レモンウォーズ99’

『レモンウォーズ99’』



「誰かの為に生きられる、なんていうのは、他愛もない幻想に等しいんだよ。」

 剥がれ落ちた消しゴムは寂しげに佇んでいる。

「じゃあ、何の為にぼくたちは生きているんだい?」

「それを捜す気持ちが失われたとき、人は死を受け入れるのさ。」

「受容と諦観?」

「そうさ。不条理な世の中を生き抜くための最も効率的な手段、それがその二つ。」

 Bはロッカーに置き忘れたチョコレートのことを考えている。この暑さではとろけてしまうだろう。まるでゾウリムシのように。

「じゃあ始まりを告げるあの鐘の音は、幻聴に過ぎず、始まりという概念こそがぼくたちを惑わせ、苦しめているってことなのかな?」

「それは答えとして近似しているが、その実際ではない。君が別の事を考えながら、こうして会話という行為に勤しむことが可能であるように、複数の目的が連結されることでもたらされる帰結というモノは、往々にして存在するのさ。四次元的なんだよ。」


 ☆


 かつてその星では戦争があった。

 二つの種族はお互いを憎み、殺し合った。

 憎しみが憎しみを生み殺戮が殺戮を生み、数多の声が黙殺された。

 傍観者は七人。

 それを意図した者が三人。

 四体の強化人間が逃亡を試みるも、最後は捕らえられ、処分された。

 

 ☆


 少年が浜辺を歩いている。帽子を被っており、顔は隠れている。

 彼はあるものを発見した。

 海に黄色い物体が浮かんでいたのだ。

 近づき、それを拾う。

 それは塩水を吸い込み、よれよれになった、美しい色の檸檬であった。

 

 

 

 

 

 

【Lemon Wars 99'】is over.




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