5__夕弦

彼が集中して空虚を見つめると教室の空気がガラッと変わった。

いや、変わったというより変えられたの方が正しいかもしれない。

違和感のある変わり方だった。

雑談しか響かなかった教室に隣のクラスの女子がおもむろに口を開いた。

「私、やりたいです」

眼鏡をかけたいかにも図書委員といった感じの彼女。

満場一致で彼女に決まり、そのまま解散になった。

「夕弦帰ろ〜」

「あーごめん、先帰ってていいよ」

適当に言葉を濁した私に眉をひそめつつ、明日ね!と元気良く手を振って帰って行く奏に手を振る。

みんな解散して行く中、背中に視線を感じる。

「決まってよかったな」

「そう……だね」

何か腑に落ちない。

それは相手も同じらしい。

「俺は石動羨斗。君は?」

「雨宮夕弦。さっきのは?」

君が教えてくれるまで言わない、と黙り込んだ石動くん。

恐らく彼は頭がいい。

となると、頭の回転も早いだろう。

_『もし俺と同じなら、』

「彼女は何かしらの力を持っているはず」

呆気に取られた顔をする彼に私の下手くそな笑顔を向ける。

_『相変わらずの』

「引きつった笑み」

自分でも分かってるんだよ、なんて言うと彼は呆れたようにため息をついた。

「なるほどな」

全てを理解しただろう彼。

やはり頭の回転が早い。

「つまり、心を読めると?」

「そう。石動くんは人を操るとかそういう感じ?」

「まあ。人の思考とか行動を支配出来る」

便利だなぁ、と呟くとそんなことない、と即座に否定が入る。

この人、少し面白いかも。

筆箱からメモ帳を取り出して自分のIDを書き、彼に差し出す。

「これ、私のLINEのID。気が向いたら連絡して」

じゃあまたね、と手を振ってそのまま帰る。

次に話すのが楽しみだ。

そう思いながら足を進める放課後の廊下。

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