第12話

どこへ着弾するともなく銃声だけを残し弾丸は消えて行った。

利執にとっては信じられない光景だった。

正直な所、兵助の事を気に入っていた。最後にユキの父の話をしてやったのは、せめてもの気持ちだった。己が葬る男へのはなむけだった。

だから無意識に急所を外すような心理状態では無かった。


利執は大抵の場合、片手で銃を撃つ。そのため銃口がブレやすい事を知っている。

だからこそ体の中心を狙って撃つ。少々のブレが生じても命中する様に計算しているのだ。強い北風が吹き付けていても頬をかすめて弾丸が飛び去るなど考えられない事だった。

何といっても兵助は、まるで軌道を知っているかの様に弾丸を避けたのだ。

体の中で最も広い面積は胴体だ。両肩の中心、少し下に狙い定めて打ち込んだ銃弾が頬をかすめて飛んだのは兵助が片膝をカクンと折って沈み込んだからだ。緊張した状態で尚且つ会話の最中に、しゃがみ込むなど偶然に気絶でもしなければ考えられない行動だった。

兵助にとっては戦闘モードに入った時だけに発動する特殊能力だが、ほとんど認識していない。ふと、片膝を折るという信号が勝手に体に届いたから膝を折った・・・それだけの事だった。


まだ銃声が響き渡る村の景色の中で兵助は抜刀しながら突進してくる。それも常人であれば出来ることでは無い。相手は飛び道具を披露したばかりなのだ。

利執は一瞬、呆然となった。

射撃を外したこともそうだが兵助の不思議な能力に魅了されたと言ってよかった。

続けて撃てぬと知っているのか?美しい抜刀術だとも思ったし、一瞬「切られてやってもいいかな」と思ったが考え直した。


利執は後ろへ飛び退いた。その跳躍は背中に目と羽が生えているのか思う程に素早い。





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