースに入れ、金庫にしまった。

「さて、帰るかな。ミイ、今日は良くがんばったな」

「愛情1ポイントアップ」

 また、愛情ポイントがアップした。そこに、日奈子を抱いた彩芽も来た。

「あら、帰る?」

「ああ。今、帰ろうとしていたところだった」

「なら、一緒に帰りましょう」

「本部の方は良いのか?」

「うん、取り敢えずは明日からになったから」

「日奈子は俺が抱くよ」

 俺は彩芽から日奈子を受け取るが、日奈子は良く寝ている。

 4人で、山川署の地下駐車場に行き、俺たち専用の電気自動車に乗り、自宅がある官舎に帰る。官舎に車を停め、充電ケーブルを繋ぐと地下駐車にあるエレベータホールから自宅のある階まで行き、部屋に入った。


「今日は、何んだか疲れたな」

 俺は服を脱ぎながら、独り言を言う。

 彩芽は日奈子をベビーベッドに寝かすと寝室に入ってきて、クローゼット前で着替えている。

「ちょっと待ってね、直ぐに夕食にするから」

「彩芽も今日は疲れただろう。カップ麺でもいいぞ」

「ううん、そういう訳にもいかないから」

 彩芽はそう言うと、キッチンに入って、食事の支度を始めた。俺は申し訳ないので、風呂の支度をする。

「簡単な物で申し訳ないけど」

 テーブルには炒飯とサラダが並んだ。

「ううん、十分だよ」

 俺たちは二人で食事をする。ミイは、コンセントに手を突っ込んで充電中だ。

 食事が済んだら食器は俺が洗い、その間に彩芽が風呂に入る。日奈子も風呂に入れる。

 彩芽が風呂から出ると、今度は俺が風呂に入る。

「ミイ、電気を消してくれ」

 ベッドの中からミイに告げると、ミイが部屋の照明を落とした。


 翌日、情報鑑識センターに行くと、早速、昨日の情報解析の仕事が待っていた。

 この仕事は情報鑑識センターの職員が総出で取り掛かる事になっている。もちろん、俺と山本巡査部長もこの仕事に取り掛かるが、今回、もう一人助っ人が加わった。

 それは、嫁の彩芽だ。

「彩芽は育休じゃないのか?」

「やっぱり、大きな仕事だから心配だし、福山センター長からも出来れば手助けして欲しいって言われて…」

 そう言い、彩芽は日奈子を抱いて来ている。

 それって、俺が信用されていないって事?

「オギャー、オギャー」

 日奈子が泣き出した。

「あら、お乳かしら?」

 彩芽は、そう言うと服のボタンを外し出す。

「彩芽、ここでお乳をあげるつもりか?」

「だって、ここは個室だし、見ているのは夫であるあなたと、同じ女性の山本ちゃんだけだもん。別に良いでしょ」

「私は構いませんよ」

 山本巡査部長は良いようだが、誰が入って来るか分からない。

「しかし、誰が来るか分からないぞ。人に見られるかもしれないぞ」

「あら、焼き餅もちを焼いてくれるの?ウフフ」

「ば、ばか言え」

 そう言っている間にも彩芽は日奈子にお乳を与えだした。すると日奈子は一生懸命、お乳を吸っている。

 その姿はほんとうに見ていて、母親の子供に対する愛を感じる事が出来て、父親としても二人を守らなければならないという責任感を感じる。

 どこにでもある幸せなのだろうけど、俺たち3人の幸せだけはここにしかない。

「可愛いですね」

 授乳する姿を見ていた山本巡査部長が言う。彩芽は母親の顔をしており、この顔こそが子供に対する愛情の顔なのだろう。

「毎日、毎日、見ているのにどんどん大きくなっていって、私も母親としての責任を感じるわ。子供に成長させて貰っているって感じ」

「彩芽先輩を見ていると、私も結婚して子供が欲しくなっちゃう」

「子供が居るって事は、自分のためでもあると思う。そういう意味では、子供を産む事で女性は生まれ変われると思う」

 なんだか哲学の話のようになってきた。

「そうかあ、私も早く結婚しよう。そして子供を産もうっと」

「うちは子供が二人居るようなもんだから」

「ホホホ、そうですね」

「何だよ、それは夫である俺に対して失礼じゃないか」

「だって、年下だし…」

「分かります。分かりますよ、先輩」

 俺は二人にそんな風に見られていたんだ。がっかり。

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