第42話 ミイの手術

「ミイ、どうやって助けるんだ?」

「私が修理する」

 人間だから修理は出来ないだろう。

「いや、森田刑事は修理出来ないから」

「やらしてみましょう」

「彩芽…」

「ミイちゃんは、最初から不思議な子でした。もし、彼が生死の境を彷徨っているいるなら、ミイちゃんがどうにか出来るかもしれない」

 彩芽の目が俺に訴える。その横には山本巡査部長も目に涙を溜めて、俺を見つめている。

「桂川警視、ただ今より桂川巡査と山本巡査部長は、山川第一病院にて救急対応に向かいます」

「桂川巡査、山本巡査部長の出向を許可します」

 彩芽は、俺と山本巡査部長の山川第一病院へ行く事を許可した。

 直ちに、地下駐車場に行き、専用の電気自動車に乗り込む。運転はもちろんミイだが、ミイはいつもの通り、助手席に座り車とコネクトする。そのため、運転席に俺が座るのはこれまでと一緒だ。

 彩芽と山本巡査部長は、いつものと同じ後部座席だ。

「ミイ、赤色灯と緊急サイレンを鳴らせ」

「ウーウーウー」

 車の屋根に、ポップアップ式の赤色灯が出ると同時にサイレンが鳴ると、山川署前の信号は全て青に変わった。そこをミイが制御する覆面パトカーが疾走する。

 行く手を走る車が横に避けて、俺たちの車を優先させてくれる。そして、交差点はミイのコントロールで全て青信号になっている。

 10分程で、山川第一病院に到着した。車を駐車場に停め、森田刑事の様子を聞きに行く。

「先程、撃たれた刑事が運ばれて来ませんでしたか?」

 聞いた相手が良かったのか、直ぐに答えが返って来た。

「それなら、緊急手術になります。第三手術室にて行われます」

「ありがとう」

 俺たちは、教えて貰った第三手術室に向かった。

「ミイ、どうやって修理するんだ?」

 俺もついミイに釣られてしまう。

「私が修理します」

「出来るのか?」

「医術の全てが私の検索で対応出来ています」

「分かった。先生に頼んでみる」

 俺と彩芽は手術の準備室に行く。


「何だ、君たちは?」

 手術の準備をしていた先生に呼び止められた。

「警察です。先程運ばれ、緊急手術になった森田刑事の手術に立ち会いたいのですが…」

「何だって、同僚を心配するのは理解出来るが、素人はじゃま以外の何者にもならない。そんな無理は止めて欲しい」

「そこを何とか。私たちがダメならせめて、この子だけでもお願い出来ませんか?」

 俺はミイを前に出した。

「なんだ、その子は。彼の子供だとでも言うのか?」

「この子はアバターです、絶対に手術の役に立ちます。その証拠を見せます。ミイ、大きくなってくれ」

 その場に居た、先生や看護師がこちらに注目していると、ミイが姿を大きくした。

「「「「え、ええっ!」」」」

「次は姿を変えてくれ」

 今度はミイが、スマホになった。

「なっ、何!」

 驚きの声が周囲に響く。

「わ、分かった。その子が特別な何かなんだな。ならば、立ち合いを許可しよう。君たちは、直ちに消毒と手術服に着替えてくれ。

 俺たちも看護師に手伝って貰い、手術服に着替える。ミイは俺たちと同じ大きさになって手術服に着替えた。

 先生たちと一緒に手術室に入る。天井から吊るされた照明の下には様々な器具を付けられた森田刑事がいる。

「麻酔から行う」

 全身麻酔をかけるのだろう。専門の先生が麻酔を掛けて行く。

「よし、オペを始める」

「この子、ミイにも手伝わせて下さい」

 俺が言うと、手術台を囲んだ先生と看護師が俺たちを見る。その中で一番の年長の先生が、首を縦に振った。

「分かった、許可しよう」

 その言葉でミイが手術台の横に移動する。

「メス」

 手術が始まった。

「くそっ、弾が心臓手前にある。これを取り出すのは至難の業だ」

 しばらくすると、主担当の先生が叫んだ。

「私にやらして下さい」

 そう言ったのはミイだ。

「出来るのか?」

「問題有りません」

「分かった。では、メスを…」

「不要です」

 ミイはそう言うと、手をメスの形にした。そして、まるで機械のようにオペをしていく。

 メスを扱っていたと思ったが、今度は手が別の器具に変わっているが、俺はそれが何という器具かは分からない。

「カラン」

 どうやら、弾は取り出したようだ。

「今から、イオン殺菌と同時に患部の再生を行います」

「「「「おおっ!」」」」

 手術台の周りに居る先生たちが感嘆の声が上がるが、ミイが何をやったのかここからでは不明だ。

「脈拍、低下しています。呼吸、体温も低下」

 看護師が叫んだ。

「問題ありません。全身麻酔の影響が出て来ただけです」

 ミイがその言葉に答える。

「血液の流れは良好です。脳のダメージなし。整合作業に移ります」

 ミイの手の先から何か光のようなものが出て、傷口を縫っているようだ。

「「「「おおっ!」」」」

 再び、先生方の声が上がる。

「終わりました」

 ミイが言うと、誰ともなく拍手が起こった。

「「「「パチパチパチ」」」」

「よし、ICUに運べ」

 森田刑事の手術は終了した。先生の見立てでは、復帰までには3か月はかかるだろうとの事だが、一命は取り留めたということだ。

 手術室から出るとそこには、50代と思われる女性と男性警官が居る。

「先生、敦美は?敦美はどうですか?」

 いや、俺は医者じゃないから。すると、俺の後ろから先程の先生が出て来た。

「もう大丈夫です。しばらくは入院が必要ですが、命は問題ありません」

 それを聞いた、女性は安堵の顔をする。

「親御さんですか?良ければ話をして頂けませんか?」

 彩芽が二人に言う。俺たちは手術服を脱ぎ、警察の制服に着替えてから、病室前の長椅子の所に行く。

 彩芽の姿を見て、男性警官が立ち上がり、敬礼をする。きっと、階級章を見たのだろう。

「そのままで、良いですよ。私は情報鑑識センターの桂川です。この度は息子さんが、このような事になってしまい、申し訳ありません」

 今はミイが日奈子を抱いている。ミイは、子供の姿に戻っている。

「いえ、警視殿よりそのようなお言葉、勿体なく思います。息子も刑事になった時からこのような事は私共も覚悟はしていましたが、まさか現実になるとは思いませんでした」

 それから、二人と話をするが、森田刑事は父親が警官だった事もあり、その後ろを追いかけるように警官になったということだ。

 そんな話をしている所に有村刑事もやって来た。

「桂川くん、森田くんの容態はどうだ?」

 森田刑事の親父さんは有村刑事が「桂川くん」と呼んだのを聞いて、びっくりしている。

 それはそうだ、有村刑事より嫁の方が階級は上だ。それを「桂川くん」と呼んだので、不思議に思えだろう。

 しかし、その言葉に俺が返事をする。

「手術は無事終わりました。取り敢えずは大丈夫だそうです」

「あのう、こちらの警官は…?」

 森田刑事の親父さんの質問に俺が答える。

「私は桂川と言います。階級は巡査です。そして、こちらは私の妻で、後ろの二人は子供です」

「へっ?」

 それはそうだ。俺は警官になって1年目、対する嫁は36歳で警視だ。年齢も階級も違い過ぎる。

「ははは、森田さん、余り深くは考えない事だ。今は息子さんが助かった事を喜びましょう」

「「は、はい」」

 森田刑事の両親が返事をする。


 俺たちは、自殺した白井という男が持っていたスマホを解析することになった。

 情報鑑識センターの部屋に戻り、それをミイが調査する訳だが、そこにはスマホが2台ある。

「どうして、2台あるのでしょうか?」

「その白井という男が2台持っていた。恐らく、平島との連絡用と別の人物との連絡用なのかもしれない」

 ミイがまず1台を検索すると、そこにはアルファ、ブラボー、チャーリー、デルタ、エコー、フォックスロットとあり、携帯の電話番号がある。通信履歴もその名前の人物との履歴があった。

「この電話はどうやら、女性たちとの連絡用だな」

 曽我刑事が言うが、その通りだろう。

「ミイ、こちらの電話について登録者のリスト、通信履歴を出してくれ」

 まずは登録リストからだ。そこには、漢字1文字の人物の名前が並んでいる。これは、中国人、韓国人、北朝鮮人の名前だろう。

 そして、この人物の名前も分かった。「白 世男」がこの男の名前のようだ。しかし、これが本名なのか、それともコードネームなのかまでは不明だ。

「どうやら、白という名から白井という名を名乗っていたようだな」

 曽我刑事の言う通りだろう。

「ミイ、次に通信履歴の方を出してくれ」

 俺の指示でミイが通信履歴を出す。するとそこには、「金 平哲」という人物と頻繁に連絡を取っている事が分かった。

「ミイ、この『金 平哲』がどこに居るか分かるか。それと交信内容が残っていたら聞きたい」

 ミイが通信内容を出すが、それは日本語ではない。

「ミイ、翻訳してくれ」

「次の受け渡し場所を指示してくれ」

「次は7月2日に能登半島沖で受け渡しだ。それから、車を使って運搬するので、3日の夜には、マンションに運び込める手筈になっている」

「各地の連絡員は3日の夜に手渡す事で良いのか?」

「その通りだ」

「では、こちらもその予定で対応する」

 そこで、電話は切れた。

 7月2日と言えば1週間後ではないか。その日に大がかりな麻薬の密輸が行われる事が判明した。この事は直ちに関係する部署に伝えられる。

「ミイ、この会話に出て来たマンションが分かるか?」

 ミイが白のスマホのGPS履歴をモニターに出す。すると、いくつかのビルに出入りしているのが分かった。この情報は直ちに現場の刑事たちに伝えられ、該当するビルの調査が行われる事になる。

「1か月前にも同じような会話があり、その時の履歴を出します」

 ミイが言うと、1か月前の履歴が出て来た。そこには時間も表示されるが、夜10時にあるマンションで位置が止まっている。

「ここのようだな、しかし、部屋までは分からないか」

「階は分かります。12階の最上階となると思われます」

「どうして、それが分かる?」

 曽我刑事の疑問にミイが答える。

「今のエレベータは運行や故障のデータをネットワーク回線で繋ぎ、集中監視されています。そのエレベータの運行履歴を調べた結果、夜8時から10時に渡り、12階まで往復した回数が一番多かったです。つまり、人の出入りが多かった事が分かります」

「なるほど…」

 曽我刑事が感心している。

 家宅捜査令状を取り、明日の夜にマンションに踏み込む事になった。今回は、銃撃される事も考慮して、全員が防弾チョッキを着用しての捜査になる。

 それ以外にも海上保安庁と連携し、能登沖での不審船の捜査に当たって貰う。しかし、相手が不審船の場合、強力なエンジンを積んでいる事も十分考えられるため、海上保安庁も最新型の高速船で対応する事になっている。

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