第6話

『いつでも待ってるよ』 


 とは言ったものの、やはり緊張してしまうのは回避できない。


 だが、出来る限り普通に接しないと駄目だろう。


 そう考え、小鳥遊さんが来た時の事を考えていたが、小鳥遊さんがくる気配はなかった。


 今日は特に本を借りにくる生徒はいなかったため、いつもよりも早く図書室を閉め、帰ることにした。


 図書室に鍵を閉めて玄関に向かおうとすると、小鳥遊さんが急いで玄関に向かっているのが見えた。


 俺は妙な胸騒ぎがし、申し訳ない気持ちにもなったが、少し距離を取って着いていくことにした。


 着いた場所は校舎裏。そこには男子生徒の姿があった。靴の色を見ると同じ学年だった。


 俺は建物に隠れ、バレないように見ることにした。


「あの、私を呼んだのはあなたでしょうか?」

「あ、ああ。時間取って悪いね」


 ……もしやこれは告白現場じゃないか?小鳥遊さんは至って冷静だが、男子生徒の方は少し緊張している様子だ。


「ぼ、僕と付き合ってください!」


 そういって、男子生徒は頭を下げる。やはり俺の予想通り告白しようとしていたらしい。


 だが、小鳥遊さんには好きな人がいる。いや、もしかしたらこの人なのか?


 そう仮説を立ててみたが、それはすぐに撤回することになる。


「ごめんなさい。あなたとは付き合えません」


 やはり違ったか。何故か安心してしまっているが、気にしないことにしておく。


「ど、どうして?僕の何がいけない?!」

「私には好きな人がいるので、ごめんなさい」


 なんだか嫌な予感がするな。だがまだ出ていくわけにはいかない。


「く、くそ!せっかく告白してやったのに!」

「きゃっ!離してください!」


 嫌な予感は当たっていた。告白してきた男子生徒は余程自分に自信があったらしく、失敗するとは思っていなかったらしい。


 しかし予想とは違い、綺麗に振られてしまった。早く言ってしまえば八つ当たりだろう。


 俺は直ぐに二人のところに出る。


「おい、やめろ」

「なんだお前は!何しに来た?」


 男子生徒は狙いを俺に変え、こっちを睨んでくる。


「今の一部始終、このスマホに取ってあるけど、どうする?」

「うっ、そ、それは……」


 俺はスマホを振りながら相手に聞く。もちろんそんな映像は撮っていない。冷静に考えればバレてしまうだろう。


 しかし、状況は誰がどう見ても男子生徒が不利だ。そんな状況で冷静になんていられないだろう。


「二度と小鳥遊さんに関わらないならこの映像は誰にも見せない」

「わ、分かったよ!そんな女興味ないよ!」


 そういって男子生徒は走って帰っていった。俺は直ぐに小鳥遊さんの方を見る。


「小鳥遊さん、大丈夫?」

「は、はい。ありがとうございます」

「今日は早めに帰った方がいいよ。友達がいるなら友達と帰った方がいい」


 俺は踵を返し、帰ることにする。


「あ、あの!」


 俺は後ろに手を振り、歩いて帰る。小鳥遊さんをしっかり守れて、いい気分に浸りながら帰っていたため、最後の一言を聞き逃してしまった。


「……やっぱり五十嵐さんは変わらないですね。今の私も、違う私も」


 


 

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