第29話 父と娘
「では、我々はこれから娘さんの所に向かいますが、連絡は取らないで下さい。もし、連絡されると犯人隠匿などの罪に問われる事になります。
それに我々は、電話を探知出来ますからね」
森田刑事が金子恵美に言うと、恵美は頷いている。
俺たちが部屋を出て、車の方に行くと、ミイが言って来た。
「金子恵美ですが、今、電話をしています。電話先は娘の綺羅のようです」
「早速、電話しているのか。まあ、母親ともなれば当然だろうな」
ミイの言葉に有村刑事が言う。
「ミイ、二人の会話を傍受出来るか?」
「はい、音声を流します」
ミイが言うと、先程の恵美の声が響いてきた。それを車の中で、スマホの姿になったミイのスピーカで聞く。
「綺羅、雄太が死んだって。そのことで、さっき警察の人が来たけど、何か聞きたいことがあるって、あなたの方に向かうらしいから」
「えっ、そうなの。分かった」
「あなた、何か知っているの?」
「ううん、何も知らない。ちょっと、忙しいから切るね」
電話は切れた。
「よし、では、娘の方に行ってみよう」
電気自動車で娘の方に行く。娘は小さなマンションに住んでおり、そこはこの団地から車で10分程の距離だ。
マンションのロビーから娘の部屋を呼び出してみるが、返事がない。
「白鳥、管理人さんを連れて来てくれ。鍵を開けられるようにスペアキーも持ってくるように」
有村刑事の指示で白鳥刑事が管理人室に行く。直ぐに、白鳥刑事は管理人を連れて来た。
事情を説明して、金子綺羅の部屋に向かう。部屋の前に来るとインターホンを押してみるが、返事がない。
「すみません、鍵を開けて貰って良いですか?」
管理人が部屋を開け、中に入ってみるが誰もいない。部屋はきれいに片付けられている。
こんな所にも誠実な女性という印象を受ける。
「さっきの電話と言い、どうやら、娘はその親父と一緒と見て良いだろうな。なら、娘の車を手配するように伝達してくれ」
有村刑事の指示により、捜査員に金子綺羅の軽自動車のナンバーを手配する事が伝達された。
「ミイ、金子綺羅の車を追跡してくれ。後、写真とかあるか?」
「SNSにアップされています。写真を転送します」
俺たちが持っているタブレットに、金子綺羅の写真が転送されてきた。
「歳は30歳か。独身だっけ」
そこには、20代後半に撮影したと思われる写真がある。
「ミイ、車は分かったか?」
「登録情報を転送します」
陸運局に登録してある金子綺羅の車の諸元が同じようにタブレットに表示される。
「車種はニッサンデイズ2019年式か、かなり昔の車だな。おっ、この車最初に登録された時は藤井秀樹になっている。つまり、親父の車を貰ったって事か」
「それを考えると、父親とは交流があったと見て良いですね」
白鳥刑事が有村刑事の言葉に答える。
「Nシステムに探知されました。国道20号を山梨方面に逃走中」
ミイのネットワーク探索機能にヒットしたようだ。
「しかし、何故、国道なんでしょうか?中央道を使えば良いようなものを」
「高速は、NIシステムとかが整備されている事を知っているのかもしれない。後は金をケチるとか、山梨まで行く必要がないとか、色々とあるだろう」
俺の質問に有村刑事が答える。
「そうすると、山梨まで追いますか。そうなると電気を充電しないと無理ですよ」
「そうだな、人も一人減らすか」
有村刑事の言葉に全員が白鳥刑事を見る。
「えっ、私、ですか?」
「白鳥、すまないが、電車で署に帰ってくれ。俺たちは追える所まで追う。後、この調査結果を本部に報告するとともに手配の要求をしてくれ」
「はい、分かりました」
ミイが電車の駅の近くで車を停めると、白鳥刑事が車を降りて駅に向かう。
「森田刑事、後ろの席のセンターコンソールを開けるとトランクと繋がります。そこを開けて貰って良いですか?」
俺の指示で森田刑事がトランクと繋げると、スマホ姿のミイをトランクに入れる。するとミイの姿が元に戻り、トランクの中にある、端子に変形した自分の手を接続する。
「ご主人さま、これで山梨まで走行可能です。私の電池をバックアップに当てます」
「有村さん、もしかして白鳥を帰したのは、この事を知っていたからですか?」
「ああ、嬢ちゃんは前に車から充電した事があったじゃないか。だとしたら、その逆も出来るんじゃないかと思ってな」
「そうだったんですね」
「それより、森田、本部に連絡だ。それと本部から山梨県警、神奈川県警にも連絡してくれるように頼んでくれ」
「分かりました。しかし、白鳥の方も対応しているのでは?」
「電話で連絡する方が早いだろう」
つまり、本部に報告しろと言ったのは、白鳥刑事を降ろすための口実だったって事だろう。
「ミイ、金子綺羅の車はどうなっている?」
「そのまま、国道を西進しています」
「このままだと追いつけないですが、どうします?」
「中央道を行こう」
「ミイ、中央道に入って、山梨方面に向かうんだ」
ミイが中央道のあるインターチェンジの方に向かう。そして、そのまま、高速に乗ると赤色灯とサイレンを出して、時速150km/hで走り出した。
「ミイ、大丈夫か」
前席に乗っている俺は、風景があまりの速度で飛んでいくので怖い。
「問題ありません。全てコントロール範囲内です」
車のナビには、金子の車と俺たちの車の位置が表示されているが、その距離がどんどん縮まっていく。
画面を見ていると、俺たちの車が金子の車を追い越したが、ここからだと、高速を降りる事が出来ない。そのため、次のインターで車を降りるが、国道に出るまでにまた追い越されてしまう。
「ミイ、赤色灯とサイレンを仕舞ってくれ。相手に感づかれるかもしれないから」
高速から降りると赤色灯が停止し、車内に仕舞われる。
俺たちは国道に設置してある監視カメラからの画像を解析して、それからカーナビの上に金子の位置を表示していくが、俺たちと金子の車の間の距離は縮まらない。
「山梨県警が検問設置完了したとの連絡がありました」
森田刑事のスマホに連絡が入ったようだ。
「よし、ならこっちも全力で行くぞ。赤色灯点灯、サイレンを鳴らして追うぞ」
有村刑事の言葉でミイが再び、赤色灯を出し、サイレンを鳴らす。
その瞬間、前を走っていた車が道を開けていく。交差点の信号は全て青に変わり、時速80km/hで通過していくと、金子との車の距離がどんどん近づいて行くのが分かる。
そして、その前に山梨県警のバリケードが見えて来た。既にバリケードは閉じられていて、その前に通行止めされているトラックもいる。
すると金子の車はUターンして、今度は俺たちの方に向かって来た。
「まずい、逃げるぞ」
その瞬間、ミイが車を停めた。すると、ミイは車から飛び出し、金子の車の前に躍り出た。
「プー」
金子が警笛を鳴らしてきた。しかし、ミイは退かない。
「危ない!」
金子の軽自動車とミイがぶつかったと思ったが、ミイは両手で金子の車を停めている。
ミイが手をボンネットの中に入れると、車のエンジンが止まった。
それを見た、有村刑事と森田刑事が車から飛び出し、金子の車に向かっている。
俺と、彩芽も同じように金子の車に向かう。助手席からは藤井らしき男が出て来て、逃げだした。
しかし、ミイが手を伸ばして、藤井を掴むと「パシッ」と音がした。恐らく、電撃したのだろう。
藤井がその場に倒れ込む。そこに有村刑事と森田刑事が追いつき、藤井の手に手錠をかけている。
運転していた金子綺羅には、彩芽が行っている。
俺たちの方に、山梨県警の警官も駆け寄って来た。その時にはミイが、藤井の意識を取り戻させている。
二人は山梨県警の警官に連れられて、移送車の方に連れて行かれた。
「さてと、後は山梨県警と本部の方に任せるか。俺たちは帰ろう」
山梨県警と話をしていた有村刑事が帰ってきて言う。
「ご主人さま、帰りの分の電気がありません。どこかで充電しないと」
「なら、この近くの署で充電させて貰おうか。有村刑事、森田刑事、良いですか?」
「しかし、我々はまだ帰る電車があるから帰るぞ。本部に報告しないといけないからな」
「では、我々は充電が済んでから車で帰ります」
有村刑事、森田刑事とはここで別れる事になった。
有村刑事から山梨県警に頼んで、車は最寄りの署で充電させて貰う。
「ミイ、充電はどれくらいかかる?」
「車と私を合わせると6時間くらいです」
今の時間は9時半だ。そこから6時間というと夜中の3時半になってしまう。
「彩芽、どうしよう?」
「仕方ないですから、どこかに宿を取りましょう」
「そうだな、仕方ないか」
早速、スマホで宿を探してみるが、ビジネスホテルは満室だ。仕方ないので、ちょっと高いが山梨市内のシティホテルに宿泊することにする。
近くのファミレスで遅い夕食を終えた俺たちは自分たちの車でホテルに向かう。ホテルに確認したら、充電は可能だというので、ホテルで充電することにした。
ホテルに到着すると車を充電器に接続して、ホテルのフロントに行く。そこで部屋のキーを受け取り部屋に行くと、かなり豪華な部屋だ。
「凄い部屋だな」
「何でも安い部屋が空いていなかったということで、安い値段でいいからと言ってわ」
受付をした彩芽が教えてくれた。
これって、エコノミー席だったけど、ビジネス席に格上げしてくれたってやつと同じか。
時計を見ると、既に11時になろうとしている。
「福山所長に連絡は?」
「うん、ちゃんと取れているわ。明日はゆっくり帰って来ると良いって」
「では、風呂にでも入って寝るか。ミイは充電しているか?」
「私も今日は電気を使い過ぎました。私も充電に時間がかかると思います」
ミイはそう言うと、椅子に腰かけて充電に入った。
「彩芽、一緒に入ろうか。家の風呂は狭くて一緒に入れないから、こんな時にでもどうだろう?」
「えっ、ど、どうしよう」
「いいじゃないか、夫婦だし」
「そ、そうね。夫婦だもんね」
服をバスローブに着替えて、二人で風呂に行く。浴室で、彩芽のバスロープを脱がすと、彩芽が胸を隠した。
「彩芽、手をどけて」
「恥ずかしいもの」
俺は彩芽の手を取り、その手を胸の位置から外すと2つの双丘が露になった。
俺は彩芽を抱きかかえるようにして、風呂に入った。
「うーん」
翌朝、目を覚ますが、外はまだ薄っすらと明るくなった程度だ。
彩芽の方を見ると彩芽は既に目を覚ましていて、こっちを見ている。
「起きていたのか」
「うん、圭くんの寝顔を見ていた」
「まだ、早いだろう」
「うん」
彩芽はそう言うと、俺の腕に抱きついてくる。それは俺の腕に彩芽の胸が当たる事になる。
俺は身体を移動して、彩芽にキスをすると、彩芽が俺の首に手を回してくる。
「あん、またぁ」
それに答えずに俺は、彩芽の身体を求めた。
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