第16話 料理対決

「ミイ、お疲れさま。どうやって気絶させたんだ?」

「はい、電撃を使いました。星野警視で散々試したので、気絶させる程度は分かっていましたので、簡単でした」

「星野さんも役に立ったという事だな」

「はい、そうです」

「ちょっと、待った。私で散々試したってどういう事よ。もしかしたら、私は感電死していたという事?」

「万が一です」

 ミイが、すました顔で言う。

「万が一も無いでしょ。私を何だと思っているの?」

 星野女史が興奮してきた。

「星野さん、ミイの冗談ですよ。あまり、本気にしないで下さい」

「いえ、電撃されて気絶して、冗談はないでしょう」

「ミイも、もうあんな事はしませんから。なあ、ミイ」

「ご主人さまに色目を使うとまたします」

「誰が色目を使ったって、この泥棒猫」

「ヒステリー指数80%」

「キッー、何がヒステリー指数よ、この壊れかけのスピーカーのくせに」

「フン」

「フン」

「その勝負は、今夜行う料理対決で決めれば良いだろう」

「そうね、高々壊れかけのスピーカーには負けないわ」

「ヒステリー女には負けません」

「面白そうですね。私も行って良いですか?」

 見ると山本巡査部長だ。

「へっ、まあ、いいけど」

「それで種目は何でやるんですか?」

「種目かぁ、そうだな勝手に作ると使う食材にもよって味が違って来るので、種目は決めた方が良いな」

「それなら、作るのが簡単な炒飯でどうでしょう。家にある食材と調味料を使う訳ですから、料理の腕以外ではそれ程違わないと思います」

「うーむ、そうだな。今夜の料理対決は炒飯としようか」

 情報鑑識センターのオペレーション室に戻り、2件ほど照合したら夕方となって来たので、仕事先を後にして官舎に戻った。


 俺とミイ、そして星野女史が部屋に入るが、今回は山本巡査部長も来ている。

「さて、それじゃあ、炒飯勝負よ」

 星野女史が、宣言した事によって炒飯勝負が始まった。

 俺はする事が無いので、先に風呂に入る。そして、風呂から出てきたら、テーブルの上に炒飯を盛った3つの皿が並んでいる。

「あれ、どうして皿が3つあるんだ?」

「私とミイちゃんと山本ちゃんの分」

 星野女史が説明してくれる。

「3人が作ったのか」

 3つの炒飯を3つの取り皿に取って、食べてみる。

 まずはミイの作った炒飯だが、これは美味いと言っても良いだろう。

 次に星野女史の炒飯だ。これも香ばしくて中々美味しい。これは甲乙付け難い。

「どうですか、ご主人さま」

「圭くん、どう」

 ミイと星野女史が聞いて来る。

 俺はそれに答えずに最後の炒飯を食べてみる。すると、それは前の2つの炒飯とは比べようもなく美味い。

「これは美味い」

「「えっ!」」

 星野女史が山本巡査部長が作った炒飯を食べてみる。

「こ、これは…」

 ミイは山本巡査部長の炒飯を見つめているが、恐らく成分分析をしているのだろう。

「勝負あった。炒飯勝負の結果、山本巡査部長の炒飯が一番美味い」

「愛情1ポイントダウン」

 ミイは敗北を認めたようだ。

 一方、星野女史も自分の舌で確かめた事で、山本巡査部長の料理を認めている。

「山本さん、料理がお上手ですね」

「でも、彼氏はいないんです。誰か良い人はいませんか?」

「ご主人さまは、だめです」

 ミイが、すかさず答える。

「それは星野先輩に怒られるから、止めておきます」

「えっ、な、何を言っているの。私と圭くんは一回りも年が離れているのよ」

「愛があれば年の差なんて」

「あ、愛なんて無いわよ」

「本当ですか?今回の同居も最初は男性刑事の予定だったのが、先輩が名乗り出たという話ですし」

「そ、それは男の人だと、若い学生の面倒を見るのは無理があるでしょう。ほら、食事だって、洗濯だって、掃除も汚くなる可能性もあるし」

 星野女史が精一杯という感じで抵抗する。

「それなら、私が同居でも良かったんじゃないですか。料理も私の方が上手みたいだし」

「り、料理だけじゃなくて、洗濯や掃除とかもあるし…」

「私は、お茶にお花、それに着付けも大丈夫ですが…」

「わ、私なんか、救命講習受講済なんだから」

「それって、全員受講が義務付けられている必須講習ですよね」

「AEDだって使えるわ」

「だから、それは講習が義務付けられているもので…」

 もう、どっちが先輩なのか分からない。

「山本さん、取り敢えず今日はお帰り下さい。明日は、また情報鑑識センターの方で、という事で良いでしょうか?」

「はいはい、それで良いわ。圭くん、星野先輩に優しくしてあげてね」

「よ、余計な、お世話よ!」

「山本さん、今日はありがとうございました」

 俺は山本巡査部長を送り出した。

 その後は、ミイはコンセントに手を突っ込んで充電し、俺はベッドに入ったが、山本巡査部長の言葉が気になって、中々寝付けなかった。

 自分は、もしかして星野女史の事を気に掛けているのだろうか?


 翌日は日曜日だが、情報鑑識センターの仕事がある。

 俺は星野女史、それにミイと一緒に官舎を出て、山川署の方に歩いて向かう。

 この官舎からだと、山川署も歩いて行ける距離なので助かる。

 山川署の地下にある情報鑑識センターの部屋に入ると既に山本巡査部長が来ていた。

「おはようございます。山本さん、早いですね」

「ううん、私も今、来たところ」

「おはよう」

 こっちは星野女史だ。

「おはようございます。星野先輩」

 この2人、どうみても山本巡査部長の方が先輩に見える。

「では、今日のタスクを出して頂戴」

 星野女史が山本巡査部長に指示を出すと、モニターに未解決事件の犯人と思われる顔写真が表示される。

「えーと、どれから行こうかしら」

 星野女史が最初の事件を決めるようだ。

「全ての顔写真の照合を完了しました。色別に分けて地図上に表示します」

 ミイがそう言うと、モニター上に地図が表示され、そこに小さな顔写真が表示されている。

「オペレーター、この地図を各所轄に伝送して、犯人探査を行うように指示」

 ミイが検索した犯人の現在地の情報が日本各地の警察署に伝送され、犯人を追い込んでいく。

 ミイは昔の事件については、現在の顔写真に画像編集して相手先に送っているので、探す方も間違う事はない。

「それじゃあ、今度はこっちね。これは顔写真がなくて、似顔絵だけなの」

 同じモニターに似顔絵が出される。

「ミイ、今度は似顔絵なので、まったく同じ人物とは限らないから気を付けてくれよ」

「さっきのように同時にというのは難しいので、一人ずつサーチします」

 ミイがサーチに入ったようで、黙った。

「まず最初の似顔絵ですが、名前は『陳宇洋』中国人です。3年前に日本に来ています。現在の居場所は行方不明ですが、スマホの使用状況から更にサーチします」

 再びミイが黙る。

「スマホのサーチ結果が出ました。陳は現在新宿の近くに居ます。地図に出します」

 モニターに地図が表示され、そこには赤い点が表示される。その赤い点は今移動している。

「どこかに向かっているようだな」

 俺の言葉に他の二人も額く。

「この陳という中国人は何をしたんですか?」

「殺人ね。半年前に老人夫婦の家に押し入った事件があったでしょう。その時、家に居た夫婦が殺されたってやつ」

「それで良く、犯人の似顔絵がありましたね」

「その時、不審人物として、この陳という男がこの近くで目撃されていたの。でも、写真はなかなかなくて、不審人物として近所の人が覚えていた犯人の顔がそれだったの」

「ということは、記憶だけで書かれている?」

「そういう事になるわね」

「下手に探りを入れると、証拠が見つからずに誤認逮捕って事になってしまいますよ」

「そうね、証拠がないと逮捕令状も降りないし。取り敢えず所轄に連絡して、見張らせるしかないわね。殺人を犯すぐらいだから、叩けば埃も出るでしょうし」

 星野女史の言葉を聞いて山本巡査部長がオペレーターと言われる指示を出す人に連絡を入れている。

 情報鑑識センターは日本各地の警察署から、画像分析やインターネット詐欺などの探索依頼を受け、その結果を今度はオペレーターが日本各地の警察署に犯人の情報を提供する訳だ。

 もちろん、各警察署の警官はオペレーターの名前も知らないし、当然、俺たちの事も知らない。

「では、次の似顔絵を出して」

 星野女史の言葉に山本巡査部長が端末を捜査すると、モニターに次の似顔絵が表示された。

 今度は若い女性だ。

「『金愛姫』、中国人もしくは韓国か北朝鮮人」

「そこまで、分かっているのに捕まえられないんですか?」

「圭くんは分からないだろうけど、化粧一つで女性の顔ってどうにでもなるのよ。それに今は、フェイシャルパックも塗り込みタイプもあるから、顔のシミやソバカスなんかどうにでも隠せるわ」

 俺は、まじまじと星野女史の顔を見た、

「なる…、ほど」

「ちょっと待ってよ、何よその反応は?どういう意味よ」

「いえ、特に意味は無いですよ。しかし、思えば一緒に同居してしばらく経ちますが、星野さんの素顔って見た事がないなと…」

「そ、それは、圭くんがさっさと自分の部屋に行くからでしょう」

「ご主人さま、星野さんのスッピン顔をモニターに表示しますか?」

「ちょっと、ミイちゃん、何言ってるの。人間界では、やって良い事と悪い事があるのよ。それに、その写真て、いつ撮ったのよ」

「今朝、部屋でお化粧をする前にスマホを見ました。その時の顔をスマホの前面カメラで撮影してあります」

「あいやー、待たれよ。ちょっと、ミイちゃん、何か欲しい物はあるかな?今なら、何でも買ってあげるわよ」

 星野女史が物で釣りに来た。

「私は、ご主人さまの愛情ポイントがあれば十分でございます」

「ミイ、何て可愛いやつなんだ」

「愛情1ポイントアップ」

「星野先輩、あきらめたらどうです?」

「やーまーもーとー、あんたもスッピンを晒させてやろうか?」

「構いませんよ」

「山本巡査部長のサーチ完了。大学時代、ミスキャンパスになった事があります」

「へっ、何て?」

「だから、山本さんは美人だったんですね」

「いやだ、そんな恥ずかしい」

 そう言いつつも、反対に見て欲しいをアピールをしている。

 するとモニターにいきなり女性の顔がアップで映し出された。

「へっ」

「あっ」

「先輩」

 見ると、星野女史の寝起きの顔で、もちろんスッピンで眉もほとんどないし、髪もボサボサだ。

「こ、こら、ミイ。なんで出した」

「ここに居る全員の同意があったものと思われます」

「私は同意してないわよ」

「特に表示するなと言う発言は、ありませんでした」

「もう、さっさと消して」

 するとモニターから星野女史のスッピン顔が消えた。

「でも、画像データは保存してあるのだろう」

「はい、それ以外のものも保存してあります」

「ち、ちょっと、もういい加減にして」

「ミイ、星野さんが可哀想だから、データは消してやれ」

「ご主人さまのご命令であれば。データデリート」

「星野さん、貸し1つですからね」

「分かったわ、もう」

「へー、でもミイちゃんって凄いですね。今の時代スマホがないと何も出来ないから、ミイちゃんにかかれば、何でも分かってしまうという事なんですね」

 そんな話をすると今度はドレスを着た綺麗な女性がモニターに映し出された。

「あっ、これ、学生時代の私。ミス・キャンパスになった時の写真だ」

「へー、これが山本さんですか?確かに綺麗ですね」

「もう、圭くんったら、そんな本当の事を言わないで」

「待ってよ、どうして私と扱いが違うの?」

「写真をサーチしたら出てきたので」

「うっ、くやしー」

「星野さんも綺麗ですよ」

「そんな、取って付けたように言わなくてもいいわ」

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