ラジオ17

『ラジオ17』



 さあ本日もいってみよう。ラジオセブンティーンのコーナーだ。毎度おなじみの紹介になるがこの番組では17歳0ヶ月から17歳11ヶ月までのティーンネイジャーのお便りを紹介していく番組だ。ラジオを聞いてるのは俺達みたいなマニアか、宛もなくのんびりドライブしている老人か、はたまた次に来そうなミュージックを追い求める売れないバンドメンバーだ。おっとまた偏見を言っちまったかな。まあいいや。俺のラジオの良いところは一切台本を作らないことだ。あらかじめ台本を作っておくとそれに縛られて会話がぎこちなくなってしまう。リスナーだって作り物のFAKEは嫌だろう?俺だって嫌だ。ちっちゃいころの話だが、俺はとあるクイズ番組が好きだった。世界中の様々なロケーションにおもむいてそこで美麗な風景とはまったく関係ねえ俗っぽい乱雑なクイズをポンポン視聴者へと投げてくるあの番組だ。エジプトで気球に乗りながらサンクトペテルブルクのパラドックスの考案者を出題するような番組だぜ、格好良いだろう?ああ、ちなみに今の答えはダニエル・ベルヌーイな。まあそれはそれとして俺が落胆しちまったのは司会者の5股騒動とかじゃなくて出演者がみんなヤラセをやっていたことさ。あらかじめみんな答えが分かっている状態で番組の脚本に合わせて壮大な茶番劇を繰り広げていたというわけだ。レギュラーから降ろされたメンバーが週刊誌にそれを証拠付きで告発して、番組は人気が高かったぶんそれなりに大きなニュースになったわけだけど、そんなわけでガキだった俺は幻滅しちまってさ、以降クイズ番組を見れなくなっちまったってわけよ。まあこういうヤラセっていうのはショーを成立させるための潤滑油なわけで、それなしには普通はやっていけないってわけさ。これが大人の世界っつうもんよ。そうした大人の世界に敵愾心を持ったというか反抗的に反骨精神を抱いているのがこの番組なのかと言われると、別にそういうわけでもない。この幼少期のエピソードですら信用しちゃいけないぜ。すべてがFAKEであるがゆえに限りなくREALに近づくっていうことは往々にしてあるわけだし、とりあえずその場が盛り上がれば俺としては上々なわけよ。これは詐欺師がよく使う常套手段だが、とにかく魅力的なダンディな口調で話を盛り上げて、よくよく内容を精査してみれば中身が空っぽってことはよくあることさ。一度人生経験として老人向けの悪徳セミナーへと参加してみたことがある。もちろん変装して年老いたふりをしてな。で、参加した感想だがあれは確かになかなか気持ち良いものだね。こうなんつうか自己肯定感を高めてくれるってやつ?まずは不安を煽って老人たちをソワソワさせるだろ?それからそれに対処するための方法論をジョークを交えて教えていく。しかもただ教えるだけじゃなくて心地良い音楽を流して催眠術を掛けていくってわけよ。俺みたいな30代の思考の冴えた男には通用しないが、ジジババたちにとってはもうディスコクラブに匹敵する刺激なわけよ。それでこう、よくわからない健康食品とかアクセサリーとかを買って、お年寄りは安心を手に入れて、主催者側はお金を手に入れる。あそこには富の再分配とはなんぞやという一つの答えが提示されていたな。だがよ、よく考えてもみろ。君たちはいつも安心を追い求めているが、本当の安心なんてどこにもありはしないんだ。いついかなる理由で死ぬかなんてわからねえし、生存を保証してくれるものなんてどこにもない。ニンゲン一人の命なんてものはどこまでも軽いものさ。インドとかに行けば俺の行ってることが一層分かると思う。あそこは良い国だぜ。さて、前口上が長くなっちまったな。今日のお便りを紹介するぜ。ランダムで選んでいるが、例によって俺は女の子のレターしか返答しないからな。え?これはヤラセじゃないかって?あらかじめスタッフが良質なものを選り分けてくれるんだよ。うちのスタッフはマジで優秀だよ。トマス・ピンチョンのブリーディング・エッジを邦訳前に読んでたくらいだからな。さて始めよう。ペンネーム「ふわふわオムレツ」さん。ふわふわオムレツってハンネの適当さ、俺は嫌いじゃないぜ。まだ本文には目を通していないが、こうして自分がゆるふわ系だということを暗にアピールしているのかもしれねえ。八個前に俺が付き合っていた女もまさしくゆるふわって感じだったな。スパゲッティを作ってと頼んだらフライパンでパスタを炒め始めたからな。あの細長いスパゲッティの麺を火のつけたフライパンでシャラシャラと揺すり始めたのさ。いや、これは嘘じゃなくて本当だぜ。マジで驚いちゃったよあんときは。今まで2ダース以上の女と付き合ってきたが、彼女はマジでぶっ飛んでいたよ。良家のお嬢様だったから自分で料理を作ったことがなかったらしい。彼女の家に一回だけ行ったことあったけど、あれは屋敷だったね。執事が3人くらいいたな。松濤と大和郷に一軒ずつ家があって、それとは別に軽井沢と北海道に別荘があってさ、俺が行ったのは軽井沢だけだけど、それだけであのウワモノだからなぁ。まあ、そんな筋金入りのお嬢様でも頭はゆるふわだったっていうオチだが。おっと、それじゃあ本文に入ろう。パープルさんこんにちは。はい、おはこんばんちわ。パープルさんにお話、というか相談したいことがあってお便りを送りました。おっ、いいね。思春期の女の子の悩みってものは青春の一ページだからな。アオハルってやつだよ。きっとリスナーも聞き耳を立てていることだと思うぜ。あ、話が変わるがアナリティクスでこの番組の視聴者をいっぺん調べたことがあるんだが、実はネットリスナーの大半がティーンネイジャーの男女ってのは俺も驚きなんだよ。ほら、ラジオっていま、FM・AMでの配信だけじゃなくてネット配信もしているだろ?それで一回調査したことがあるんだが、若者のほうがこの番組に対する評価も高いらしい。たぶん俺が干されることも恐れずコンプライアンスぎりぎりのラインを攻めているからかもしれねえな。まあ若いぶん俺に対する嫉妬も少ないからだろうがな。さて……えー、実は彼氏のことで相談があります。彼ピッピね。高校に入ってから今の彼氏と付き合い始めたのですが、最近うまく行っていません。なんというか、チャットとかの返信もすごく素っ気なくて、嫌われているんじゃないかと不安になります。付き合い始めた頃は、あんなに優しかったのに今は会ってもなかなか手をつないでくれません。このまえケーキ屋で一緒にケーキを食べたときも割り勘な、と言われて、支払うときになって、あっやべ財布忘れたわ、と言われて、結局私が全額払ってしまいました。いえ、私がお金を払うのはぜんぜんいいんです。私は彼氏をATMと思うようなひどい女じゃありませんから。で、そんなこんなで彼が優しくしてくれる頻度がどんどん減っています。このまえ私から誘って一緒にホテルに泊まったとき、なあ、いいだろ?と言われて、私はそこで彼に冷たくされるのが嫌で、それでピルを飲んでしました。以前はゴムをちゃんとしてくれてたのですが、最近はそういう、つまり恥ずかしいんですが、ヒニンをしてくれないんです。すいません、個人的な話をペラペラと書いちゃって。ごめんなさい。それで、今回パープルさんに聞きたかったのは、どうして彼が変わっちゃったんだろう?ということです。こんなことを書くと自慢になっちゃうかもしれませんが、私は顔にもスタイルにも自信があるほうです。それにいつも彼に優しくしていたつもりです。彼がバスケの試合でクタクタになったときは、ずっとマッサージをしてあげたこともありました。カルシウムもとってますし、ヒステリックに怒ったこともありません。自分に悪いところがあったんじゃないかって、何度も考えてみたんですが、どうしてもわからないんです。やっぱり、私ってダメな女なのかな。最近は彼氏から冷たく当たられたショックで、咳止めシロップを一気飲みしたりしました。あ、でもとても深刻というわけではありません。まだリスカはしていませんし、彼からDVを受けたわけでもありません。ちょっと冷たいな、と思うことがたくさん増えちゃった感じです(´;ω;`)。パープルさん、私のどこが悪かったのでしょうか? 本当に厳しい口調で構いません。私のことを怒ってください。なじってください。パープルさんの名探偵な分析力で、私の悪いところを列挙して指摘してくれるとありがたいです。よろしくお願いします。うーむ。(お茶を飲む)。あーっと、結論から言うとね。ふわふわオムレツちゃん、君の彼氏ね、浮気しているよ、ぜったい。まあ言うなれば倦怠期ってやつ? たぶんオムレツちゃんはそいつが初めての彼氏?だから分からないのかもしれないけど、たぶんそいつは浮気していることを言い出せなくて、それでもオムレツちゃんを一応キープしておきたくて、そんな態度になっているんだと思うぜ。いや、もうオムレツちゃんは見切られちゃってるのかもしれないな。オムレツちゃんに対してじわじわとそっけない態度を取ることで、オムレツちゃんのほうから縁を切った、っていうことにしたいんだよ。自然解消を望んでいるのさ。つまりだよ、その男ははっきりと別れを切り出すこともできないヘタレ野郎ってこと。フニャちんBOYのFAKE野郎ってことさ。いや、FAKEというより、F××K野郎ってことだ。あ、今の放送禁止用語だったか。まあいいや。で、更に分析するとだな、その男、たぶんMだな。え?どういうことかって?つまりだよ、オムレツちゃんは彼ピッピにいたれりつくせり、優しさの大盤振る舞いだったわけだろ?まあ要するにめっちゃ優しかったと。で、彼氏はだんだんその優しさに物足りなさを覚えていったんじゃないか。その彼ピッピはオムレツちゃんをいじめていたわけじゃないんだろ?それで、彼ピッピは途中で気づいたわけだ。自分はもしかするとマゾヒスティックなんじゃないか、ってな。Mだったってことよ。だからもっと刺激的な女の子を求め始めた。ためしにそいつの後をこっそり付けてみなよ。たぶん勝ち気なSっ気のある女の子と逢引しているはずだぜ。彼ピッピはM、オムちゃんもMだった。これが事件の真相ってわけ。ま、つまるところ、お前さんは悪くないってことよ。まったく、今の若者の貞操観念はどうなっているのか(ため息)。いや、この俺が言えた義理じゃないけどね。ちなみに俺は小学生の頃から、別れると決めた相手には、はっきりと自分の想いを伝えていたぜ。俺はナイスガイだからな。嘘をついたことはないし、浮気したことはない。一度に愛するのは一人の女性だけって決めているからな。えほん。で、子猫ちゃん。本当のダンディな男ってものを知りたくないかい?そこらへんの雑魚オスがボウフラに思えてくるほどのエクスペリエンスだよ。だからさ、結論なんだけど、俺んところに来いよ、子猫ちゃん。あとでDM送っておくからチェックよろしくな。おっと、そろそろ時間だぜ。本日のラジオ・セブンティーンも無事に気持ちよくスパっと終わったな。みんなも世界のあり方についてまた一つ、知見を深めたことだろう。じゃ、明日もまた来てくれよな。バイビー。この番組は、○○カンパニーと△△株式会社の提供でお送りしました。






【Radio Seventeen】is over.



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