第10話 警察からの要請
今日も、いつも通りにアパートを出る。当然、ミイはスマホの形に姿を変えて、俺のポケットに納まっている。
そして、大学が終わり、学校を後にした俺たちは指定された山川警察署に向かう。
山川警察署と言っても警察署の前にバス停があるので、そんなに歩く訳ではない。
警察署の正面玄関に入ると、いつも通りの案内ロボットがあった。
「捜査5課の森田刑事か情報鑑識センターの星野さんをお願いします」
案内ロボットに向かって話す。
「承っております。5階応接室にお越し下さい。エレベータをお呼びしています」
すると、案内ロボットの後ろのエレベータホールにある、エレベータの1つの扉が開いた。
俺たちは指定されたエレベータに乗ると、そのエレベータは自動的に5階のランプが点き、上昇し始める。
5階に到着するとエレベータの扉が開くと、そこには立派な廊下があった。
その廊下に掲示してある応接室というプレートの方向に向かうと、丁度、星野女史が別の階段から降りて来たところだった。
「あら、丁度良かったわ。ここで話をしましょう。もう直ぐ、情報鑑識センター長と署長も来るから」
応接室に通された俺たちは、指示された椅子に座る。
「今、お茶を持って来るわね」
「ミイは、電気の方が良いと思います」
「えっ、充電するの?」
「ええ、コンセントを貸して貰えますか?」
「じゃあ、そこのコンセントを使って」
見ると後ろの壁にコンセントがある。
ミイは右手をコンセントプラグの形に変化させると、そのコンセントに突っ込んだ。
「へー、この前見た時は女の子のままだったから、荷電粒子結合体と言われても信じられなかったけど、こうやって見るとそうなんだって分かるわ」
そんな話をしている所に、森田刑事が3人の男性を連れて入った来た。一人は交通事故の現場で見た年配の刑事で、後の二人は初めて見る顔だ。
俺とミイは席を立って挨拶をするが、ミイはコンセントに手を突っ込んだままだ。
ミイはコンセントに手を突っ込んでいるので、今は右手だけ異様に伸びている。
「初めまして、桂川圭一郎とミイです」
俺が頭を下げると、ミイも頭を下げた。
「態々、呼び出して悪かった。まあ、掛けて話そうじゃないか」
頭がバーコードの、いかにも偉いといった感じのおじさんが言う。
「えーと、まずは名乗ろうか。私が署長の『宮田』だ。そして、こっちが情報鑑識センター長の『福山』所長、階級は警視正。そして、捜査5課の…」
「有村修二郎刑事」
所長の宮田に続いてミイが言う。
「そうか、前に会っているんだったな」
「それで、お話というのは、捜査に協力しろという事で良いのでしょうか?」
「ああ、そうだ。今回は、その依頼と報酬と待遇について話をするために来て貰った」
今度は福山所長が言う。
「その前に、そのミイくんとかの能力がどれくらいなのか知りたいが、何か証明出来るかな」
「ミイ、何か証明出来るか?」
「それでは検索します。まずは、宮田署長の方から、名前は宮田輝、階級は警視、褒賞3回、残りの髪の毛の数98本」
「えっ、98本…」
「お疑いなら数えてみましょうか?」
「あっ、いや、いい」
「それでは、こちらの福山智樹所長ですが、同じく階級は警視正、大学は大国大学法学部卒で弁護士資格をお持ちです。独身で一人暮らしです。好きな食べ物はプリン」
「えっ、いや、そんな事も分かるのか?」
「ちなみに毎日、寄ったコンビニも分かりますし、昨日、買った物も分かりますが、言った方が良いでしょうか?」
「いや、そこまで言わなくても良い。しかし、どうやってそれが分かるんだ」
「簡単です。スマホの位置情報からと、昨日支払った電子マネーの履歴、そこから判別した店のレジ情報から昨日購入した物を検索しています」
「凄いな…」
それを聞いた福山警視正は、それしか言えない。
「反対に、現代では、そういった販売のデータが販促に使われているということです」
「昔から客の購入データは、販促に使われていたから、そう目新しいものじゃないが、それらを組み合わせて使い、AI分析するとほぼ生活が丸裸になるということか」
宮田署長が呟くように言う。
「話に聞いているのはネット犯罪の摘発と防犯カメラの映像解析という事ですが…」
「もちろん、それも行って貰うが、実はもう一つお願いしたい事がある。それはテロの未然防止だ」
「テロですか?」
「そうだ、日本は少子高齢化となって、若い働き手は少ない。そこで困った政府は外国からの労働者を入れて来たが、それらの人間が全てまっとうな人間でもないし、その中にはテロリストも居る。
問題はテロリストとして入って来る外国人が問題なんだ」
「そんなに問題なんですか?」
「海外では今ではあちこちでテロが起こっている。それは宗教上の問題であったり、人種差別であったり、様々だ。日本は今では純粋な日本人と外国労働者では賃金とかに開きがあって正直、外国人労働者は二級市民といっても良い立場にあり、彼らの不満が溜まっている。
そこに、テロを仕掛けるやつらが入り込むという訳だ」
「でも、不満ならテロを仕掛けても仕方ないと思いますが?」
「世界の中には権利は力で勝ち取ったという民族も多い。彼らはテロの意識がなくても、日本人の我々からすれば、十分テロに当たるんだ」
「それと、もう一つ…」
今度は、福山警視正が言う。
「何でしょうか?」
「今の日本政府や企業はインターネットを介しての技術情報の流出が著しい。それは海外の政府や企業から攻撃を仕掛けて来るからなんだが、そっちはネット上の事なので、取り締まる法律もないし、対策も限界というのがある」
「つまり、そっちもどうにかしてくれと?」
「そうだ、成功した際の報酬は企業からも出るということだ」
「ミイ、どうする?」
ミイにも聞いてみる。
「私は、ご主人さまの御心のままに」
このAI、一体いつの時代のものだ。今時、「御心のままに」なんて言うか?
「分かりました、お受け致します」
「おお、そうか。それはありがたい」
「しかし、一つだけ疑問があります。この山川署って普通の警察署でしょう。それなのに、そんなネット上の犯罪を取り締まることが出来るんですか?」
「情報鑑識センターというのは本庁直轄の部署であって、山川署の一部ではないんだ。こういう部署が本庁にあると、そこが攻撃対象となるから、この山川署の地下に部署を持って来ているんだ。
前に見た上の階の部分は一部の一部に過ぎない」
福山警視正が説明してくれる。
「えっ、そうなんですか?」
「ご主人さま、ここの地下にはかなりの計算機群があるのを確認しています」
ミイが探査したのだろう。ここの地下に巨大な計算機群がるようだ。
「つまり、上の山川署は普通の警察署としてイミテーションとしている、という訳ですね」
「その通りだ。どうやら、そのミイくんには既にバレているようだから、今から案内しよう。このままでは、騙したと言われかねないし、協力して貰うのであれば当然の事だから。
ただし、ここに入るということは、臨時の警官ということになり、守秘義務が発生する。もし、これを破るとなると刑務所に入ってもらう事になるが良いか?」
「分かりました。俺も一度、協力すると決めましたから、そこのところについては覚悟しています」
「では、ついて来たまえ」
「それでは、私はここで失礼するよ」
宮田署長は、ここまでのようだ。
俺たちは、福山警視正に連れられて、山川署のエレベータホールに向かう。そのエレベータホールの奥の2台の所に来ると、福山警視がIDカードを出して読み取り位置に翳す。すると、操作位置にあるディスプレイに地下ボタンが出た。
福山警視は、地下5階のボタンを押す。しばらくすると、扉が開いたので全員でそこに乗り込むと、エレベータが地下に向かって下がり始めた。
地下5階に着いたのだろう、エレベータの扉が開いた。扉を出ると、そこには重厚な扉がある。
「これを渡しておこう」
福山警視正から渡されたのは福山警視正が持っているのと同じIDカードだ。そのカードには「げすと」と平仮名で書かれている。英語でもカタカナでもなく、何故、平仮名なんだろう。
「それでは、一人ずつ、IDカードを当ててくれ」
福山警視正がIDカードを当てると、「ピッ」と音がする。恐らく認証したのだろう。
福山警視正の次に俺がIDカードを当て、次にミイが同じようにカードを当てる。最後に星野女史が当てると、扉のロック状態を示すランプが赤から青に変わった。
福山警視正はそれを確認して銀行の金庫ではないかと思えるような扉のハンドルを回すと、扉が開いた。
「このホールはカメラで撮影していて、人数をカウントしている。そのカウントとIDカードの情報が一致しないとロックが解除されないんだ」
歩きながら、解説してくれる。中に入ると廊下があり、その廊下には扉があるのは普通の事務所のようだが、扉の横には開錠ボタンがついているのだけが違う。
その中の一つの扉の所に来た。
「ここからは一人ずつ入る。まずはそのボタンを押すと扉が開くので、中に入ってIDカードを翳してくれ。すると反対側の扉が開くから。私が最初にやってみる」
福山警視正はそういうと、扉横のボタンを押し、中に入った。すると、扉のところにあるランプが青から赤になっている。
しばらくすると、そのランプが青に戻ったので、反対側に出たのだろう。
「では、桂川くん入って」
星野女史が言うので、福山警視正と同じようにボタンを押すと、扉が開く。
俺がボタンを押すと、前の扉が開く。俺はその扉の中に入ると、入って来た扉が閉まった。目の前のIDカードを翳す位置に、貰ったカードを翳した。
すると、反対側の扉が開いたので出てみると、そこには福山警視正が居た。
「どうだった?」
「いや、凄いセキュリティですね。何度もチェックを受けないといけません」
「そうだろう、ははは」
「ダメだってば、あっ、こら」
扉の向こうから星野女史の声がするが、しばらくするとミイが出て来た。
「ミイ、何かあったのか?」
「いえ、何もありません」
ミイに続いて星野女史も出て来た。
「その子、IDカードを当てずに扉を開けちゃうんですよ、もう」
「へっ、IDカードを使わずにか」
福山警視正が聞き返した。
「そうです。うちのセキュリティをどう思っているんでしょうか」
「ミイ、本当か?」
「はい、そんなカードは必要ありません」
「何、そんな事が出来るのか?」
「一番最初に入る時にセキュリティコードも読み取りました。そこから、ここのセキュリティ構造が解析出来ています」
ミイの言葉に、福山警視正も星野女史も言葉が出ないようだ。
「しかし、そうなると入域者のチェックがされていないことになるぞ」
「そこについても、既に登録済です」
福山警視正が近くの端末に向かって、何かしらの操作を行っていたが、
「本当だ。入域済になっている」
二人は俺たちを見たまま何も言わないのは、呆れているからだろうか。
「思った以上だな、そのミイという子は」
「そうですね、敵に回すとこれ以上の脅威はありません。もしかしたら、中国やアメリカの政府機関にも潜り込めるのではないでしょうか?」
その言葉を聞いてもミイは、ただ黙っている。
「これは思った以上の戦力になるかもしれん。桂川くん、それではよろしく頼むよ。ところで、まず一件、片付けて貰いたい事件がある」
福山警視正が端末を操作すると、そこには事件の内容を記したものが表示される。
「この男は『塚田 翔』といって、当時付き合っていた女性とそのご両親を殺して逃げている男だ。この男のスマホ情報から居所を探し出そうとしたが、それが探し出せない」
「それを探してくれと?」
「そういう事だ」
「事件のあった場所と、その塚田という男の写真とかはありますか?」
俺の質問に星野女史が端末を操作している。すると、先ほどの資料が拡大された。
「場所は栃木県沼田市の郊外、殺された女性は『本山 真帆』22歳の大学生だ。殺した男も同じ大学の学生で、そこで知り合って付き合っていたらしい。
だが、男の暴力とかで、別れ話が出ていたという事だ。それに、こちらの調査ではこの女性には新しい彼氏の存在も分かっている。
そんな訳もあって、女性が別れ話を切り出したのを男が逆上して犯行に走ったということと思われる」
「なんか、最近そんな事件が多いですね」
「そうだな、男も女も小さい頃から我儘に育てられているから、何事も自分の思い通りに行くと思っているのだろう。それが、うまく行かなくなると、気持ちの落とし所が分からなくなって犯行に走るんだろうな」
福山警視正が説明してくれるが、その通りなのかもしれない。
「ミイ、居所は掴めるか?」
「スマホは手放しているようで、そちらからの位置検索は出来ません」
ミイの言葉に、福山警視正と星野女史が頷く。
「顔写真から全国の防犯ネットワークカメラの撮影画像を照合しています。しばらく待って下さい」
ものの10秒ほどだろうか、ミイが黙った。
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