第20話 捜査は現場から

 俺たちは、有村刑事、森田刑事に続いて会議室を出た。今日はこの二人に同行して捜査の手伝いをすることになる。

「やっぱり、一番最初は現場からですか?」

 刑事ドラマなんかでは、そういう言葉をよく聞く。俺はドラマの事例を参考に二人に聞いてみた。

「ははは、それはTVの見過ぎだ。今頃、現場に行っても既に規制も解除されて、今は車がバンバン走っているから、現場検証なんて出来ないぞ」

 ベテランの有村刑事から思いっきり、笑われてしまう。

「いえ、監視カメラがあればその映像を追う事が出来ますから、行ってみたいです」

 以外にも言葉を発したのはミイだ。

「嬢ちゃん、それはどういう事だ?」

「ミイは、特殊な能力があるので、監視カメラの映像を入手することが出来ます。ミイが言うからには行ってみる価値はあると思います」

「そうかい。なら行ってみようか」

 俺たち5人は轢き逃げ事件のあった場所に来た。

 周辺は個人の住宅が多く、監視カメラがあるとは思えない。

「会議室で見た監視カメラの映像はどこに設置されたカメラなんでしょうか?」

「ああ、この先だな」

 有村刑事、森田刑事について歩いて行くと、信号機の上に設置されたカメラがあった。

「あれは交通状況を監視するためのカメラなんだが、こういった場合には監視カメラとしても役に立つ」

 しかし、ここからは直接、人と車がぶつかった場所は撮影出来ない。

「人と車が直接ぶつかったのは確認出来ませんね」

「ああ、その通りだ。事故が起こった時間から、この付近を通った車を割り出したやつだな」

「ここにカメラがあるという事は、車は向こうから来たという事ですね」

 この方向だと、車は東から来て、西に走り去った事になる。

「あの監視カメラの画像をもう一度スキャンします。画像を手元のタブレットに出します」

 ミイが監視カメラの映像をスキャンし出したのだろう、手に持っているタブレットに映像が次々と映し出されていく。

 すると、ある1枚の画像のところで映像が止まった。そこには、会議室で見た黒いミニバンが映っている。

「これが、カメラに映ったアルファードの画像です。その1台前を出します」

 そこには反対側から走って来る車が映っている。

「この車はニッサンリーフです」

「何、ということは、最初はこのリーフに轢かれて、その後にアルファードに轢かれたということか?最初に轢かれた時に、反対車線に飛ばされたと?」

「そう判断します」

「と、すると、2台探さないといけないと言う事か?」

「そう判断します」

「だとすると、まずはどっちから探すか?」

「リーフから探しましょう。リーフの方が年式が新しい分、情報が入手し易いです」

 有村刑事の質問に、ミイが的確に答えていく。

 もしかしたら、この二人は良いコンビになるんじゃないだろうか?

「そうかい、嬢ちゃんの言う通りにしてみよう。だとすると、リーフは西から走ってきて、東に走り去ったという事だな」

「それでは、このあたりの家にある監視カメラの映像をスキャンします。映像はタブレットに出します」

 どこかの家にある監視カメラだろうか。駐車場の画像が映る。その先には道路があり、そこを走る車が映っている。

「これです」

 ミイが言ったところで画像が停止した。そこには、走り去る車の後ろ姿が映っている。

「照明もないし、これだけだと何という車か分かりませんね」

 森田刑事が言うが、確かにこの画像では何という車かは分からない。

「では、明るくします」

 ミイが言うと、車の画像が明るくなり、車が判別出来るようになったが、それは後ろ姿だ。

「確かに、これはリーフだな。でも、後ろ姿からだとナンバーも分からないな」

 ミイが画像を色々と加工しているが、ナンバー自体が映っていないため、車両は特定出来ない。

「取り敢えず、この画像を全員のタブレットに転送してくれ」

 ミイが指示の通り転送作業をすると、俺のタブレットにも画像が送られてきた。その下にはメールがある。

『轢き逃げ車両と思われるリーフ』とある。

「今から、走り去ったと思われる車の痕跡を追います」

「ミイ、どうやって追うんだ?」

「このまま、この道を行けば同じように監視カメラがあるでしょうから、この画像を一つずつチェックしていきます」

「ちょっと、待ってくれ。各個人の家にある監視カメラをどうやってチェック出来るんだ?」

 有村刑事が聞いてきた。

「ミイは荷電粒子結合体というアバターです。なので、全てのネットに繋がっている装置の情報を引き出す事が可能です」

「何だって、つまり人間ではないということか?」

「まあ、そうですね」

 森田刑事は知っていただろうけど、有村刑事には何も言っていなかったようだ。その言葉を聞いて、有村刑事が黙った。

「でも、私はご主人さまの恋人です」

「するってと、こっちの星野の嬢ちゃんは、恋人じゃないのかい?」

「違います!」

 ミイが、すかさず答える。

「わ、私だって否定するわ。だって、歳が一回りも違うのよ」

「えっ、そうなのか、だとすると星野の嬢ちゃんは35歳ぐらいって事か?」

「べ、別にいいじゃないですか!」

「まあ、別にいいが、親としては早く孫の顔を見たいと言うだろう」

「だ、だから、いいじゃない」

 星野女史が全力で否定するが、まあ、そこはスルーで良いんじゃないの。有村刑事も分かっていて、言ってるんだし。

 星野女史を揶揄った有村刑事は車が逃げた方に歩き出す。それに従って、俺たちも歩き出した。

 歩きながらミイが監視カメラを探している。

「カメラがありました。今から撮影された画像があるかスキャンします」

 ミイが黙った。今、ハードディスクに保存されたカメラの画像をスキャンしているのだろう。

「ありました。画像をタブレットに転送します」

 タブレットを見ると画像が出てきた。見るとそこにはフロント部分が壊れた車が映っている。

 フロントが壊れているので、ナンバーが分からない。この角度だと後ろのナンバーも見れない。

「ミイ、この車をNシステムとかでサーチ出来ないか?」

「今、サーチします」

 再びミイが黙る。

「Nシステムには同じような車はありません」

「と、いうことはその車はこの近くの車と言う事だろう」

 有村刑事が言う。

「だとしたら、この辺りで探しますか?」

 有村刑事の言葉に答えたのは森田刑事だ。

「よし、そうしよう。そうとなると二手に分かれて、この周辺を回ってみよう。それと聞き込みだ。リーフのフロント部分が壊れた車を探すんだ」

 有村刑事の指示で、有村刑事班と星野班に分かれた。俺とミイは星野班だ。集合場所を決めて1時間後に結果を持ち寄ることになった。

「圭くん行こうか」

 星野女史と一緒に裏通りの方に行くが、誰も歩いていない。住宅がある家のガレージを見て回るがリーフはない。

 それでも、充電スタンドがある家が多いのは、電気自動車を使っているということだろう。

 たまに、まだガソリン車がある家もあるが、その車にはシルバーマークがついている。

 こういう古い車を使っているということは、お年寄りが運転しているという事だ。

 俺たちは続いて、一軒一軒見て回るが、同じ車はない。

「無いですね」

「ご主人さま、この辺りの家にカメラのある家がありますので、サーチしてみます」

「ミイ、頼む」

 ミイが黙っている。

「同じ車が、この先に走っていった画像があります」

 ミイはそう言うと、俺が持っているタブレットに画像を送ってきた。しかし、その画像は暗い。

「今、画像を明るくします」

 すると、画像が明るくなり、フロント部が壊れた車がこの家の前を通り過ぎるのが映っている。

「この先の方に行ってみましょう」

 俺たちは更に住宅地の奥の方に向かうが、探している車はない。

「ミイ、この辺りにカメラは無いか?そのカメラをサーチ出来ないかな?」

「ネットワークに繋がっているカメラはありません」

「すると、地道に足で回るか。星野さん大丈夫ですか?」

 ヒールを履いている星野女史に聞いてみる。

「うん、ちょっと疲れたけど、大丈夫よ。それより、私の心配してくれているの。ありがとう」

「愛情1ポイントダウン」

 ミイの愛情ポイントがダウンした。

「これも、みんなミイのおかげだ。ミイ、ありがとう」

「愛情3ポイントアップ」

 今度は愛情ボイントが上がった。いつも思うのだが、この愛情ポイントって何のためにあるんだ。このアルゴリズムを作ったやつは一体どういう頭をしているのだろう。

 住宅地を回っているが、やはり目的とする車はない。

「無いですね」

「そうね、この辺りしか無いと思うんだけど」

「もしかして、ガレージに入っているとか無いですかね」

「そっか、それは考えなかったわ。だったら、今度はガレージのある家を重点的に見ましょうか」

 星野女史はそう言いタブレットを出すと、地図画面を出した。そして、そこに表示されている個人の家をチェックしていく。

「一応、ガレージのある家はこうしてチェックしておいて、後から検索すれば車種は分かるわ」

「いえ、今、分かりますよ」

 ミイがそう言うと黙った。これは何か検索している感じだ。

「この宮田という家と、この先にある尾藤という家がニッサンリーフを所有しているようです」

 ミイが検索した結果の家に行ってみると、どちらもガレージがあった。

「星野さん、どうしますか?車を見せてくれと言ってみますか?」

「そうね、行ってみましょうか。その前に有村刑事と森田刑事を呼びましょう」

 星野女史は森田刑事に電話をしている。

「二人とも、こちらに来てくれるみたい。それを待って聞きに行きましょう」

 10分程だろうか、二人が来たので、まずは宮田という家に訪れてみる。

 インターホンを押すが、誰も出て来ない。

「不在のようです」

 インターホンを押していた、森田刑事が言う。

 確かに、外から見ても誰も居ないようだ。

「もう一軒の方に行ってみようか」

 有村刑事に従い、もう一軒の尾藤という家に向かう。

「ピンポーン」

 同じように森田刑事がインターホンを押すと、しばらくして中から返事があった。

「警察です。ちょっと事情をお聞きしたいのでが、よろしいでしょうか?」

 森田刑事はインターホンに取り付けてあるカメラのところに警察の身分証を提示している。

 すると、玄関が開いて、お婆さんが顔を出した。

「尾藤さんですね、私は山川署の森田と言います。実はガレージの中にある、お車を見せて頂きたいのです」

 森田刑事が身分証を見せながら用件を説明する。

「はい、どうぞ、こちらです」

 お婆さんに案内されて、ガレージの方に向かう。そこにあったのは確かに、ニッサンリーフだが、違っていたのはフロント部は壊れていなかった事だ。

「壊れていませんね」

 俺が言う。

「ご主人さま、この車の電源を入れて貰えませんか?」

 その言葉を聞いた森田刑事がお婆さんから車のキーを借りた。

 森田刑事はリーフの電源スイッチを入れてみると、車がスタンバイモードになる。

 すると、ミイが黙った。恐らく車とコネクトしているのだろう。

「この車は、轢き逃げのあった時間、走行していません」

「えっ、どうしてそんな事が分かるんだ?」

 ミイの言葉に有村刑事が返した。

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