微睡み猫は異世界転生の夢を見るか?

『微睡み猫は異世界転生の夢を見るか?』



 夢の中で、彼女は何度も死に続けている。

 僕は彼女を助けようと、何度も何度もチャレンジするけど、あと一歩のところで助けられない。

「ああ、今回もダメだった……」

 いつもの悲しい気持ちと共に、僕は起床して、そして学校に行く。

 彼女が亡くなったのは3年前のことだった。飲酒運転していたトラックに巻き込まれて死んだ。

 お葬式で僕は泣かなかった。泣けなかった。あまりにも唐突で突然な出来事だったからだ。

 無気力になっていたある日、僕は長い夢を見た。そこは草原で、たくさんの羊たちがいた。

「彼女を助けたくはないか?」

 目の前にはいつの間にか黒い羊がいた。不気味なことに、そいつの顔には四つの瞳が付いていた。

「そりゃ、助けたいよ……助けたかった。死んで欲しくなかった」

「では、取引をしよう」黒羊は言った。「これから毎晩、お前は彼女の夢を見る。無数の世界を旅することになる。彼女はいつも囚われている。死の危機に直面している。夢の中で彼女を救え。さすれば、現実を書き換えてやろう」

 それからというもの、僕は様々な世界を渡り歩くことになった。あるときは勇者で、あるときは探偵。あるときは救世主で、あるときは預言者だった。

 でも、いつもあと一歩のところで、僕は彼女を救うことができない。どんなに頑張っても、彼女だけが死んでしまうのだ。

「これは呪いなんだ」僕は言った。「どんなに頑張っても助けられないようにできている。だから本当はこんなこと、何の意味もないんだ」

 でも、僕は諦めることができなかった。

 わらにもすがる気持ちで、無数の試行を繰り返す。

 そのうち僕は自分が誰だか分からなくなっていった。起きているときも、ずっと夢のことを考えているせいか、拒食症になってしまった。高校を中退し、精神病院の閉鎖病棟へと入れられる。

 両親の心配する顔。わずらわしい。僕は大丈夫だって言ってるのに……。

 でも、その環境は僕にとって好都合だった。一日が長く感じられる。いまのうちに作戦を立てるんだ。

 そしてチャンスがやってきた。伝説の剣を使い、僕は夢の中で魔王を倒す。眠り姫も救出した。あとは彼女を起こすだけで、僕の長い旅は終わる。

 時計塔のベッド。僕はオカリナを吹き、彼女を目覚めさせる。

 彼女は周囲を見回して、それから僕を見た。

「わたしのこと、助けてくれたの?」

「そうだよ、だからもう、君はよみがえることができるんだ」

「ううん」彼女は首を振った。「それはできないと思う」

「どうして?」

「あのときね、わたし、仔猫を助けようとしたの。だから、もしわたしが生き返ったら……それは、代わりに仔猫ちゃんを犠牲にすることになる」

「そんな……でも」

「だからね、もうXX君は頑張らなくて良いんだよ」彼女は微笑んだ。「お父さんとお母さん、悲しませちゃダメだよ」

 彼女はそう言うと、ベッドから起き、長い翼を広げて、時計塔から飛び立っていった。

 僕は退院した。症状も改善してきたということで、仮出院が認められたのだ。

 夢もすっかり見なくなった。黒羊の現れる徴候ちょうこうも無かった。

 いま、僕は猫を飼っている。メイプルという名前の猫だ。

 メイプルが日向ぼっこをしながら、ウトウトしつつ、ひげを動かしている。それは天国と交信しているようで、なんとなく心が救われるのであった。








【Does a Slumbering Cat Dream of Transferring to Another World?】is over.


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