第11話 ミイの探査能力
「該当するものが5件あります。新しいものから表示します」
ミイが指示したモニターに地図が表示され、そこに5つのピンが立った。そのうち、宮城県仙台市がクローズアップされていく。
見ると、青葉区のコンビニエンスストアの防犯カメラのようだ。
「この男です」
その男は、無人レジで現金で支払いをしている。購入したものはパンと缶コーヒーで330円だ。マイナンバーカードの電子マネー機能で支払うと本人確認のため、顔写真照合があるが、現金ではそのような照合はない。
なので悪事をしているヤツは、大体が現金払いだ。
それでも防犯カメラには顔が映るので、誰かは分かる。ミイの出した画像が地図の横に表示され、髪型は違っているが同じような顔が出ている。
「確かに、似ていますね。購入日は今日の朝か。至急、宮城県警に連絡して、この店の周辺パトロールを強化するんだ」
福山警視正が、いつの間にか来た部下の刑事に指示をしている。
それを受け、その刑事たちが端末を操作して、宮城県警に連絡を取る。
「次がこっちです」
ミイが操作すると同じように、地図と防犯カメラ画像が表示される。
地図は長野県上田市のスーパーの写真だ。日付は一昨日の夕方になっており、こちらも現金支払いのようだ。
顔写真の下に購入したレシートの品物が表示されるが、そのほとんどは食料品で合計金額は2323円とある。
「この金額を見るとこの辺りで生活していると考えた方が良いな。それに事件のあった沼田市に近い」
再び、部下の刑事たちが、長野県警に連絡を取っている。
「次を出します」
ミイが更に次を表示した。
同じように地図が表示され、そこは茨城県水戸市内のガソリンスタンドだ。車は軽自動車で同じく現金で支払っている。
今時、ガソリンで走る自動車というのも珍しいし、現金支払いというのも珍しい。大体、このような古い車に乗っている人は歳を取った人が多いのだが、この映像ではまだ若い人のようだ。
ガソリンを入れた時間は、一昨日の朝になっている。
「この車のナンバーから所有者とNIシステムでの移動範囲を特定」
このような場合、車の方が特定し易い。
「既に判明しています。所有者は、『小林 敦朗』78歳、車のナンバーはNIシステムから検出出来ません」
「つまり、行動範囲はそれほど広くないということか」
「画像から見ると、とても78歳のお爺さんがガソリンを入れているとは思えないので、恐らくお孫さんが入れていると考えても良いですかね。ガソリンを入れた後に仕事か家に戻ったと」
「うむ、そうだろう。一応、確認してくれ」
再び、部下の刑事が動き出す。
「では、次を出します」
ミイが続いてモニターに地図を表示する。今度は青森県八戸市のようだ。そこのホームセンターでの画像だ。
こちらも日用雑貨を1536円分購入し、レジで現金で支払っている。しかし、映し出された顔は21歳とは見えない。
「こちらの画像は、老けて見えますね」
「確かに、21歳には見えないですね」
星野女史も俺の意見に同意してくれる。
「そうだが、確認は必要だ。こちらも青森県警に連絡を取ってくれ」
福山警視正は、部下に指示をする。
「では、次出します。こちらは1週間前です」
同じようにモニターに映し出された地図は大阪府泉南郡だ。そこにあるショッピングセンターにある防犯カメラに映っている。この画像からは歩いているところだ。
背中にリュックを背負い、ポケットに手を突っ込んで歩いている。
「よし、大阪府警に連絡だ」
すると、同じように部下が動き出す。
それと入れ替えに先ほど出て行った刑事が入ってきた。
「茨城の人物は本人確認が取れました。塚田とは無関係のようです」
「よし、後4件の人物の特定を急げ」
再び、刑事が入って来た。
「青森も別人と確認出来ました。本人は42歳です」
「と、なると後3人か」
それからは情報が入って来ない。今は3人の行方を確認している状態だ。
俺たちは一旦、地下にある休憩室のような場所に来て、今はゆっくりとしている。
そこに星野女史がコーヒーカップを持ってきた。見ると、5人のカップがある。
「ちょっと、ミイちゃんの分が分からなかったから煎れて来たけど…」
荷電粒子結合体という言わば作り物であるミイは、人間と同じ飲み物を飲むかという事だろう。
俺も家でミイが食事をしているところを見た事はない。いつもコンセントに手を突っ込んで電気をエネルギーにしている。
「ミイ、星野さんがコーヒーを煎れてくれたようだけど、どうする?」
「申し訳ありません。コーヒーは飲めません。代わりにコンセントかHUBを貸して下さい」
「えーと、コンセントもHUBもあるけど…」
星野女史の視線の先にはHUBがあった。ミイは手をRJ45コネクタ型にするとそのHUBに手を入れた。
「ミイ、HUBでも良いのか?」
「今のHUBは全てPoEになっていますので、電源が取れます」
「まさか、情報も盗んでいるんじゃないだろうな?」
「監視をしているのです。サーチすると一般用のネットワークと警察用ネットワーク、それに最重要ネットワークの3種類の構成になっています」
「そんな事までも分かるのか」
「ネットワークのそれぞれは、ハードウェアファイヤーウォールを二重にしていますので、かなりのセキュリティは確保されていますが、内部犯行によって、セキュリティホールが開けられるとどうにもなりません」
「うむ、その通りだ。だが、完璧なセキュリティがないのも理解出来るだろう」
「ハード的には完璧に近いですが、後は内部犯行が発生しないかです」
「そこは、もうチェックしかない。ここに採用される人物は、警察の中でも特に問題が無い人物だけだ。もちろん、身辺調査で家庭内に問題がないこと、借金の有無などは調査済だ」
「あっ、先ほどの犯人の結果が出るようです。大阪の人物以外は確認が取れました」
「何!」
すると、ドアをノックする音がする。
「コンコンコン」
「入れ」
中に入って来たのはスーツを着た刑事だ。
「先ほどの犯人に関する件ですが…」
「確認が取れないのは、大阪のやつだそうだな」
「えっ、ええ、その通りですが、どうしてそれを?」
「まあ、最新技術を使えばこんなもんだ」
「は、はあ?」
スーツを着た刑事は、納得がいかないという顔をして部屋を出ていった。
「星野くん」
「はい、既に大阪府警には連絡済です。泉南方面の署にパトロールの強化を指示しました」
「既に大阪には居ません」
星野女史の言葉に答えたのはミイだ。
「現在、大阪府南部の防犯カメラ画像をチェックしましたが、犯人はそこから北上した模様です。現在の位置は京都市桂川駅です」
桂川という名前を聞いて全員が俺の方を見る。
「いや、俺は関係ないでしょう」
「今、桂川駅前のショッピングセンターの防犯カメラに反応があります」
「至急、京都府警に連絡だ。桂川駅前のショッピングセンターに向かわせろ。それに何か武器をもっているかもしれん。一般人に危害が出ないように配慮せよと伝えよ」
星野女史が、その指示を受けて直ちに電話連絡している。
指示を出してから1時間後、犯人の身柄を確保したとの連絡が入った。
それを聞いて福山警視正も星野女史も嬉しそうだ。
「協力を感謝するよ」
「いえ、これはビジネスですから、費用を貰えれば特に礼を言われる事はないです」
「ドライだな。まあ、今時の若者はそんなものか」
「そうですね」
星野女史も福山警視正に同意する。
「星野さんは、最近の若者じゃないって事ですね」
「あっ、いや、ちょっと待ってよ。勝手に人をおばさん扱いしないでよね」
「ははは、冗談ですよ。星野さんは若いですよ」
「ああ、やっぱり、桂川くんって見る目があるわ」
それを聞いて福山警視正もあきれた顔をしているが、ここはスルーした方が良いだろう。
「それでは、銀行口座を教えてくれ。今回の依頼費用として10万円を振り込んでおく。それと領収書にハンコを貰えないか?」
「えっ、ハンコですか?この時代に?」
「まあ、そういうところは、昔ながらの政府機関という事だ」
俺は銀行の口座を教えると、情報鑑識センターを出て山川署の5階にある部屋に行くが、ハンコを持っていなかったので、後からハンコを押した領収書を持って来る事にした。
ここも情報鑑識センターの部屋だが、ここにはパソコン等は一切なく、普通の事務机が並んでいるだけだ。
そこには、事務員のような人が5人仕事をしている。
「ここは、何をする所なんですか?」
「情報鑑識センターと他の部署との連絡を取る所だが、それ以外の事務的な事もここでやっている。それで、君とミイくんのIDカードを作るから手伝ってくれないか」
俺はそこで写真を撮り、静脈認識と網膜認識のためのデータを取られた。
それはミイも同じだが、ミイは静脈認識と網膜認識のデータは取れなかった。そこはやはり荷電粒子結合体というもので人間でないからだろう。
「あと、緊急時の呼び出し時に使える車両も用意しよう。桂川くん、免許は?」
「ええ、一応持っています。普通自動車でAT限定ですが」
「ああ、それだけあれば問題ない」
「ところで、いつも思うんですが、このAT限定ってどういう意味ですか?これが限定でなくなるとどういうメリットがあるんですか?」
「昔はマニュアルミッションという車があって、それが運転出来るんだ。今でも昔の車を持っている人とか、後はレースをやる特別な人だけが使う車だな」
「へー、そうなんですね」
「では、地下に止めてあるので、星野くん一緒に行って引き渡してくれ」
俺は星野女史と一緒に山川署の地下にある駐車場に来た。そこには警察車両が止まっており、星野女史はその1台の前で止まった。
「これがそうよ」
星野女史が指さした先には、白い電気自動車が停まっている。
「トヨタのERスポーツよ。最新電子テクロジーで車内にある緊急ボタンで緊急自動車になるわ。もちろん、信号も通過に合わせて全て青に変わるようにコネクティッドに対応している」
「これを使っても良いんですか?」
「もちろん、中からも情報鑑識センターのシステムにアクセス出来る機能はあるわ」
これは凄い。TVのヒーローになった気分だ。
「ご主人さま、お話があります」
興奮している俺にミイが言う。
「何だ?何か問題でもあるのか?あっ、そう言えば駐車場が無いか」
「いえ、そうではなくて、この車は不要です」
「えっ、何だって?こんな車を警察から提供されるんだぞ」
「こんなボロ車が無くても、私がご主人さまの車になります」
「何を言っているんだ。ミイが車になる。そんな馬鹿な」
俺がそう言うとミイが姿を変えて、隣の車と同じ形になった。
「え、ええっー!」
「ご主人さま、お乗り下さい」
車がそう言うと、運転席側のドアが開いた。俺は言われたままに車内に乗り込むと、今度は自動的にドアが閉まる。
スタートボタンを押している訳ではないのに、自動的に車がスタート状態になり、インパネに灯りが灯った。
「行先はアパートで良いでしょうか?」
「それはいいけど、緊急時のコネクティドとか信号の切り替えとか出来るのか?」
「問題ありません。先程それらのプログラミングもコピーしました」
「それは分かったが、ミイが変身する姿を知られたくない。ここは、警察のお言葉に甘えよう」
その言葉で、ミイが元の姿に戻った。
「ミイって、もしかして飛行機とかにもなれるのか?」
「電気で動くものならなれます。なので、プロペラ機にはなれますが、ジェット機にはなれません」
「それは船とかにもなれるということか?」
「はい、船と潜水艦になれます」
ミイはいろんな姿に変えることが出来るだけでなく、その機能も合わせて持つ事が出来るらしい。
「それと駐車場として、アパートの駐車場を借りてあるから。2番駐車場がそうよ。そこに停められるようになっているから」
「はい、ありがとうございます」
俺はERスポーツの運転席に座ると、助手席にミイが座る。ところが、後部座席には星野女史が座った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます